第2話 ドラゴン乗りの討伐者

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 少しすると、2人がやってきた。代わりに勝岡さんは外に行ったらしい。そういえば勝岡さんは非番なのに、わざわざ少女の様子を見にきていた、何かお詫びをしておかないと。


「何で私たちを呼んだの? 私はともかくエドまで」


「江戸崎、国立競技場で何があったか覚えているか、もしくは……その時の俺の記憶を読めるか?」


「……読めないな。空白で、抜け落ちている」


 俺は瀧口さんの質問を一旦無視して、金髪の少女の前で話を進める。


「俺はあの場で、自分の両親と会ってきた。正確に言えば、江戸崎の能力で記憶を立体的に映し出したみたいで。そこで俺と臣の能力を手に入れたも判明した。そして、臣の正体も、世界を滅亡させたい理由も」


 その話を聞いて、瀧口さんと江戸崎は表情を出さないように驚いている。でもその心臓の音は聞こえてくるんだ、少し集中するだけで。代わりに金髪の少女は驚きを顔に出している、当たり前か、彼女は世界滅亡には無縁な存在だからな。


「この世界には"破滅のアダムとイヴ"と呼ばれる、本来のアダムとイヴとは正反対の者が存在する、本当に。そのうちのアダムが臣の中に潜んでいて、イヴはどこかの世界にいる。そもそも世界は3つ存在していて、ここ以外に2つある、というか無限にある、本当に。その3つのユニバースには、それぞれ3つの石が存在していて、全て集まると世界が滅亡するらしい、本当に」


「そんなに『本当に』って言わなくても信じるよ。この世界だったら何でも有り得るし。それで、3つの石はどこにあるの?」


 意外にも瀧口さんには信じてもらえた。その一方で江戸崎は、また異なる疑問を抱いている。


「仮にアダムが臣の中に居たとして、何故アダムは石を奪わなかった?」


「石のありかを知らなかったから、知っているのは……俺の両親と、俺だけ」


 それを聞いた江戸崎は、驚きつつも新たな疑問を投げかける。


「その、私が見れない記憶の中に隠されているのか?」


「まぁ。簡単に言うと……悪魔の論文を書いたのは俺の父親。両親は臣の父親と共に2010年からDream Powderを研究していて、既にアドレナリンとの関係性を導いていた。そこで臣の父親が俺の両親を殺害してDPを独占しようと摂取したら爆発、至近距離で爆発を受けた俺に全てのエネルギーが渡った。山崎と同じように、俺は能力を手に入れていた」


 山崎の一件を理解している瀧口さんとは違い、何も知らされていない江戸崎は、何のことか分かっていない様子。それについては後で話しておこう、今はそれよりも大事なことを。


「Dream PowderやDream Waterは、マザーストーンの近くで採取されたもので、マザーストーンの正体は……3つの石の1つ、力の石。名前の通り、俺たちに力を授けていたらしくて。同じような石が他の世界にもある……というところまでは臣が語っていた」


「DPの正体が、力の石ってもので、破滅のアダムとイヴは力の石、マザーストーンを狙っている、ということか……信じ難いけど、信じるしかないね」


 ほぼ全ての事情を知っている瀧口さんの理解は早い、対して思考を読めるだけでほぼ知らない江戸崎の理解は遅い。SoulTのメンバーだったとはいえ知らないということは、臣はそれだけ計算高いという証明にもなる。そして何も分からない金髪の少女は、当たり前のように困惑していた。


「世界滅亡って……"世界の帝王"のこと?」


 また新しい単語が出てきた、世界の帝王って何なんだ。言ってしまうと、結構ダサい名前だ。破滅のアダムとイヴの方がマシ。


「世界の帝王を知らないの? つい最近あったじゃん、紫の液体を使って世界中の生命体を支配下に置こうとした人が居て、"スカイ"たちが止めたのに、そんなのも知らないの?」


 スカイ、また新しい人名だ。世界征服を目指した世界の帝王は、スカイという人間たちに倒されたのか。知らない単語と知らない人名が勝手に戦っているな。


「分かった。まずは貴方について教えて。そしてシアンとかスカイについても。どうやら……貴方の世界と私たちの世界は違うのかも」


 瀧口さんは、彼女の目を見てそう告げた。あまり考えないようにしていたが、その線は結構有り得るな。彼女が暮らしていた世界にはモンスターがいて、彼女はスケルトンとかいう巨大な骸骨に襲われたらしい。世界の帝王とやらが生命体を支配しようとしたのも……俺たちは知らない。


 対して俺たちの世界には薬物が蔓延っている、Dream Powderというもの。彼女の暮らす世界が別の世界だと仮定すると、向こうには力の石は存在しない、よってDPは向こうの世界は無い。だから文化がかなり異なってくるはず、JDPA_DやSTAGEは存在しないだろうし。


「私の名前は、キミカ・ジュモーグ。リバイル村の研究者で、シアンと共にモンスターに関する研究を行っている。シアンは親友で、白蛇に家族が襲われたんだけど、その時に迎え入れてくれた。アレアのことが好きだったんじゃない? 知らないけど。スカイは討伐者で、みんなの救世主。村が白蛇に襲われた時も助けてくれたし、いつもドラゴンに乗って戦ってる」


 一旦、心の中で整理してみよう。彼女の名前はキミカ、シアンというのは彼女の親友の名前で、ついさっきまで一緒にスケルトンに襲われていた。そしてスカイという人は討伐者、おそらくモンスターを討伐しているんだろう。ドラゴンは味方なのか、分からないがヒーローみたいな存在か。


 彼女、今は控えめだが、根はとても明るいのだろう。俺たちを警戒しているはずなのに、口調がどうも明るい。


「ホシダケント……だっけ。名前覚えてないけど、さっき……能力を手に入れた理由とか言ってたよね。貴方も能力を持っているの? 例えば、どんな感じ?」


 俺は近くに置いてあったダンボールから鉄パイプのような棒を取り出し、それを思い切って曲げた。口で説明するよりも動作で説明した方が早いだろう。


「へぇ〜すごいね。でもスカイの方が凄いよ!」


 待て、スカイという人間も……能力を持っているのか? そのドラゴン乗りの、討伐者とやらも。


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