松明(たいまつ)無双〜神から貰った転生特典は松明だけどなんか強いし魔法も万能〜

@Ritoha5680

第1話 雑な神との出会い

 圧倒的な強さを誇る魔物の一種、ドラゴン。一度翼をはためかせ、空に舞い上がろうとするだけで人間を吹き飛ばさんとする風を起こす。


 ドラゴンの風圧を喰らい、多くの冒険者が地面に膝をついた。重厚な装備に身を包む者すらも立つことを許されない圧倒的な力。


 普通の人間で有れば吹き飛ばされ、重症に陥ったことだろう。



「勝てるわけがない……」


 耐えきれず、冒険者の声が漏れる。周囲の者も考えは同じだろう。ドラゴンは攻撃していない。ただ飛ぶために翼を振っただけなのだ。


 存在自体が天災……



 だが、そんな魔物に堂々と接近していく者がいた。ドラゴンを前にしても全く物怖じしない。それどころか口笛すら吹く余裕ぶりだ。


「あいつ死ぬぞ」

「大した装備もしてねぇ」


 そう、ドラゴンに近づく少年の装備は見た目では防御力があるようには見えない、ただの私服のようだった。そして、手にしている武器を見ても明らかに無謀だと感じる。


「おい!木の棒で何が出来るってんだ!逃げろ。死ぬぞ!」


 と叫ばれる。そう、少年の装備は、どう見ても木の棒。地球でいう野球のバットと同じ位のサイズだ。どこにでもある、ゴブリンですら持っていそうな代物。ドラゴンになど敵うはずもない。


 だが、その少年は堂々と木の棒を構えて声を上げた。



「木の棒じゃない。松明だ!喰らえ、ドラゴン。アルティメットファイヤー!」


 直後、木の棒、否、たいまつから膨大な炎がドラゴンに向かって掃射される。その炎がドラゴンの翼を一気に焼き払い、身体を燃やす。


 野球少年のように、たいまつを肩に担ぎ冒険者達の方を振り向く。その顔はニヤッと笑っていた。


「見たか?最強の武器、松明の力を」







 俺は、火が好きだ。だからといって放火魔というわけではないので安心して欲しい。暖炉でパチパチと音を立てて燃えているのを見るとリラックス出来るのだ。


 その内ソロキャンプでもして、薪を集め火をつけて料理なんかをしたいとも思っていた。動画サイトで、焚き火をしている投稿を見るのが日課だった。


 だが、まさか火が好きな俺が火事で死ぬことになるとは思わなかった。


「で、君は死んだ。以上、転生!」


「おい、待てぇぇ!雑!雑すぎますって」


 目の前にいる神を名乗る虹色の髪の毛を長く伸ばした、無表情な女の子が言ってくる。虹色の髪は時々キラキラと光っているため人間じゃないだろうが、名乗られた時はまさか神とは思わず驚いたものだ。


「めんど……。穂村蒼、あなたは隣の家が出火原因の火事で死んだ。両親が出張で家にいなかったのも不運なことに、馬鹿みたいに爆睡してたあなたはあっさりと煙と炎に飲まれてチーンした」


「ぐぬ……普通気づくだろう、火事になってたら」


 というか、めんど……と言いやがったよ、この神様。神様って言ったら慈愛のあるイメージがあったが、思いっきり壊された。かなり雑だ。


「じゃあ、もう転生してもらうね。あ、異世界転生って奴だよ?嬉しい?」


 古臭い指差しポーズをしながら神が言ってくる。楽しそうだが、素直に答えたくない。


「いや、質問したいことがたくさんあるんですけど……」


「え、めんど……。私も忙しいんだからさっさと済ませて」


 予定が書いてあるらしい手帳を見ながら言っている。よく見ると文字が読めた。穂村蒼の面談と書かれたその下には、大枠でおやつタイムと書かれていた。休み長いな、働けよ!と心の中でつぶやいておく。



「質問させて貰いますね。俺が知りたいのは、記憶は引き継いでるのかと、どんな世界か」


「記憶は、今のまま持っていける。君が転生する世界については、スキルが存在する世界。運が良ければ魔法使いにもなれる」


 魔法、そのワードを聞いて一気にワクワクしてきましたよ。しかし、確率があるようだ。


「なりたいな、魔法使い。火の魔法が使いたい」


「火事で死んだのに、そんなに火が好きなのか。余程の変態か」


 ドン引きという顔をされる。変態とは心外だ。好きなものが原因で死んでも嫌いになるとは限らないだろう。


「異世界で生きていけますかね、俺」


「運良く、王族に転生した奴も過去にいた」


「すげぇ、勝ち組じゃん」


 何不自由ない生活が送れそうだ。相当に運が良くないと王族転生なんて出来ないだろう。自分には、それだけの運はないだろうなと思う。ゲームのガチャ運とかショボいので。


「まあ、クーデター起きて処刑されたけど、そいつ」


「うわ……知りたくなかった……」


 蒼は顔を抑える。きっと調子に乗って自重しなかったのかもしれない。自分は気つけようと心に誓う。


「どんな家庭であろうとも、愛が有れば大丈夫!きっと、幸せに暮らせる」


 と言いながら神がサムズアップする。ここにきて良いこと言っちゃうのねと評価を改める。



「言語も大丈夫。それじゃあ、のんびりと生きて」


 バイバイと神が手を振ると、足元が光り始める。これは転生が始まろうとしている。


「新たな旅か……」


 なんて呟いてみると、神の後ろに突然現れた天使が神に声をかける。


「ミルレイヌ神、転生特典のアイテムはお渡ししました?」


「え?あー、忘れてた。めんどいし、もう良くね?」


「ちょっと待って!その話を詳しくぅぅぅぅ!」


 蒼が大声を上げるのだった。適当な神への評価はガタ落ちだった。

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