剣姫カレロナ

消えた英雄

 目が覚めると、そこはいつか見たフォクスの部屋だった。私はディスペアに助けられた後、ほぼ記憶がない。それでも、辺りを見渡して彼の姿がないことが分かると、自然と悟ってしまう。英雄はもういないと言う事を。


 「目が覚めたんだね。カレロナ」

マルセイが私の顔を覗き込むように、しゃがんでそう言ってきた。

「う、うん。もう大丈夫」

「そうか……」

マルセイは少し安心したような素振りを見せたが、そこから何も喋るような事はしなかった。私もマルセイと何話せば良いか分からないし、そもそもよく考えればマルセイの事をあまり知らないのでは?…とは言ってもこのまま沈黙が続くのも辛いし……。そんな時間が過ぎていると、奥で怪しく座るフォクスが見兼ねたのかこう言った。

「いやはや……。まさか『剣姫』とも呼ばれるような貴女が、あのような奴に後れを取るとは、意外でしたね」

『剣姫』わざと強調してフォクスは言った。ディスペアの時もそうだったけど、やけに苛立つ話し方ね……。あれが天性の物だとしたら、きっと性根がねじまがっているのね。まあ違うと思うけど。

「あの時は疲れてたの。ろくに食事も取ってなかったんだから」

「ほほう、そうですか。やはり食事が大事なんですねえ……」

「……何よ。そこまで反芻するところ?」

「いえ別に。彼の存在も大きかったんじゃないですか?と思っただけです」

「くっ……こいつ……!」

思わず口からきつい事を言ってしまいそうになったけどふと思いとどまった。フォクスの言うことは間違いじゃないのかも知れない。確かにあの時の彼は、ちょっと怖かった。人を殴り、刺し、殺さなければ良いと思っているその行動が受け入れがたかった。もしかしたらとうの前に彼は変わってしまって、あの頃のような彼には戻れないのかもしれない。

「――あれ、もしかして当たっちゃいました?適当に言ったんですけどねえ」

「おい」


 ――このフォクスの部屋に滞在してしばらくしても、彼らは何もすること無く暇を潰していた。

「ねえ、これから私たちどうするの?もうロヘニアにいく必要は無くなったけど」

魔道書を読んでいたマルセイが言う。

「どうするもこうするも、今君たちの故郷に向かうところさ。あー…何て言ったっけ」

「ルインの街の事?」

「そうそう。あのでかい城があるとこだ。そこに向かってる」

「いや何もしてないけど……」

マルセイがフォクスの方に目を向ける。フォクスは禍々しいオーラを出して寡黙に座り続けていた。マルセイが小声で教えてくれる。

「ああやって時空を移動するらしいんだ。体力を多く消費するから、静かにしないと怒るよ。彼は集中すると意外に短気なんだ」

マルセイはフォクスをからかうように言った。ところで窓も何もないから確認のしようがないけど、外はどうなってるんだろう。まず私たちはどこに居るの?――いや、考えるのはやめて静かに待つしかないか……。


 「おーい。着いた。着いたんだよね?……うん、着いたって」

マルセイがうるさい。気付けば寝てしまったらしい。部屋を見渡すと、さっきまでにはなかった扉が付いている。一番にフォクスが扉を開け、外に出た。マルセイも続いて出る。

「あっ。ちょ、ちょっと待って!」

少しくらい待ってくれても良いのに。私はその扉から出た。すると、私は広がる景色を見て愕然とするのだった。


「ここは……ルイン……?」

それは私たちが逃げて、見捨てた故郷の街が、目の前には広がっていたのだった。

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