第二章
第5話『嫌な記憶……』
先生が教本をまとめながら、
「では、皆さん今週の授業は以上になります。座学テストも無事皆さん合格点で一安心しました。来週からは皆さんお待ちかねの実技授業が本格的に主体となってきますので、各々必ず復習するなり体を動かしておいてください。もちろん怪我をしたら、怪我が治るまで別室にて座学授業になりますので覚悟しておいてください。それでは皆さん、さようなら」
先生の退出後、クラス中が歓喜の声で溢れ返った。
待ち遠しかったのだろう、先生がテストの結果が安堵していたのはきっとそういうことなのだろう。
「
凝り固まった体を伸ばすようにしながら、隣席の
「いや、そういう類のものはやってない……かな」
「そうなんだ。僕は毎日トレーニングなんだよねー」
「その口ぶりだと、何か訳あり?」
「そうそう、親の方針でね。なんだかんだ小さい時から木刀で素振りだの、いろんな事やらされてるんだよね。はぁ……今日もこれから家でトレーニングだなぁ……」
「ご苦労様」
他所の家庭に口を出すつもりもない。
その口ぶりから察するに、面倒だとは思っていても本気で拒絶しているわけではないみたいだし、桐吾なりに目標を持って取り組んでいるのだろう。
……実技、か……。
この単語につい体が反応してしまう。
自然と目線は下がり、腕に力が入り震える。握った手の中には爪が食い込む。
気にしてないと心では唱えていても、存外脳裏に焼き付いていて無意識に反応してしまうということか――。
――この反応は過剰ではない。嫌な記憶が蘇る。
優しい言葉で近づいて来て、その言葉に釣られるようにパーティに入れば、
「パーティのお荷物は、俺たちの荷物持ちにでもなって役に立ってくれよ」
「俺たちダメージ食らったから、その精一杯の回復スキルで回復してくれよ。それくらいしか役に立たないんだから」
浴びせられた言葉は数えきれない。
僕には逃げ道がなかった。
授業のカリキュラム的にもそうだし、なにより戦闘する手段を持たないアコライトは、パーティに入るのが絶対条件になっているからだ。
避けたくても避けれない現状に、耐え続けなければならなかった。
「
「い……いや、なんでもないよ」
僕になにができるわけではない。
それら浴びせられた言葉に間違いはないと思う。
もしかしたら、ここの人たちもただ知らないだけかもしれない……。
◇◇◇◇◇
帰宅後、居間のソファーで寛ぎながら
「うっわー、しーくん満点じゃん」
「
「いやいや、満点かそうじゃないかってかなり大きいよ」
何気ない会話を進める中、海原先生の言葉を思い出してた。
「そういえば、そっちのクラスも来週から実技?」
「うんそうだよー。……ってことは、もしかしてっ」
「そう、そういうこと。この後どうかな?」
「うんっ! やろやろっ、じゃあじゃあ、みんなのご飯は温められる物にしてー……よーし、そうと決まれば早速作らなきゃ! しーくんは先に準備しておいてねっ」
妙に気合の入った守結姉は台所へ飛んでいき、晩御飯の支度を開始。
「じゃあ、先に下行ってるね」
「うんっ。私も料理しながら準備運動しておくね。張り切っちゃうぞーっ!」
そんな器用なことができるものだろうか。手際の良さを知っているから、怪我の心配はいらないだろうけど。
自室へ向かおうと廊下を歩き始めると、
「たっだいまー」
「ただいまです。くんくん――なにやらいい匂いがします」
「あっ! しーにいだっ」
玄関で
「今日の晩御飯はチキンソテーと予想をします」
「しーにい聞いてよっ、来週は実技の授業が入るんだって。だから、色々教えてほしいことがあるの」
「はっ! そうなのです。それを言いたかったんです」
「わかったよ。じゃあ、これから下で守結姉と演習するつもりなんだけど、見学――」
「やりたいっ!」
「やりたいです!」
最後まで聞かずに、前のめりで息ぴったりに食いついてきた。
見学程度の提案だったけど、こうもやる気に満ちた表情をされると断れない。
「手早く準備を済ませて下に行こうか。守結姉も晩御飯の支度が終わったら来ることになってるから」
楓と椿の元気の良い返事を最後に打ち合わせは終わり、3人で階段を上がろうとした時、上から兄貴が降りてきた。
「おー、3人ともおかえり」
「ただいま。あれ、ランニングでもしてくるの?」
「いやさー、休み明けから実技の授業あるんだよ。今日、実技のレクリエーションがあったんだけどさ、体が思うように動かなかったから、これから下に行って思いっきり体を動かそうって思ってな」
「あー」
こうして、2人だけで行うはずだった演習は兄妹全員でやることになった。
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