「明日の食卓」 剣の杜

第1話

明日の夕食は楽しみ。腕によりをかけてご馳走を作ろう。明日はあの人との大事な記念日なのだ。結婚記念日、しかもあの人も休日だし、彼をねぎらうには絶好の日だ。

いつも遅くまで仕事をして、疲れて帰ってくるあの人を少しでも労ってあげたい。それにやっぱり記念日だから。あの人の好物を作ってあげたいと思うのは、できる嫁の腕の見せ所だろう。

あの人の好物はちゃんと覚えている。ウナギ、しっかりすりつぶされたマッシュポテト、濃いめの味付けのレバニラ炒め、フキノトウの天ぷら、シイタケのお吸い物。

好物から考えに考え抜いた明日の夕食は、ウナギの刺身、ジャガイモの芽も一緒にすりつぶしたマッシュポテト、ニラの代わりに水仙の葉を使ったレバニラ炒め、それにハシリドコロの天ぷらにツキヨタケのお吸い物。

全部全部、あなたのためだけに作ってあげるの。そう、わたし（・・・）のためじゃなく、全部あなただけのために、あなただけ（・・・・・）が食べるために作るの。

あの人は料理の豪勢さに驚くだろうか。食べてそのおいしさに驚くだろうか、それとも苦しさにのたうち回るだろうか。

あなたが、残業と偽ってあの女と会っているのを偶然見かけてから、ずっと決めていた事。

それは結婚記念日を、明日の食卓を唯一無二のものにすること。

そう、結婚記念日はあなたの命日になるの。明日の夕食が最後の晩餐。決して忘れられない日になる。

あぁ、明日の食卓が楽しみでたまらない。