忍法、人海戦術!

 ただ時間を浪費する、そんな日々が何日か続いたある日。

 影山かげやまを調べる案はいくつか出たが、どれも現実的ではなかった。

 無限の中からちょうど欲しかったものを、手掴みで取るようなそんな希望的観察案が、出ては積もるばかりのこの現状にうんざりしていた。

 こんなちまちましたことをするのは、ワタシらしくない。

 裸一貫この身一つで飛び込んで、そして、頭のおかしいふりをして聞くのだ。


 「初めまして。そして、初めましてで申し訳ないが、聞かせてもらいたい。あなたは超能力を使えるかい?」と。


 考えが固まったら後は、行動に移すのみ。

 ということで、ワタシは取り敢えずということを後回しにして、直接会うことにした。

 とはいえ、相手は不登校の生徒である。いくら学校で待ち構えていたとしても一向に会えない。なので、影山かげやまの自宅を目指さなくてはならないが、当然、住所も知らなければ、そのヒントとなるはずの交友関係も謎である。

 とりあえず、模索できる方法としては二つ。

影山かげやまの住所を知っている人間を探す

・能力を使って家の表札を片っ端から確認する

 この二択である。

 結局どっちを選んだとしても、一筋縄ではいかなそうだが、何もせず考え立ち止まっているよりはましだろう。

 ということで、失敗したとしても一番情報が得られそうな『知り合いや友達を探す』ことから始めるか……いやでも。

 このままここで悩んでいてもらちが明かない。なので、今日はここで解散ということで一幕!




 一日経って、翌日。

 授業も一通り終わってから各々教室から出ていくのを見届ける。昨日の自分が考えた二つの作戦の一つ、前者の作戦を実行するならば今話しかけていくのが定石だろう。

 だが、一晩よく考えたら、もっといい方法を思いついたのだ。

 それは、影山かげやまのいるクラスの担任の先生に話を聞けばいいんじゃないかということである。

 影山かげやまは隣の教室、二組に所属していて担任の先生は富樫とがしという数学教師だ。ワタシのクラスでも、数学の授業を担当しているが、印象としては若くてさわやかな先生という感じで、多分女子人気も高い。

 人当たりもいいので、もしかしたら掛け合ってくれるかもしれない。ということで早速、先生のいる職員室へと向かうことにする。


 コンコン。

「失礼します、一年一組の全世界ぜんせかいです、富樫とがし先生に用があってきました」

 扉を開けて中を観察する。

 まだ清掃の時間が終わっていないので、バラバラと先生が座っている中、一番端の机の一番奥にその人物は座っていた。

 富樫先生はこちらに気がつくと、軽やかな足取りで職員室の入り口まで歩いてきた。

「全世界君、どうしたの?」

 前髪を軽く分ける流行の髪形に、整った塩顔、すらっとした立ち姿、こりゃあモテるねと自分で勝手に納得する。

「ちょっと、影山かげやま君のことで話したいことがあるのですが……」

 そう言うと、少しではあるが先生の眉が八の字に曲がった気がした。

「うーんと、そうだね……全世界ぜんせかい君、この後時間、あるかい?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、十分後に一階の空き教室へと来てくれるかな?」

「分かりました、では失礼します」

 ガラガラガラ、コトン。

 これでまずは、第一関門は突破したということで間違いないだろう。そして、ワタシの予想通りだとしたら、このまま先生が協力者になってくれるだろう。

 だが、そのためには、しっかりとした理由とそれっぽい動機が必要だ。なので、この十分間にイメージトレーニングをしながら、例の空き教室へと向かうのだった。


 来た時に暑苦しい教室だと、話したい事が詰まったり、交渉が決裂しかねないので、窓を開けておく。室内にたまっていた蒸し蒸しとした空気が、外から流れ込んできた風に運ばれて反対側の窓から出ていく。頬をさらりと撫でるこの風は、この季節こそなせる業だろう。

 コンコン、ガララ。

「ごめんなさい、少し遅れてしまいました」

 時計を見たら、確かに三分ほど遅れていた。他の先生だったら、そんなことまったく気にしなかっただろうと考えると、几帳面な性格だと知れる。

「いえいえ、気にしないでください。では、ここに座って下さい、ワタシは向かい側に座りますので」

 先に話し合いの場を用意する事は、交渉をする上で大事なことだ。机を二つ向かい合わせた面談形式のステージで話し合うのだ。

 そう、今から行われることは、裏の目的を隠しながら行うディベート対決、そして、その火ぶたが今切って落とされた。


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