第6話欲
「うぃーす、ってどしたその格好」
「気になるぅ?」
「いやまぁそりゃそんな格好してりゃな」
俺が再びリマインドに入るとミラがサングラスにピエロの紋様がついたハットを被った
、中々陽気な格好をしていた。
これを聞かずにはいられまい。
「ふふふ、これは白石市の百円ショップで貰ってきたんだ」
そう言って堂々と胸を張るミラ。
けどそれって·····
「ミラって他の人には見えないよな、ってことはそれ全部盗んできたってこと?」
「····················」
ミラは俺が聞くと身を逸らして、静かにサングラスとハットを脱ぎ、そして何事も無かったようにこちらを向き
「じゃあ昨日の話の続きをしようか!」
「おい、誤魔化すな」
「·····だって、だって!楽しめって言ったの湊じゃん!」
ミラは駄々をこねる子供のような語彙力で言い訳をする。
「いや、言った覚えはない·····はぁまぁいいや、ところでさミラのさっきの格好って現実世界のものだよな、それってこの世界にも反映されるのか?」
「うんそうだよ、現実世界で寝る時に身に付けていたものはリマインドにもちこめる、反対にリマインドで意識を失う前に身につけていたものは現実世界にもちこめる、まぁ死神の場合はいつでもリマインドに来れるからどんな時でも現実世界の物を持ち込めるんだけどね」
いそいそとハットとサングラスをどこから取り出したか分からない袋に詰め込んでいたミラに俺が聞くとミラは俺の方を見て軽い口調でそうこたえた。
「マジかよ!」
なんだよそれ、仮想のものが現実のものになるってのか、だから俺の今の格好もパジャマのままなのか、ははすげー。
「ふふ、湊は本当にいい反応するなぁ、見てるこっちが楽しくなってくるよ」
ミラはいたずらっ子のように俺に笑いかけた。つい俺はその笑みに心が揺さぶられた。
それを誤魔化すために話を変える。
「と、ところで今静香がどこにいるか分かるか?ちょっと聞きたいことがあってな」
「うーん、ちょっと待ってね、あ!いるね北西四百メートル方向の公園に静香ちゃんはいる周りに夢鬼はいないみたい」
「OKじゃあ静香の元まで行こう」
「うんそうだね」
そして俺達は散らかっている部屋をでて、静香の元まで歩き始めた。
「なぁ、そういえば昨日言ってたランキングとか、他のプレイヤーとか妖力についてとか諸々教えてくれないか?」
俺は静香のいる公園に向かう途中、ぐにょんぐにょんに曲がった道路を忌々しそうに見つめ俺の先を歩き先導しているミラに世間話の代わりでもと思い話しかけた。
「うん?いいよ」
振り向いたミラはあっけらかんとした様子で答えた。
「まず最初にプレイヤーについて話すね」
「プレイヤー、って言うのは湊と同じ人達の事ね、そうだねリマインドには今一万人以上のプレイヤーが存在していると思う」
「そんな多いのか」
「うん、そしてそのプレイヤー達にはランキングというものが付いていて、そのランキングは妖力の大きさで決まる、湊の今のランキングも見ることができるよ」
「え?どうやって?」
「それは死神協会本部に行かなくちゃならない、死神協会本部はリマインドにあるけどここからだと結構遠いんだよなぁ、それにランキングなんて見た所でなんの得もないしね」
「ふーん、その協会ってのは死神達が仕事してる所なんだろ?多分」
「うんそうだね」
そしてミラは立ち止まった。
その立ち止まる姿さえ美しく見えてしまった。
「どうした?急に止まって」
「んー?湊に妖力で為せることを教えてあげようかなって思ってね」
「?、あれって·····まさか」
微笑しながら俺の後方を見つめるミラにならい俺も後ろを見てみる。
そして視認した。昨日のイノシシ程の大きさはないにしても、普通だったら考えられないほど巨大な狼を。
「おい!やばいって早く逃げよーぜ!」
俺はミラの左手を必死に引っ張る、しかしミラは微動だにせず、ずっとそこに立っていた。
「おい、ミラってば!!」
「すぅー、ふっ!」
俺が動こうとしないミラの肩を揺さぶった瞬間、息を吸ってはいたミラの体から溢れんばかりの金色の光が出てきた。
「うぉっ!?」
「よし、出来た」
その後とんでもない爆風により、俺は吹き飛ばされ、ミラの周りを大量の砂埃が舞う。
悪い視界の中何とか目を開けようとする。
砂埃が舞うその中心に微かに赤い炎が見えた。
そしてその砂埃が治まった後、元々ミラがいた場所には魔法少女がたっていた。
「は、はぁ!?」
「ふふ、びっくりした?」
魔法少女と言ったが、これは比喩でもなんでもなく、正しく魔法少女がそこにたっていたのだ。
ピンク色のフリル付きワンピースに魔法のステッキらしきものを持っていた。
これを魔法少女と言わないでなんと言う。
そしてその魔法少女は俺に薄く笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「ミ、ミラなのか」
「うん、そうだよ、正真正銘君のパートナーである死神ミラですよぉー」
俺をからかうように間延びした声で、魔法少女ことミラはそう答えた。
「え、いやなんで、そんな格好·····」
「これが、私の妖力で顕現出来た”欲”の一つ、魔法少女化って言うんだけど、まぁそこで見ててよ」
そう言ってからミラはこっちに凄い勢いで近づいてきている狼型の夢鬼に向かって手に持っているステッキをかざし
「”ブロウ”」
と言った。
その瞬間そのステッキから人体に害を及ぼす程の風が飛び出た。
その風は夢鬼に軽くはない切り傷を多数つけた。
「”フレア”」
そして追い討ちと言わんばかりにミラはそう続けて言った。
するとステッキから激しく燃える炎が飛び出た。
そしてその炎は夢鬼を容赦なく焼き尽くした。
「あが·····チートだろ」
俺は外れた顎が治らない程に驚愕していた。いつもあんなおちゃらけた様子のミラがまさかこんなにも強大な力を持っていたとは夢にも思わなかった。
「チートでもなんでもないよ、これが私の”欲”なんだから」
「さっきから思ってたけどその欲ってなんなんだよ」
「妖力によって作られる能力みたいなものだね、人は誰しも何かしらの欲を抱えて生きている、私みたいに魔法少女になりたいだとか、医者になりたいだとか、英雄になりたいだとか、そしてそれらをリマインドにて現実化できるのが妖力であり、その欲によって出来た能力のことをそのまま”欲”って言っているだけだよ」
「·····俺にもそんな力が手に入るのか?」
「うん、君が本当になりたいもの、渇望しているもの、憧れているもの、その全てに妖力は答えてくれる、問おう君の欲はなんだい?」
そしてミラは俺の全てを見透かしたような瞳でそう言った。
俺の欲·····俺のなりたいもの·····俺がなりたかったもの·····
『父さん!俺ヒーローになりたい!』
「っ!」
それは昔、父さんが生きていた頃、俺がなりたかったものだった。
馬鹿で無謀で考え無しなその願望は俺が心の奥底で隠していたものだった。
それを今思い出した。思い出してしまった。
その無茶な願望が俺の父さんを殺したあの日の事を·····
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
俺は頭を抱え握りつぶすように指に力を入れる。必死に俺の心で燻る願望を握り潰そうとする。
「湊!湊!ねぇ湊ってば!」
誰かに体を揺さぶられている気がする。
「はぁっ!はっ、はっ、はっ」
「大丈夫なの!?湊!」
誰かが大声で何かを言っている。
しかし、俺の願望はまだ残っている。消さなくてはならない。
「湊のバカぁ!」
パチンとキレのように音が俺の頬から聞こえた。
「え?」
俺は横に向けられた顔を頭を抱えていた手を解きながら元に戻す。
すると正面にいたのは少し怒り気味になっているミラだった。
「私は湊の専属死神、つまりパートナーなんだよ、だから辛いことが私に言って、話ぐらいは聞いてあげるから、だからそんな顔しないでよ」
「あぁ、ごめん、けどもう大丈夫だ」
「ホントにぃ?」
「ほんとだって」
俺の顔を下から覗き込むように見てきたミラに対して俺はそのミラの顔を手で阻んだ。
「もう大丈夫だから」
「はぁ、もう心配かけさせないで!」
俺が改めて笑顔を見せると
ミラは口を尖らせてそっぽを向いて若干強めの口調でそう言った。
「なんか湊に欲のことを聞くのは良くないみたいだから、湊の欲について考えるのは明日にしよっか、明日はメンコも暇だろうし」
「メンコって誰だ?」
「ふふ、それは明日へのお楽しみだよ、とりあえず今は静香ちゃんの所に行こ」
「うーん、気になるが·····まぁいいや今は静香の安全が第一だからな」
そして俺達は止めていた足を再び動かした。
そして今日も俺は自分の願望を押し殺して、見ないふりをした。
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