第28話 縁日へ行こう④

「射的かあ。射的かあ。わーい」


 無邪気で笑いながらはしゃぐナツキにたいして、朝矢は顔をゆがめ、龍仁は「だれ?」といわんばかりに朝矢へ視線を送る。


「ただの知り合いだ。こいつがいるということは」


「おもしろそうじゃないの。ねえやろうよ」


 背後から聞き覚えの声が聞こえてきた。


 朝矢は眉間にシワを寄せながら振り替えると、予想通りの男がニコニコと飄々とした笑みを浮かべながらこちらへと近づいてくるではないか。


「土御門……。それに芦屋さん?」


 前半と後半が妙にテンションが違うことに思わず龍仁は朝矢の顔をみる。先ほどまで嫌そうな顔をしていたはずの彼の表情が和らぐ。


「ねえ。やってみようよ。尚孝~」


「おい。やめろよ。近づくな」


  朝矢たちが振り向くと、土御門桃志朗が芦屋尚孝にすり寄ろうとしている姿が見えた。尚孝はいかにも嫌そうにのけぞっている。


「あの人って、あっち系~?」


 その様子をみていた伊恩がのんびりした口調で桜花たちに尋ねると、桜花も愛美もよくわからないといわんばかりに首をかしげている。


「芦屋さん。なんでここにるとや?」

 

 朝矢が近づいてくる尚孝に話しかける。


「里帰りだよ。さ・と・が・え・り♥️」



「おまえにきいとらん。くそやろう」


 尚孝の代わりにいった桃志朗に一喝するがそれすら面白そうにニコニコとしている。その態度に朝矢をイラつかせるのはいうまでもない。


「長期の休暇がとれたんでね。久しぶりに戻ってきたんだ」


 尚孝がそう告げた。


「ねえねえ。あーくん」


 そこに伊恩が割り込んでくる。


「この人だれ? そっちのへらへらの人はみたことあるとばってんさ。この生真面目そうな目がねの人ははじめてばい」



 前者は桃志朗で校舎は尚孝のことだ。


 確かに尚孝は目がねをかけている。


 視力が悪いわけではない。ただその瞳の色が特殊な紫色をしているためにそれを隠すために目がねをしているのだ。


 ただでさえ整った顔立ちをしている尚孝なのだが、それにくわえて珍しい色の瞳をもっているものだから目立つ。それゆえに昔はなにかと先生から目をつけられた時期もあったらしくて、カムフラージュのめがねやコンタクトはかかせない。


 本人は目の色に関してさほど気にしていないのだが、極力トラブルは避けたいということだ。


「ああ、芦屋尚孝さんと土御門桃志朗だ」


「あれれ? 僕は呼び捨てなのおお。しかも尚孝よりあと~」


「だまれ。くそやろう」


 朝矢が悪態をつく。


 伊恩と龍仁の視線は二人の男に注がれる。みた感じだと正反対の性格であることはわかる。


「それよりも君たち。楽しそうなものやっているねえ」


「はずれたあああ」


 桃志朗の声と重なるようにナツキの声が背後から聞こえてきた。


 朝矢たちが振り替えると、ナツキはすでに射的を終わらせているところだった。しかも、その射的はひとつ残しておいた朝矢のコルク立ったことに気づく。


 それだけではない。龍仁のコルクを銃口につめて的めがけて引き金を引いているところだ。


「ナツキ。なにしてやがる。それはおいの射的」


「ぼくのも」


 ポンという音とともにコルクが飛ぶ。


 まったく当たらずに雛壇へとぶつかって落ちていく。


「てめえ。なに勝手にひとのもんで遊んどる」


 そういって、ナツキの頭を拳で挟むとグリグリと回す。


「いたい。あはははは。いたいよお。朝兄いいい。あははははは」


 そういいながら、ナツキはどこか楽しげだ。


「本当にガキ。その短気なおしなさいよ」

  

 あきれる桜花。


「そういうところもかっこいい」


 逆に笑顔を浮かべる愛美。


 二人の少女は真逆の反応を見せている。


 伊恩はなんだか楽しいなあとニコニコと笑う。。

 

 朝矢と龍仁は勝負の場所を失われたことに苛立ちを募らせていた。


「ねえ。お手本見せてやりなよ」


 その様子をみていた桃志朗が尚孝にいった。


「なんで俺が?」


「いいじゃん。いいじゃん。せっかく来たんだからさあ。祭りといえば射的でしょ。おやじさん。ひとつちょうだい」


 桃志朗はお金を払いコルクを受けとると、尚孝に渡す。


「まじでやれと?」


「当然だよお。義弟に義兄の威厳をみせてやらないとね」


「だれが義兄だ。だれが」


「その予定じゃなかったのん?」


「あるか。つうか。朝矢はの弟じゃないし………」


「ふーん。まあ。どちらにしてもいないから……無理か……」


「お前ってさりげなく人傷つけるよな」


「そう?僕は事実はいっただけさ」


「そういうところがいけないんだよ。さっきから朝矢がにらんでいるぞ」


 そういわれて朝矢の方をみると、確かに桃志朗を睥睨している。


 それすら楽しそうに笑っている桃志朗の姿に尚孝は畏怖の念すら感じる。それなりに古い付き合いなのだが、何を考えているのかさっぱりわからない。


「さあ、はじめてくれるかい。狙うはあのぬいぐるみだよ」


「わかったよ」


 尚孝はため息を漏らしながらも銃口を熊のぬいぐるみに向けた。

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