第23話 闘争心③

「なんばむきになりよっとね」


 控え室に戻ったセイラにこのグループのリーダーを勤めているナオミが眉間にシワを寄せながら尋ねた。


 控室といつても会場となるすてーしせの裏手に建てられたテントの中にテーブルや椅子、鏡があるぐらいの簡素そなものだ。そこにアイドルグループの五人やスタッフが集まり、イベントの準備をしている最中だった。


「別にむきになんてなってないわよ」


 セイラはそっぽを向く。


「あのねえ」


「まあ、むきになるのもわからんでもなかねえ」



 ナオミがさらになにかをいいかけると、鏡をみながらスタイリストにメイクをほどされていたミヤがのんびりとした口調でいう。



「確かに、あのこ。歌うまかったけんね」


 さっきからお菓子を食べているルイが続けるようにいう。


「別にあんな素人、相手してないわよ。ただ、私は完璧なパフォーマンスをしたいだけよ」


「でたーー。セイラの都気取り」


 ファッション雑誌を読んでいるクルミがいう。


「ほんとばい。それにその中途半端な標準語やめてくれんね」


 ミヤが続けていった。


「そげん。ここは九州ばい、うちらは生粋の九州生まれの九州育ちのグループ。やけん、方言でしゃべるもんたい」


 ルイは再びポテトチップスを口にいれる。


「うるさいわね。私はあなたたちとちがうの。こんな地方でおさまっていられるもんですか。絶対に東京に戻るんだからね」


 そういいながら、セイラは立ち上がる。


「どこにいくとね」


 ナオミが尋ねる。


「うるさい。どこでもいいじゃないの」



 そういって、彼女はテントから出ていった。。


「あーあー。もう最悪たい」


 そういいながらも興味をなくしたかのようにクルミはファッション雑誌へと視線を落とす。


「本当になんであがんこがうちにくるわけ?」


 ミヤは鏡に写るげんなりした自分の顔を見る。。

 

「そがんよ。なんで、うちにきたとね? 」


 ルイはミヤのメイクをしているスタイリストに尋ねた。


「私が知るはずなかです。社長の方針とか聞いていません」


「確かにそがんよね」


「あのこ必要なかと思うけどなあ。どうせなら、さっきのバンドの子いれた方がよかとじゃないか?」


 クルミの言葉にミヤとルイも頷く。


「こらこら。そがんこといわんとよ。セイラは真面目で大きな夢をもっとるだけたい」


「だからって、チーム乱すとはおかしかやろう」


「そうたい。結局。うちらのグループにはいったとも、FQでチームみだしていたからやろうね」


「そがん。そがん」


「あのねえ。推測でものいわんとよ」


 ルイやミヤの言葉を否定しつつも、ナオミもその可能性を考えなくはなかった。なにせ彼女は最初から印象のいいものでなかったからだ。


 いかにも自分は都会人で田舎者には興味ないといった感じの態度をとっていたからだ。その態度に苛立ちを覚えるのもいうまでもない。


 はずしてほしいという子とも社長にいってはみたもののもう少し様子を見てほしいと頭を下げられるものだからそれ以上はなにもいえなくなっていた。


(うちらがあのこを変えろってことか。うーん。無理やろう)


 ナオミは内心そう思っている。どうやったら、彼女をはずせるのか。自主的にやめてもらうように仕向けるか。


 そういう悪巧みを考えては見たものの、どうも思い付かない。


 結局のところ、ナオミたちのグループは彼女にたいする不満を漏らすことはあれども、いやがらせをして追い出すような手段ができないチームだった。


 よくこんなお人好しが集まったものだと言われるぐらいだ。


 だから、“softhearted”なんてグループ名がつけられたわけなのだが......。


 その言葉の意味はどういう思いをこもっているのかナオミはまだ知らない。







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