彼の日
バブみ道日丿宮組
お題:楽しい命日 制限時間:15分
彼の日
君がこの手紙を読む頃、すでに僕はいないだろう。
いなくなったからといって完全な自由になれるわけじゃないのはわかってるとは思う。
ただ足かせはなくなる。
僕という厄介者がいなくなれば、世間体もいい。
かつて家族だったという情報は消しておいた。よっぽどな裏組織じゃなければ見つかることはない。ここらへんは結構苦労したんだ。つてにつてを使ってね。
まぁ君にはそこは重要ではないだろう。
そしてこうして手紙を読んでるということは、僕の命日に君はわざわざ神社にきたということだね。
いけないよ。僕はもういないんだ。
僕なんか忘れて楽しい時間を過ごすべきだ。
なーに君は魅力的な存在だ。すぐに余生を過ごせる半身を探せるはずだ。僕以上のね。
忘れたくないことは忘れなくてもいい。
ただ……引きずることはよくない。僕の変死の残骸を仮に見たとしてもね。
わかるだろう?
追ってきたらどうなってしまうかを。
うん。君には長生きをしてほしい。
新しい生命もあるものだ。その親がこうやっていなくなったのはまずかったかもしれない。そこは許してほしい。その代わり莫大な資産が君の口座に振り込まれてるだろう。
そこも頑張ったところだよ。まさか僕の身体にそんな価値があるとは思わなかったね。嬉しい誤算だ。
たとえ余生を過ごせる相手がいなくても、君には子どもがいる。きっといい娘に育ってくれるだろう。僕については酷いくそったれだったと伝えてくれて構わない。
子どもにいい印象は与えてくれなくていい。悪者になるのはなれてる。大丈夫。君ならできる。なんたって、僕の一番の嫁さんなのだからね。
あぁ、なぜだろうか。お別れの手紙を書いてるのにすごく君に会いたくなってきたよ。もう会えないのにね。これが人の欲求という強さなのかもしれない。
僕はこの想いを持ったまま消えることにするよ。
いなくなる理由かい?
それはいろいろあることを知ってるだろう。
気にしなくていい。いや、覚えていなくていい。
僕は最初からいない存在。嫌悪を抱かされる象徴。とんだ悪だ。
手紙に何を書いたらいいのか。いろいろ悩んだけれど、大体書き終えたかなと思う。
1つに僕を忘れてほしい、1つに楽しい時間を過ごしてほしい、1つに子どもと幸せになってほしい。
そうだね。それだけだ。
じゃぁ、さようなら。
これで本当に僕という残滓はこの世からなくなる。
この手紙も本来であれば残しておくつもりはなかったのだけど、取引相手がね。残したほうがいいっていうから。
読んだ後、この手紙を燃やすかどうかは君に任せることにするよ。
なーに君ならきっといい選択ができる。
じゃぁ。さようなら。
彼の日 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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