無題−死について−

@ats358

第一話 序文

今日、正しくない多くの人が正しい私を責めて、私は少し生きていくために自分が間違っていて、多くの人が正しいと思いました。それから、正しいとか正しくないとか、間違っているとか、間違っていないとか、そういうものは、大して意味のないものなのだということにどうして今まで気が付かなかったのだろうと思うことができました。死について考え始めたのは割と随分前のことで、たぶん何か道路に落ちていた動物の死骸を見たときや、学校でみんなが大切に世話をしていた鳥類の一種が、鳥なのに地面で眠っているのを聞かされた時なのかもしれません。死はいつも身近で、まるで病院の待ち合わせで出会う老人のように唐突に話しかけられるかのようでした。けれども、私の周りで誰かが死んだとか、お葬式に出席するという経験はなく、そして実際に人間の死体を見たことはなく、それは同時に想像の世界のような、そういうはっきりとしないものでもありました。

きっとこういう物を書く私のことを、世間の人-----こう言うと一般化し過ぎているように聞こえてしまうのですが、実は私の頭の中には一人イメージできる人がいて、それは実在の人によく似ています-----はこの人はどうしてこんなに暗いことをわざわざ書き残す必要があったのだろうと大きな口とその声で純粋直感的に(脚注1)言うのだろうと思います。或いは、もう一人のイメージがそんな悲しいことを言うもんじゃないよと諭すように甘い声でこの世界に誘惑するのです。どちらの人も間違っていて-----いいえ、違いましたね、正しくて-----暗いとか悲しいとかそういうものを私は死に対して感じ取ることができないのです。たぶん私が半分死に足を突っ込んでいるからでしょうか、それは別に擁護している訳でもなく、そもそも擁護するとか非難するとかそういうものから超えたもの-----死にしては大袈裟な表現ですね、もっと粗雑に扱えばいいのです-----つまり無関心とでも言うのでしょうか、あぁあまり物を考えることができませんし、考えたくもありません。あるいは、低俗な人、私もその一人に数えられますが、下品な人、または品性の感じられない人は、女でも買って抱いてしまえばそんな高尚な悩みは消えて無くなるもんだと自分が女に関してはあらゆる事柄にゆるいことを気づかぬ振りをして、だからこそ嬉しそうに言うのでしょう。たとえその女の中で射精しようが、それは未来の死を注ぎ込んでいるに他ならないのです。それなのに、どうして気が休まるというのでしょうか?そもそもが二種類の液体が混ざり合って成長する生なのですから、そこに死が付属していると思えてくるのはおかしいことなのでしょうか?


(脚注1)神経の刺激によって引き起こされる反射反応的な様子。またそれは、脊髄を健全なまま切断されたカエルの体の一部に電流を流したときのような無意味さを持つのが特徴。今日、正しくない多くの人が正しい私を責めて、私は少し生きていくために自分が間違っていて、多くの人が正しいと思いました。それから、正しいとか正しくないとか、間違っているとか、間違っていないとか、そういうものは、大して意味のないものなのだということにどうして今まで気が付かなかったのだろうと思うことができました。死について考え始めたのは割と随分前のことで、たぶん何か道路に落ちていた動物の死骸を見たときや、学校でみんなが大切に世話をしていた鳥類の一種が、鳥なのに地面で眠っているのを聞かされた時なのかもしれません。死はいつも身近で、まるで病院の待ち合わせで出会う老人のように唐突に話しかけられるかのようでした。けれども、私の周りで誰かが死んだとか、お葬式に出席するという経験はなく、そして実際に人間の死体を見たことはなく、それは同時に想像の世界のような、そういうはっきりとしないものでもありました。

きっとこういう物を書く私のことを、世間の人-----こう言うと一般化し過ぎているように聞こえてしまうのですが、実は私の頭の中には一人イメージできる人がいて、それは実在の人によく似ています-----はこの人はどうしてこんなに暗いことをわざわざ書き残す必要があったのだろうと大きな口とその声で純粋直感的に(脚注1)言うのだろうと思います。或いは、もう一人のイメージがそんな悲しいことを言うもんじゃないよと諭すように甘い声でこの世界に誘惑するのです。どちらの人も間違っていて-----いいえ、違いましたね、正しくて-----暗いとか悲しいとかそういうものを私は死に対して感じ取ることができないのです。たぶん私が半分死に足を突っ込んでいるからでしょうか、それは別に擁護している訳でもなく、そもそも擁護するとか非難するとかそういうものから超えたもの-----死にしては大袈裟な表現ですね、もっと粗雑に扱えばいいのです-----つまり無関心とでも言うのでしょうか、あぁあまり物を考えることができませんし、考えたくもありません。あるいは、低俗な人、私もその一人に数えられますが、下品な人、または品性の感じられない人は、女でも買って抱いてしまえばそんな高尚な悩みは消えて無くなるもんだと自分が女に関してはあらゆる事柄にゆるいことを気づかぬ振りをして、だからこそ嬉しそうに言うのでしょう。たとえその女の中で射精しようが、それは未来の死を注ぎ込んでいるに他ならないのです。それなのに、どうして気が休まるというのでしょうか?そもそもが二種類の液体が混ざり合って成長する生なのですから、そこに死が付属していると思えてくるのはおかしいことなのでしょうか?


(脚注1)神経の刺激によって引き起こされる反射反応的な様子。またそれは、脊髄を健全なまま切断されたカエルの体の一部に電流を流したときのような無意味さを持つのが特徴。

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