第11話 殺しの輪に忍び込む女
「そうですか、やはり犠牲者が出てしまいましたか」
俺の話を聞き終えた万象は、感情のない瞳で宙を睨んだ。
「あんたの話だと『顔なし女』は全部で四人。そのうちの二人が役目を終えて灰になったってわけだ」
「そういうことになりますね。残る二人が連絡を取り合い、どこかで会っていれば説得することも可能なのですが、まだ追跡中で行方を掴めていないというのが実情です」
「標的と思われる女性で、わかっている人が一人いる。その人をマークした方が早いとは思うんだが、青柳逸美にはまんまとしてやられたからな。正直、自信がないぜ」
「被害者の方たちと『コーディネイター』を取りもった『ヴァンパイア・ピロー』というサイトがあるのですが、かつての登録者を何名か掴んでいます。うまく連絡が取れれば『顔なし女』に行きつけるかもしれません」
「そっちの方はあんたに一任するよ。俺はとにかく三人目の『標的』に当たってみる。なんとしても次の犠牲者だけは防ぎたいんだ」
「お察しします。私ももし『顔なし女』とコンタクトすることができたら、次の犯行を思いとどまるよう、説得してみます。もし、聞き入れてもらえないようなら……」
「どうするんだ?犯行前に通報したって警察は動いちゃくれないぜ」
俺はつい、警察官の頭で異論を唱えていた。
「灰になってもらうしかないでしょうね」
「たちの悪い冗談はやめてくれ。……次に会う時はいい知らせを期待してるぜ」
俺は己の無力さを噛みしめながら、万象の研究室を後にした。
※
「小山内希……二十六歳の元、国語教師で現在は主婦。過去に『コーディネイター』らしき人物と接触した形跡あり、か」
「この人は青柳逸美と違って、秘密めいたところはなさそうよ。ご近所づきあいも普通にあるみたいだし、自殺ほう助のサイトに登録してたなんてちょっと信じがたいわね」
「そういうもんさ。でも『顔なし女』が標的として仄めかしてるってことは、かつての契約が有効だってことだ。社交的な振る舞いもあるいは仮面かもしれない」
俺はそこまで言うといったん言葉を切った。
「そこでだ。今回は、君に彼女の調査を一任しようと思う」
「わたしに?」
「そうだ。あからさまに調査員として接するのではなく、ごく自然に友人になって欲しい。時間は多少かかっても構わない」
「難しいミッションね。……でもやってみるわ。国語教師志望の教育大生って感じがいいかしら」
「任せるよ。何か気になる動きがない限り、報告は一日一回でいい」
「……で?仲良くなったら次はどうするの?さりげなく『顔なし女』か『コーディネイター』の情報を聞き出す?」
「それには及ばない。心配なさそうだったら調査はいったん中断していい。気になる動きがあるようなら……」
「どうするの?」
「俺が直接会う。今度だけは何としても悲劇を防ぎたいんだ」
「わかったわ。じゃあ早速、明日から取り掛かるわね」
「頼む。君なら向こうも多少は安心するだろう」
「そうね。能力はともかく、人相は先生ほど悪くないって自覚があるわ」
俺はほのかの軽口を「その調子だ」といなした。今の俺にとって、ほのかの若さと明るさは最大の武器なのだった。
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