第19話 交錯する想い(2)
海沿いの道に面して建てられた我が校から見える景色は、この町随一の素晴らしさだ。
特につまらない授業中に眺める校庭と、その先に見える青い海のコントラストは最高だ。
「速水、次の問題の答えはいくつだ?」
テトラポットに弾ける波。
もう少し西に行けば、小さいながらも海水浴場がある。
「速水、聞いてるのか?」
そういえば、中学生の時までは勇斗や優愛と一緒に遅くまで騒いでいたけど、去年は優愛が急に「日焼けするからヤダ!」とか言いだして、あんまり外に出なかったんだ。
今年はどうだろうか。
「速水君、指されてるよ。」
隣の席の島田さんが、僕の肩を突付く。
「え?何?」
「速水〜。新学年早々、俺の授業でよそ見とはいい度胸だ。」
マッスル高橋が僕を睨みつけた。
「や、やばい。これは補習か?テストか?それともトイレ掃除か?」
僕と勇斗は去年もマッスル高橋に目をつけられていて、様々なペナルティを課せられていた。
キーンコーンカーンコーン。
終業のベルだ。
「先生!授業終了です!」
勇斗がこれみよがしに手を挙げて授業終了を告げる。
「まあいい。次は集中しろよ。」
一瞬苦々しい表情を見せたが、マッスル高橋は資料を纏め教室を出ていった。
「いやー、危なかったな晃。」
授業終了早々、勇斗が僕の席までやってきた。
「あそこでチャイムがならなかったら、授業終了まで空気イスとか言うぜ。」
いやいや、さすがにそれは無いって。
「え?高橋先生って、そういう人なの?」
急に話に入ってきたのは、僕の前の席に座っている瑞希だ。
「そうそう!こないだなんて授業中に居眠りしていた奴が、終わるまで逆立ちさせられたんだぜ。」
話を誇大して・・・というより、全くの作り話を瑞希に語る勇斗。
「えー!ホントに?私も気をつけなきゃ。」
瑞希も何故こんなにわかりやすい嘘を信じるのだろう。
「おーい、晃ぁ。学食行くか?」
教室の後ろの方から話しかけてきたのは大和だ。
僕と大和は学食で昼飯を食べることが多い。そのため、大和は学食に行くとき僕を誘ってくれるのだ。
「今、行く。勇斗は?」
ちなみに勇斗は、気分次第で学食と購買半々ぐらい。
「今日は俺も行こうかな。」
窓に座っていた勇斗も立ち上がった。
「瑞希は?」
「私はお弁当持ってきた。日菜乃ちゃんと食べる約束してる。」
本当にこれで足りるのだろうか?と思うほど小さな弁当箱を鞄から取り出して、瑞希は僕に見せた。
「じゃあ、俺らは学食に行こうか。」
勇斗が皆を促す。
「優愛、おいっ。」
大和が教室の扉に向かって声を発した。
「大和、どうした?」
扉の方を見たが、誰の姿も無い。
「扉のところに優愛がいたんだけど、すぐに居なくなっちゃったんだよ。」
「トイレに急いでたんじゃねぇの。」
大和の言葉に勇斗が答える。
「何かこっちの様子を見てたみたいだから、ちょっと気になって。」
「次に会ったら聞けばいいんじゃね?優愛が覚えてるとも思えないけど。」
男勝りなところのある優愛は、小さい事はあまり気にしない性格だ。
そのため自分の行動であれ、他人の行動であれ、細かい事をいちいち覚えていない事が多いのだ。
もちろんこれは優愛の長所でもある。友達としてこれほど気のおけない存在も少ないだろう。
「それより学食に行こうぜ。早くしないと席がなくなっちまう。」
「そうだな、気にしててもしょうがないし。」
勇斗と大和が鞄から財布を取り出し、移動を開始する。
「私も明日は学食にしようかな。」
瑞希が僕に小さく手を振った。
ちょっと恥ずかしかったが、僕も軽く手を上げて答える。
「晃君、席借りるからね。」
日菜乃は僕の席で弁当を食べる気なようで、既に僕の席に座っていた。別に良いけどね。
「晃、早くしろよ。」
勇斗が僕を急かした。どうやら腹が減って仕方がないようだ。
「今日は何を食おうかな〜。」
「俺はカレーだな。」
「大和、いつもカレーだな。」
「良いだろ、カレーが好きなんだから。」
勇斗と大和の会話を聞きながら、僕はふたりに付いて廊下を歩く。教室の近くの階段を降りればすぐに学食だ。
「晃、瑞希ちゃんとはどうなの?」
「え?な、何で?」
勇斗が急に話を振ってきたので、思わず狼狽してしまった。
「何だか、スゲー仲いいじゃん。」
勇斗がニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んできた。
「まだ友だちがいないだけだろ?出会って数日で発展もなにもないだろ?」
「分からないぞ。一目惚れってのもあるからな。」
何を馬鹿なことを。
一目惚れされるには、それなりの容姿が必要なんだ。例えば大和のように・・・。
「勇斗、その辺にしとけよ。晃が困ってる。だいたい晃には美桜先輩っていう憧れの人がいるんだから。」
「大和、声が大きい。誰かに聞かれたら大変だろ。」
公衆の面前でなんて事を言い出すんだ大和は。
僕は必死に大和の口を抑えようとするが、運動神経の良い大和は器用に身を躱し、僕の手を避けた。
「1年間眺めてるだけの腰抜けには、少しぐらい荒療治が必要なんだよ。」
大和と勇斗は、途中何人かの生徒にぶつかりそうになりながらも、笑いながら階段を駆け下りていく。
「おい、ちょっと待てよ。」
僕は急いで二人の後を追った。
あのテンションでは、二人が何をやらかすか分かったもんじゃない。何かの間違いで美桜先輩の耳にでも入ったら、僕は恥ずかしくて登校できなくなってしまう。
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