第10話 複数属性持ち
ポッ!
可愛い音を立ててホムラの指先から炎が出る。待ちに待った瞬間である。ついに、魔法を発動させることに成功した。
「やった!やりましたよ!先生!」
指から出た炎をエルメティアに見せる。
「おめでとうございます!ホムラくん。これで晴れて魔法使いです」
拍手しながらエルメティアが駆け寄ってくる。発動するために練習を始めて1週間経ったが、どうにかなって安心した。
まだライター位の火種だが、これからの伸びに期待だ。
「ええ、そのまま。出来るだけ長い時間魔法を持続出来る様にしてください」
「はい!」
先程からホムラは、ずっと手に火を灯したままだ。この感覚に慣れることが今後の成長に繋がるとのことらしい。
「お!魔法でてる。やるじゃないかホムラ」
練習を続けていると、庭を通りかかった父様が声をかけてくる。
「やっと発動出来ましたよ。これからも技を磨いていきます!」
「ホムラくんの物覚えが良いので、早かったですよ。魔法に対する勉強の姿勢も素晴らしいものです」
「そうか、頑張っているか。努力家なところは俺に似たのかな?」
残念、俺が転生者だからです。
前世のラノベ知識などを参考にして、この世界の魔法の仕組みについて質問していたらキリがなくなった。だが、その姿勢をエルメティアが評価してくれたようだ。
息子の成長に父様は満足したようで、戻っていった。
「それでは、ホムラくんは火を出したまま座学をやっていきましょう。魔法を持続的に発動することが必要です」
「わかりました!集中しないとなぁ」
エルメティアの言葉を聞きながらも魔法を発動しているのは、集中力の消耗が激しかった。
その夜は、ベッドに入った瞬間にあっさりと眠りにつくことが出来た。
先生に魔法を教えて貰いながら半年が既に経過した。誕生日が訪れて6歳である。誕生日プレゼントも素敵なものを頂いた。
毎日、修行をしている甲斐もあり魔法の腕は日々上昇中だ。
「ファイヤーボール!」
屋敷の庭、そこで先生に貰った杖を使って魔法を放つ。バスケットボールサイズの火の玉がエルメティア目掛けて放たれる。
それをエルメティアは、水の魔法を使って消し去る。凄まじい腕前だ。
「良いですよ、かなり魔法の扱いに慣れてきましたね」
よしよしと頭を撫でてくるのはずっと変わらない。自分は、嬉しいので迷わず受け入れるが。
もうすでに低級の魔物であれば倒せる気がするが、実戦はまだ行ったことがない。もう少し年齢を重ねる必要があるのだろう。
この半年間、毎日魔法の実技と座学を行なっている。魔法の歴史を知るのはとても面白いものだ。
「今日は、何を学ぶのでしょうか?」
ちょこんと椅子に座ったホムラが尋ねる。魔法の歴史とかだと嬉しい。元の世界でも、日本史や世界史は好きな科目だった。
「はい、今日は複数の属性系統を持った魔法使いについて触れていきたいと思います。例えば私のように」
エルメティアが指をパチンと弾くと、火と水の玉と、小さい竜巻の様なものが現れる。エルメティアは、複数の魔法を使うことが出来る魔法使いだ。
「羨ましいですね!」
パチパチと拍手をしながらホムラが答える。
「ありがとうございます。この様に、稀に複数の魔法を使えるものがごく僅かですが、世界には存在します。そうですね、3属性持ちは一国に1人か2人いるかどうかでしょうか?」
とてつもなく貴重な人材だな……と思わずにいられない。こんなところで自分の先生なんてやってて良いのだろうか?
「国に1人2人って、格好いいですね」
「確かに貴重ではありますが、しがらみも存在します。例えば、戦争。国家間の条約で、3属性持ちは戦争に出てはならないというものがあります」
「強いからですか?」
「はい、強すぎるからです」
甚大な被害が出ることは間違い無いだろう。というか、戦争あるの嫌だなぁ……
「2属性持ちの魔法使いは良いんですか?」
「ええ、問題ありません。2属性持ちならば参戦可能です」
まあ1属性しかない自分には関係ないのかな?と軽く覚えておくことにする。だが、複数属性ということは、気になることもある。
「全属性持ちはいるんですか?」
そう全部だ。もう小説の主人公だろう。
「いえ、現在まで全属性持ちは確認されていません。4属性すらもですね。3属性が生きる者の限界と考えられ、条約でも3属性の戦争参加不可が設けられています」
残念ながら、全属性持ちはいないとのことだ。少し残念。
「もし、全属性とか4属性とかの魔法使いが現れたらどうなるんですか?」
興味があるので聞いておこう。なんとなく察しはつくけど。
「それは、大問題です。多くの国がその人物を巡って争うことになるでしょうね。それだけ優秀なものを引き込めば国は安泰。優秀な子孫も残せますし」
「子孫?」
強力な者を取り入れたいと言うのはわかる。次の世代にも活躍が期待される様だ。
「ここからは、ホムラくんにとって聞きづらい話になりますね。嫌になったら言ってくださいね」
何やら大事な話が始まりそうな予感がし始めた。
「はい……」
静かにホムラが答えと、ゆっくりとエルメティアが口を開く。
「そもそも、魔法使いが生まれるのは珍しいのです。狙って魔法使いを産むなどは出来ないですね。ですが、確率を上げることは出来ます」
「それって」
「魔法使い同士の子供ですね。魔法使い同士から生まれた子供は魔法使いになるケースが極めて高いのです」
確かに、これは子供にはあまり話したくないことなのだろう。魔法使いを生み出すために、無理矢理なことが行われているのかもしれない。
「酷いこと……ですよね」
「ホムラくんは、よく察してくれますね。特に複数の属性を持つ魔法使いには、多くの子供を作る様に言われています」
ここはそのような世界なのだ。自分がいた世界とは価値観が違う。
「先生ってもしかして……」
「特に、3属性もある私のお腹は貴重でしょう?」
「そうなんですね……」
そりゃあそうだ。こんな貴重な人を国が放っておくはずがない。ホムラが少し暗い表情をしていると
「まぁ、私は国王を脅してそんなこと出来ないようにしてるんですけどね!」
ニヤッと、これまで半年間で見たことがない様な笑みを浮かべてエルメティアが笑うのだった。
(さすが、先生。パナイっす)
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