第30話 幕間 〜 一ノ瀬瑞希
私は着替えを一通り準備しスポーツバッグにまとめて、玄関から家を出た。
これからお隣の晃君の家で、お風呂を借りなければならない。
はあ、ホント恥ずかしい。
引っ越してきて間もない風呂釜。空き家の時は点検なんかもしてなかっただろうから、壊れることがあるというのは理解できる。
「ても、私の身に降りかからなくても・・・。」
カーポートの横を通り、我が家と同じデザインのドアの横のインターホンを押した。
「瑞希ちゃん、勝手に入ってきて。」
晃君のお父さんの声だ。
「お邪魔します。」
晃くんの家の匂いは、私の家とは違う。
私の家は全体的にフローラルの香り。柔軟剤や芳香剤を私好みの香りにしているからだ。
晃君の家は・・・芳香剤は置いていないし、香りの強い柔軟剤を使ってる感じでもない。
でも優しくて落ち着く匂い。
結局、匂いの正体を突き止めることはできず、私は「その家独自のに匂い」と結論づけた。
「瑞希ちゃん、オムライス美味しかったよ。」
晃君のお父さんが食器を片付けながら、さっき作ったオムライスの感想を言ってくれた。
「美味しいって言ってもらえて、良かったです。」
テーブルの上にオムライスがひとつ残っている。晃君はまだ帰ってきていないのかな?
「瑞希、お風呂が沸いてるから先に入って良いって、一ノ瀬さんが言ってたぞ。」
上品な晃君のお父さんと違い、酔っ払って真っ赤な顔をした私のお父さんが、ソファでテレビを見ながら私にそう言った。
お父さんはお酒が好きだけど、ビール2本で見事に酔っ払うほど弱い。
娘の立場としては、せめて同級生の家で酔っ払うのだけはやめてもらいたいのだが、なぜだか出会ったばかりの晃君のお父さんと意気投合してしまったようた。
「お風呂、先に頂きますね。」
さすがに同級生が家にいる状態でお風呂に入るのは恥ずかしすぎるので、晃君が帰宅する前にお風呂に入ってしまおう。
私は急いで脱衣所に向かい、ドアを開けた。
次の瞬間、私の中の時間、正確には私ともうひとりの中の時間が止まった。
なんと、脱衣所にいたのは・・・。
あ、晃君?!
え?まだ帰ってきてなかったんじゃなかったの?
そんなことより、晃君の姿・・・ワイシャツも、ズボンも・・・パ、パ、パンツも履いてない。
何で裸なの?!ヘンタイなの?!
私の思考回路は完全にショートした。
そして、私の視線は自然と下の方に移動して・・・。
ダメ!瑞希!見てはダメ!
「きゃーーーー!!」
私は手に持っていたスポーツバッグを力いっぱい晃君に投げつけていたのだった。
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