無法地帯への道
「はあ、ここから先、どう登るんだ?」
俺たちは今、丁度山の真ん中辺りに来ている。しかし、どうにもこの先進めそうな気がしない。何故なら、目の前には荘厳とそびえる崖があるからだ。
そもそも山を登っている途中からおかしいとは思っていた。山の麓は多くの木が生えていたというのに、上に上がる程木々が少なくなっていく。遂には禿げ山の様な殺伐とした光景が広がっていった。それでも進めそうな道はあったし、坂も緩やかなので気にせず進んでいた。すると急に平坦な道が出来ていた。まあその時からかなり見えていたし、薄々勘づいてはいたが、そこに立ち、前を見ると、何とも立派な地層が見えていたのだ。
「どうする?引き返すかい?」
マルセイが俺の方を向いてそう言う。「もううんざり」と言った顔だ。
「そうだなあ…こんな崖登れそうにもないしな」
そう言うとカレロナが耳元で大きな不満の声を漏らした。
「ちょっと、じゃあ無駄足ってこと?勘弁してちょうだい、一体何の為にマルセイに着いてきたと思うのよ」
「言っている事はもっともだよカレロナ。しかし俺たちに他の道は……
その瞬間、大きな爆発音が聞こえた。地を揺らし、麓の鳥が羽ばたくほど大きく、衝撃的な物だった。場は静まり返り、皆の顔に危機感が宿った。
「…なあ、ディスペア。見に行ってみよう。何か危険な感じがする」
マルセイが真剣な表情で俺を見る。俺は頷き、その爆発音がしたであろう場所に向かうことにした。
かなり走っただろうか、急に目の前の道が途絶えた。きっと爆発が起きたのはここだろう。そこには抉り取られたかの様な爆発跡が見受けられ、崖の方には大きな穴が空いている。これはつまりあちら側、つまりはアーダン国がしたことだと見て取れる。しかしそんなことは…。
「違反行為だな」
マルセイも同じことを考えていた様だった。
「少なくともこの山はアーダン国の物ではない。そこを爆破したと言うのならば、それは俗に言う喧嘩を売るっていう行為だ」
マルセイが穴の中を除きながらそう言った。そしてまた新しい発見をしたようだ。
「お、どうやらここ廃鉱らしいな。きっとまだ土地の権限が甘かった時代だ」
中には線路や、腐った木の柱など、まさに廃鉱と言った感じだった。
「ねえ、何でこんな事したのよ?わざわざ廃鉱の奥まで行って、わざわざ爆発物を作って喧嘩を売る事あるかしら?」
カレロナは理解しがたい様に言った。
「いや、きっとこれは国がしたんじゃない。…おそらく民の逃亡が目的だ」
「アーダン国は工業の発達に目覚ましい物がある。今海を渡っている船や、旅人が好んで使う防具。魔法を使った武器何かも最近は有名だ。しかしその裏には労働を強いたげられる奴隷がいる。労働者がいるんだ。環境も悪ければ生活も悪い。逃げたくなる気持ちも分かるさ」
…なる程な、道理で危険な国になる訳だ。思っていたより危険な旅になるかもしれない。
「よし、折角だからここを渡ってアーダンに行こうか」
マルセイは軽い身のこなしで廃鉱に入った。
「あっちの国にバレたらどうすんだ?」
マルセイは悪い顔をしてこう言った。
「なに、そもそもこんな道を作ったあっち側に非があるんだよ。ほら、さっさと行こう」
…本当に危ない旅にならないことを願う。
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