令和のモガ

かみつき

一、優花



 モダン・ガール【modern girl】

 当世風の女性。昭和初期、多くは軽侮の意をこめて用いた。モガ。↔モダン・ボーイ(広辞苑より)




 一、優花


 初めて優花と話したのは、俺が中三の時だった。優花は同じ運動部の後輩で、(男女一緒に活動することはなかったので)顔だけは見たことがあった。俺が中三の頃、優花と同じ委員会になったのだが、ある時俺は委員会のことで二年生に伝えておくべきことがあり、ちょうどすれちがった優花に、伝言を頼んだのだ。優花は、

「わかりました、先輩」と笑って言い、引き受けてくれた。中学生で優花と話したのは、その時だけである。

 しかし、廊下ですれちがったり、優花が同級生と話しているところを見たりすることは、たびたびあった。優花の第一印象は、「真面目な優等生」であった。成績が優秀であったかどうかは知らないのだが、優等生だと思わざるをえない雰囲気が、彼女にはあった。そう思っていたのは俺だけではあるまい。

 優花と俺は、高校で再会した。優花は、高校では文化部に所属した。一方俺は、同じスポーツを続けていた。優花と仲良くなったのは、六月、とある近所のイベントに、ボランティアとして参加したことがきっかけである。

「先輩、これってテーブルの上に置いたらいいですか」

 突然聞かれて戸惑った。

「いいんじゃね? あ……、秋原、あの荷物、テーブルの上でいいよな?」

 俺の友人の秋原を使って、雑な返事をしてしまった。しかし優花が運んでいる荷物は二十キロ近くありそうで、おまけに持ちにくい形をしているものだから、優花がエイ、とか言いながら頑張ってもなかなかテーブルまで運べない。仕方ないから俺が手伝って、二人で持ち上げてやった。

「ありがとうございます」

 彼女の無邪気な笑顔に、俺は赤面してしまった。別に優花に惚れたわけではない。ただ、本来は見てはいけないはずの、悪しく悲しいものを見たような、またはひどく恥ずかしいものをみたような、そんな気がして、決まりが悪かったのだ。

「どうも」ただそう言って、その場を去った。

 が、このボランティア活動、非常にヒマである。皆のんきそうにおしゃべりしている。俺も同様に秋原と話していたが、どういう流れであったか、優花とも話をするようになった。

 それから、俺と優花は友人になった。昼休みには優花や秋原と一緒に外の花壇の縁に腰かけて弁当を食べる時もあった。

 彼女の姓名フルネームは、竹川優花といった。ほとんどの女子が優花を「ユウちゃん」と呼び、ほとんどの男子が「竹川さん」と呼んでいるらしい。

「誰も優花って呼んでくれないのよ」

 ある時優花は困ったように笑った。その笑い方は、前に俺が荷物を持ってやった時のような、あの無邪気な笑顔とは全く違っていた。この寂しい笑い方の方が自然であった。

 その時から俺は、彼女を優花と呼ぶようになった。

 この頃から優花は俺を「蓮くん」と呼び、敬語も使わなくなっていた。これらは孰れも、俺が優花に「そうしてくれ」と頼んだのである。というのも、俺は「先輩」と呼ばれたり丁寧に敬語を使われたりするのが、何とも苦手だったためだ。しかし真面目な優花にとっては随分と抵抗があったらしく、初めの方は敬語とタメが混じった変な言葉遣いをしていた。

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