藤崎 鈴

零の話

 「私たち 別れよっか」



 何度目かの恋が途切れた。

終わりの気配はどんなときも、満面の笑みを浮かべながら僕に殴りかかってくる。


 「今までありがとう、ごめん」

引き留めたところで、もう終わってるんだ。何をどうしたって意味ないや。

だから、とにかくごめん。

 

「すぐ謝るの、最後まで変わらないね」

 

 そうだよ、僕は変われない。

たとえ贖罪の言葉が罪ではなく、自分自身を滅ぼしているとしても。



        ✳︎ ✳︎ ✳︎



 幼い頃から口下手だった。自分の心を表す言葉が見当たらなくて、いつも不満だった。


 心に浮かぶことは沢山あるけれど、口に出してしまったなら最後、他人の入れ物で成形されて、別のものに変わってしまう。

物事を伝えるって、結局そういうことだけど。


 大きくなってスマホを手に入れたときも、即答を求めてくる世界が増えただけだった。

テキストボックスで踊るのは、文字ではなく僕の方。いつも何かに負けている。



        ✳︎ ✳︎ ✳︎



 いつしか僕は、謝ることを覚えた。

ひたすらに自分から逃げる。戦いから降りて、相手を受け入れたつもりになる。

これほど楽なことはないと、そう思った。


「なんかごめんね。」

……本当は、何も悪くないけど。

麻薬の言葉は、飲み込んだ言葉の後味を忘れさせてくれる。

みんながいいならそれでいいよ。



        ✳︎ ✳︎ ✳︎



 本当は、こんなことやめたい。

無理をして笑った顔が、醜くて仕方がない。

空虚な謝罪が視界をくすませて、僕は世界が分からなくなった。



もしも、

天性の物書きのように言葉が出てきたなら。

教祖みたいに大きな声でモノが言えたなら。


……そしたら、何か変わってたかな。



        ✳︎ ✳︎ ✳︎



本当は、なんて言うなよ。

ろくに向き合ったこともないくせに。




そんな言葉を、誰かが囁いているような気がする。



だけど。



だって、大人じゃないからさ、



やっぱり、僕はそう答えるしかないんだ。

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