第12話 陽のあたる場所にて闇を追う
ほのかから呼び出されたのは、小山内希と親しくなるよう依頼してからちょうど一週間後のことだった。
「よう、首尾はどうだいお嬢さん」
「上々よ。普通に知り合いになったって感じ。……でも私の印象では本当に幸せそうな主婦って感じで、とても『顔なし女』との契約が続いているとは思えないわ」
「まあ誰にでも表には出さない顔があるだろうし、表面的な付き合いじゃわからないさ」
俺がそう返すと、ほのかは不服そうに頬を膨らませた。
「それでね、今度、ご夫婦が参加しているサークルのバーベキューパーティーに、一緒に行きませんかって誘われたのよ」
「パーティーに?ふう。調査としてはいささか逸脱気味だが、まあいいか」
「他人事じゃないわよ。先生も私の先輩ってことで参加することになってるんだから」
「俺が?」
「社会科の教師で、私の目標ってことになってるから、そのつもりで演技して下さいね」
とんでもないミッションを平気でぶち込んでくるほのかに、俺は閉口した。……この俺が教師だって?いったいどんな授業をしてるっていうんだ。
「できればパーティーのどこかで、私か先生が彼女とさしで話すチャンスを作ろうと思うの。そこで一気に『ヴァンパイア・ピロー』のことを切り出そうかなって」
「えらく乱暴な計画だな。怪しまれたらおしまいだぞ。勝算はあるのか」
「じわじわと質問攻めにしていけば、いずれ我慢できなくなって自分から話すと思うの」
「うまくいくかな」
「失敗すれば青柳逸美の時の二の舞になるわ。やるしかないのよ」
――やれやれ、いつの間にこんな荒っぽいやり方を覚えたんだ。
俺は知らないうちに主導権を握られたことに狼狽えつつ、俺は助手の意外な『成長』に目を瞠った。
※
数日後、俺とほのかは少し張り込んだ差し入れを手に、ファミリーキャンプ場へと向かった。
「やあ、お待ちしてました。はじめまして、小山内です。大学病院に勤務する医師です」
希の夫、小山内博はがっしりしたスポーツマンタイプの男性だった。
「はじめまして、木羽といいます。……お医者様だったんですか」
俺は差し入れの食材を調理台の上に置くと、如才ない笑みをこしらえた。
「いやあ、落ちこぼれですよ。……すみませんが火を起こすのを、手伝って頂けますか」
「ええ、もちろん。借りているコンロの場所を教えて頂けますか」
俺たちは小山内夫妻の後について、キャンプ場の中を移動し始めた。どうやら出だしは順調のようだが、これはただのパーティーではない。俺は自分にそういい聞かせつつ、ちゃんと教師に見えるよう、強張りかけた表情を緩めた。
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