第21話 交錯する想い(3)

 食事どきともなれば学食は学生でごった返す。

 生徒の半数ぐらいは弁当を持参していると思われるが、短い昼休みを有意義に過ごすため、我先にと学食に足を運ぶ生徒が多いからだろう。

「晃!大和!こっちこっち~。」

 先に食事を受け取った勇斗が、窓際の席で手招きしている。

「よくこんな良い席が空いていたな。」

 大和が勇斗の隣に腰掛けながら驚きの声を上げた。

 高校生の昼飯などそれほど時間がかかるわけではないが、やはりロケーションを大切にする生徒は多く、窓際の校庭を眺めることのできる席はすぐに埋まってしまうことが多い。

 事実、勇斗が確保した以外の窓際の席は、既にいっぱいになっていた。

 今日の僕のお昼はカツ丼。

 カツに薄めの肉を使っているのは残念だが、それはコスパ上の企業戦略と言うべきだろう。たっぷりの玉ねぎと一緒に出汁の染み込んだ卵で綴じたその味は、肉の薄さを補って余りある仕上がりを見せ、男子高生のお腹も満たしてくれるボリューム満点の一品に仕上げている。

 カツ丼は間違いなく、僕の学食ランキング1位に君臨する王者だ。

「晃、そのカツ丼って肉薄いよな。」

「そうそう、衣に汁吸わせて誤魔化してる感がスゴイ。ある意味職人技だな。」

 な、なにを?!

 勇斗と大和が口々に僕のカツ丼を非難した。

「そんな事、言うなよ。僕はこのカツ丼を愛してやまないんだから。」

 何故楽しいはずのランチの時間に、こんなにも悲しい気分にならなければならないのだろうか。

「それを言ったら、勇斗のスパゲティはノビノビだし、大和のカレーは肉が入ってないじゃないか!」

 450円のカツ丼に対して、スパゲティは330円。カレーに至っては290円と激安。

 クオリティでカツ丼が負けるはずはない!

「伸びてたほうが、腹に貯まるしな。」

「肉はカレーに溶けてるんだろ?」

 ダメだ。この味音痴には、何を言っても無駄なような気がする。

「話は変わるけど、さっきの授業中、晃はマッスルの声に気づかないほど何を考えてたんだ?」

 勇斗がスパゲティを噛みながら口を開いた。

「汚ないな、ちゃんと飲み込んでから話せよ。」

 勇斗の正面に座っている僕は、モロに口の中が見えてしまう。

「ははっ、ゴメンゴメン。それで、何を考えてたんだ?」

「別に何ってことは無いけど、今年は海で何しようかなとか、色々と。」

「分かった!瑞希ちゃんの水着姿とか想像してたんだろ!このスケベ!」

「そ、そんなんじゃないよ!だいたい何で瑞希が出てくるんだよ。」

 思わず声が大きくなってしまった。これでは学食を使用している生徒たちに「僕はスケベです」と言って回ってるようなものだ。

「でも、あそこで終業のチャイムが鳴ったのは奇跡だよな。」

 カレーを食べていたスプーンを‘’ピンッ‘’と立てて、大和が口を開く。

 確かに、あそこでチャイムが鳴らなかったら、どんなペナルティを課せられたのかなどと考えるとぞっとする。

「あのっ!すいません。」

 話に夢中になっていたら急に話しかけられ、僕達3人は同時に声の主の方を向いた。

 3人に同時に注目されたからだろうか。声をかけてきた生徒は、一瞬萎縮したような表情を見せた。

 胸元にしっかり巻いたリボンの色は紺。

 どうやら声をかけてきたのは、1年生のようだ。

 茶色く染めた髪を2つに結び、顔を赤らめ俯いているその姿は、紛れもなくアレだろう。

 となると僕と勇斗は関係ないな。

 勇斗も僕と同じことを感じたのか、スパゲティをミートソースに絡めて口に運び出した。

「木村先輩!あの、これ!」

 案の定、彼女の目当ての相手は大和だ。

 学食を使用している生徒が振り向くような声の大きさでそう言い大和に差し出されたのは、中にラブレターが入っていると思われる可愛い封筒。

「えっと、これは・・・。」

 戸惑いながらも大和が手紙を受け取る。

 このての手紙は何回ももらっているはずだが、やはり直接渡されると戸惑うものなのだなと、妙なことに感心してしまった。

「今日、待ってますから。」

 それだけ言い、その子はパタパタと足音を立てながらその場を離れていった。

 ざわついていた学食が一気に静寂に包まれた。

 周りの視線が痛い。何も悪くない僕らは、何故晒し者のようになってしまっているのとろうか。

「学食で渡すって・・・もうちょっと場所を考えてほしかった。」 

 貰ったラブレターを回したり、指で弾いたりしながら溜息を吐く大和。

「どうすんの?結構可愛かったんじゃない?」

「まあ、顔は可愛かった・・・な。」

 大和の表情は嬉しそうとは言い難い。

「何なに?大和、また告られたの?」

 突然現れた優愛が、当然の事のように僕の隣に腰掛けてから大和にそう言った。

「優愛か。まだこれがラブレターとは決まってないだろ?」

「ラブレターで決まりだよ。どうすんの?付き合うの?」

 相変わらずグイグイと質問攻めにする優愛。

「そうだな、考えとくよ。」

「モテる男は言うことが違うね〜。これが勇斗だったら手紙をもらった時点でオッケー出してるね。」

 突然、話に巻き込まれる勇斗。

「それで「大和君に渡してもらいたいんですど」って言われて、がっかりするパターンだよね。」

 僕がそう言うと、勇斗以外の3人が笑った。

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