第27話 縁日へ行こう③

縁日の会場にはすでに子供から大人まで多くの人たちで賑わいを見せていた。



いらっしゃいという店員さんたち。


来客たちの手には露店で買ったフランクフルトやら綿菓子、焼き鳥といったものがにぎられており、口に頬張りながら縁日会場を練り歩いている。


「ねえねえ、あれやろうよ。朝矢。あれ」


 縁日を見て回っていると愛美は、射的の方を指差しながら、どこかうかれ気分でいった。


「ほほお。射的かあ。おもしろそうやん」


 それにのったのは伊恩だった。



「弓道ごたっでおもしろそうやん」


「はあ。全然ちがうやろうが」


 伊恩の言葉に朝矢が突っ込みをいれる。


「にとるやん。目的に狙いを定めて放つという点でいは同じだと思うばい」


 そういいながら、伊恩は弓を放つしぐさをする。



「やろう。やろうよ。あのぬいぐるみとってくれんね」


 愛美は朝矢の腕をつかみながら、もう片方で射的の店の雛壇を指差しながらいった。


 そこには確かにくまのぬいぐるみがある。


 茶色いくまのつぶやな瞳がこちらを見ているのだ。


 それをみていると、朝矢はふいにある光景を思い出した。


 自分の周囲を取り囲む黒い服を来た人たちの姿。だれもが不気味に笑っている。そのなかに一人の女がいた。その女がくまのぬいぐるみを大事そうに握っていた。年齢はすでに二十歳をすでに越したぐらいの女で、熊のぬいぐるみが不釣り合いにしかおもえなった。もちろん、フードをかぶっていたために、女であること以外は顔立ちというもははっきりしない。


 これより数年後に東京にて女と対峙することになるのだが、そこのころの朝矢が知るよしもない。


「ねえ。ねえ。行こう」


 愛美は強引にひっぱる。


「いこうよ。あーくん」


「たまにはこういうのもよかね。これなら、朝矢に勝てそうだ」


 クールそうにいう龍仁だが、あきらかに伊恩よりもはりきっているのがわかる。なにせいち早く射的店へいき、お金を払い終えてしまっていたからだ。


「うちもやってみよう」


 桜花もそちらへと向かう。


「いこう。いこう」


「わかっとる。つうか、いつまで握ってんだよ。ぼけ」


 朝矢は愛美のうでをふりほどくと店の方へと歩き出す。


「朝矢のいじわるううう。そういうところよかとよね。うふん♥️」


 そういいながらも、愛美はうれしそうである。


 その様子をみていた伊恩は思わず「なんでもよかとか」とのんびりした口調で呟くと、射的の店の方へと向かった。


 伊恩が店員にお金を払っていることには、龍仁がすでに射撃をはじめていた。


 しかし、そのほとんどが品物に命中することなく、後ろの壁にあたって落ちていく。


「ちっ」


 龍仁が舌打ちをしていると、朝矢がどや顔を浮かべながら銃を構えて、愛美がもとめたくまのぬいぐるみに狙いを定めて引き金を引く。


 銃口からポンという音とともに射的用のコルクが雛壇へと向かって飛び出す。


 コルクはくまのぬいぐるみのすぐ横を掠めて後ろの壁にぶつかって落ちていく。


「くそお」


「がんばれ、朝矢」

 

 愛美が後ろで応援する。


 すぐさまコルクを銃口につめて、こんどこそと再び引き金をひく。


 やはり、あたらない、



「やったああああ」


 そのとなりでは伊恩のはしゃぎ声が聞こえてきた。


 どうやら、伊恩はなにか景品をゲットしたらしい。


 チリンチリンと店員が鈴を流して、景品ゲットしたことを大々的に知らせている、



「「まじかよ」」


 朝矢と龍仁の声が見事に被る。



「「おやじ、もう一回」」


 またまた声を揃わせて、店員にお金を渡してコルクを三つほど受けとると、再び射的を始めている。


 すでに三回終わらせた桜花が向きになっている少年たちを冷ややかな目でみている。


 その傍らでは、愛美が応援を続けている。


 しかし、朝矢と龍仁はからっきし当たらず。


 伊恩はひとつ景品をゲットしたことに満足時て、すでに射的をやめていた。


 朝矢と龍仁はしばらく射的を続けて、なぜかお互いににらみあっている。


「おれがさきにとる」


「ぼくがさきたい」

 

「ばか、本当にばかばい。こいつら」

 

 桜花がため息を漏らす。


「朝矢。がんばーー」


「これはミッチーを応援せんばねえ。がんばれええ。ミッチー」


 あきれる桜花の傍らでは、愛美と伊恩はまるでスポーツクラブのサポーターのごとく応援をはじめている。


「あれれ? 朝兄たちいい。なにしてんの?」


 最後の一個というときだった。突然、朝矢と龍仁の間に一人の子供がたっていたのだ。


 二人はぎょっとする。


「なっナツキ」


十歳ほどの少年がニコニコと無邪気な笑顔を浮かべていた。




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