最弱スケルトンの俺が最強を目指しながら冒険する物語

まっくろえんぴつ

骨1本目 ちょっと思い出した

「滅魔光線!」


 破滅的な光が暗闇を明るく照らす。

 それはなんでもかんでも滅する死の光。


 あー死んだ、また死んだ、もう何回目だコレ。


 俺は最弱の魔物、スケルトン。


 名前は無い、見た目は歩く人骨。

 不死系と言われる魔物である。


 今日も俺は人間に滅魔光線を当てられて死んだ。

 慣れたくないけど慣れちゃった。


 人間が放つ滅魔光線に当たると骨粉になるのが俺だ。


 どう考えても死んでる体なのに、また死ぬ。

 だがやはり死なないし、復活する。


 訳が分からないよ。


 などとぼやいたところで何が変わるわけでもなし。

 俺は死んだり生き返ったりを繰り返していた。

 ……のだが、その日は普段と違う事が起こった。


 それは毎度のように死んで、粉状の骨になって、復活した時の事だ。


 ――ピコン!


 変な音が鳴ったような気がした。

 そして目の前に半透明の板が現れる。




 個体名:

 レベル:1

 魔力量:15

 骨密度:10

 ユニークスキル:全骨統




 たったの5行のステータス。

 それを見た瞬間に、ほんの少しだが思い出した。


 ――ああ、そういえば俺、人間だった。


 そうだ、俺は人間だった筈だ。

 冒険者をしてたが……死んだのだ。

 どうやって死んだのかは覚えていないが。

 と言うか、そもそも自分の名前すら思い出せないな。


 だが俺は確かに、人間の冒険者だった。


 剣で魔物と戦ってたし、魔法も使えた。

 そして思い出す過去のステータス。


 目の前にあるステータスの内容が、冒険者だった時とまるで違う。

 前世……と言えばいいのか、生前と言えばいいのか。

 昔のステータスはもっと細かい能力値が見れた筈だ。


 名前、レベル、体力、魔力、筋力、知力、器用、敏捷、幸運など。

 数々のスキル、魔法の属性まで見れた筈だ。


 それが今は……骨密度とはなんだ?

 他の数値はどこにいった?


 ふーむ……?


 個体名は名前の事だろう、レベルと魔力量は分かる。

 ユニークスキルの事も覚えている。

 世界で唯一、特定の個人だけが使える、特別なスキルの事だ。


 ユニークスキルと言えば、一騎当千の英雄が持つスキル。

 そんな凄いものが手に入って正直嬉しく思うが、スキルの内容は不明だ。

 『全骨統』とか言われても理解できない。

 全ての骨を統べる、みたいなスキルだろうか?


 うーん……。


 どう考えても神の悪戯か、遊び心がすぎる。

 このステータスはあまりに適当すぎるだろう。


 そもそも俺は何故スケルトンになってるんだ?

 どうして死んだのか、何故こんな事に……ダメだ、まったく思い出せない。


 落ち着こう、こんな時は深呼吸だ。


 ……?


 あ、そうだった、肺が無いんだ。

 これじゃ呼吸出来ない。

 喋れないし、顎の骨がカタカタ鳴るだけだ。


 じゃあどうして生きてるんだ?

 そもそも俺は生きてると言えるのか?


 ……いやいや、もしかしたら俺は人間から進化したのではないか?


 そんな考えが頭をよぎった……頭蓋骨の中身空っぽだけど。


 何故なら呼吸する必要がないから、酸素が必要ない。

 食事も必要なければ、水すら飲まない。

 そもそも死んでるから、病気にもならない。


 俺は究極の肉体を手に入れたのではないか……!


 骨だけど、筋肉ないけど、生きてないけど。


 ま、メリットがあればデメリットもあるという事だ。

 そうやって受け入れよう。

 じゃないとこのまま干からびそうだ。


 正直、何故こうなったのかなんて、思い出せないのだから仕方ないだろう。


 とりあえず簡単に死なない骨体になる事が最優先だろうな。

 もし死んだらユニークスキルと人間だった頃の記憶が消えるかもしれない。


 うん、それは嫌だ。

 ここまではっきり自我が芽生えたのだ、もう死ぬなんてごめんだ。


 ……芽生えたと言うより、思い出したんだけどね。


 ああ、どうしてツッコミ担当が居ないんだ。

 いや、もう、そんな事はどうでもいい。

 

 ふう、上手く思考が纏まらないな。


 まずはレベル上げをして魔力量を上げよう。

 魔力量はそのまま魔法防御力に直結する筈だ。


 俺は知っている、上位のスケルトンには魔法が効きづらい事を。

 俺は上位スケルトンを目指すのだ。

 方針は決まった、ここからスタートだな。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺は暗闇の通路を歩き出す。


 ここはダンジョンだろうか。

 どうして視界があるのか、音が聞こえるのか。

 地面を踏みしめる足の感触があるのは何故か。


 骨体の不思議、もはや理解不能な事だらけだ。

 とりあえず、骨の体や人間だった頃の記憶についての考察は置いておこう。


 目の前にスケルトンが1匹いる。


 こいつを倒して経験値を稼ぐとしよう。


 武器は持ってない。

 俺も相手も素手だ。


 相手のスケルトンは俺を仲間だと思っているのか、襲ってこない。

 フラフラとダンジョンを彷徨っているだけだ。


 気持ちは分かるぞ、俺もそうだったからな。


 だが手加減は無しだ、ここで死んでもらおう。

 もう既に死んでいるような魔物だしな。


 本来のスケルトンであれば、人間を見れば襲ってくる。

 だが……目の前のスケルトンは無防備だ。

 これなら楽勝だな。


 スケルトンを倒すには聖魔法が一番だ。

 不死系の魔物は聖魔法にめっぽう弱い。

 火魔法や光魔法にも弱かった筈だ。


 昔の俺なら魔法で倒すところだが、この骨体だと魔法は使えないようだ。


 いくら魔法を発動しようとしても発現しない。

 そもそも俺の記憶にある魔法の知識が薄い。

 記憶が断片的だし当然か。


 仕方ないので、物理攻撃で倒す事にする。

 スケルトンは最弱の魔物だから余裕だ。


 物理攻撃で倒すなら頭を砕くに限る。

 何故ならスケルトンは頭が弱点だからだ。

 他の部分を破壊しても意味はない。

 手足が無くなっても動くからな。


 目の前に居るスケルトンの頭を砕く為、俺は近くにあった大きめの石を拾う。


 お、重い……嘘だろ、筋肉は無いが、まさかここまで骨体の力が弱いとは。


 想定外だったが、なんとか持ち上げたぞ。

 よーし、これで、やつの、頭を……!


 ――ドゴッ!ドゴッ!バゴッ!


 頭蓋骨をひたすら石で叩いて砕く。

 倒れた相手スケルトンに馬乗りになり、頭蓋骨を骨粉にする。

 あっさりと相手スケルトンは動かなくなった。


 やはりな、楽勝だ、弱すぎる。

 頭蓋骨粉砕、俺の完全勝利だ。


 こいつは骨密度値が低い個体だったのだろうか。

 倒すと同時に、骨密度の大切さを思い知った。

 ステータスボードに浮かんだ意味が分かった。


 俺たちはスケルトン。

 骨の体にとって骨密度の値は重要だったのだ。


 これからは魔力量とともに、骨密度も注視するとしよう。


 さて、石で殴る攻撃によってスケルトンは死んだ。

 死んだと言うか、体を形成する骨が粉状になった。

 これは倒したと言っていいだろう。


 俺はステータスボードを出現させ、レベル値を確認する。


 レベルは……上がってない。


 こんな雑魚を1匹倒したくらいではレベルは上がらないようだ。


 俺はふと、何故だか本能的に……粉になった骨に触ってみた。

 スキルを使えば、何かあるかもしれない。


 ユニークスキル『全骨統』発動。


 どこからか風が吹いたのか、粉状になったスケルトンの骨が空に舞う。

 そして俺の体に吸収された。




 骨密度:10→11




 まじか、俺の骨密度が上がった……!


 これがユニークスキルの力か。

 レベル上昇とは別の方法で自身を強化できるのか。

 聞いたことがないスキルだ。


 流石はユニーク、強力なスキルだ。


 骨密度はおそらく、物理防御力だろう。

 俺は硬く、すごく堅牢になれるかもしれない。


 骨密度のステータスに上限があるか分からないが、これは反則的なスキルだ。

 この調子なら思ったよりも早く強靭な骨体になれるかもしれない。


 よーし、やる気が漲ってきた!


 こうして俺の骨密度を上げる戦いが始まったのだ。

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