結 『破滅のアダムとイヴ』

第1話 目覚めた少女

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「ガラスの割れるような音が聞こえた、との通報あり。薬物使用者の可能性あり」

「中部地方から伝達、こちらにも通報多数」

「四国地方からも伝達、異音兵器の可能性あり」

「了解。至急データを集めろ」

「アメリカ、フランスでも同様の現象発生。世界規模の異音とみて間違いないかと」

「各国から異音現象を確認。全世界の国民が不調を訴えています」


 国立競技場付近に設置された緊急対策本部に、俺と江戸崎は運び込まれた。医療班から軽い手当を受けながら、現在の状況を説明された。まず、真っ白な世界が崩れていった時、世界全体でガラスの割れる音が聞こえたらしい。あまりにも爆音だったため、不調を訴える人が多く、パニックになっているとか。


 臣の姿はない、どこへ行ったのかも観測できていないらしい。白はショウと戦った後、そのまま逃亡したとか。俺と江戸崎が白い空間に閉じ込められていた間に、2人は戦っていたのか。


 少しすると、瀧口さんから電話がかかってきた。もうSTAGEのメンバーは各地に分散しているらしい。世界中で当時にガラスの割れる音が聞こえた、この現象を調べに。破滅のアダムとイヴが起こしたものだとは思うけど。


「星田くん、至急JDPA_D管轄の病院に来て。あの少女が目覚めた、ガラスの音と同時に。何かしらSoulTに関係あると思うの」


「"エド"は連れて行きますか?」


「どうせ、テレパシーでこの会話も聞いているんでしょ。念の為に連れてきて、例の少女の思考を読んでもらいたいし」


 エド、というのは江戸崎のこと。江戸崎は仮にも国際指名手配犯、だから公の場ではコードネームで呼ぶことにしている。コードネーム、本名の一部だけどバレないのか、バレそうになったら江戸崎の能力に頼ろう。


 例の少女、JDPA_D管轄病院の地下室で眠っている少女のこと。高エネルギー反応と共に、突然現れた。でも今まで昏睡状態だったから何があったのか聞けていない、その少女がガラスの割れる音で起きた。何かしら、破滅のアダムとイヴとやらに関係あるのかもしれない。


「星田さん、JDPA_D本部から命令を受けています。『星田健誠をここから出すな』と。目的は不明ですが」


 対策本部から出ようとした矢先、止められた。JDPA_Dの本部は何を考えているんだ。まぁ、ショウは戦いで負傷していて、SoulTと戦えるのは俺だけ、だから頼りたいんだろう。


 でも俺は今から行かなきゃいけないところがある、だから俺は江戸崎にアイコンタクトを送った。江戸崎は目をつぶり、何かを念じ始める。


「……訂正です。どうやらその命令は数分前に切れていたようです。手間をかけて、すみません」


 もちろん、これは嘘。江戸崎の能力を使って「命令の期限は切れている」という嘘を、目の前の彼に植え付けただけ。こういう時は便利だな、江戸崎の能力って。こうやって俺たちは対策本部から脱出、例の少女が眠っているJDPA_D管轄の病院に向かった。


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「お疲れ、臣と戦った後に呼び出してごめん。でも彼女の言っていることが全く理解できない。言葉は同じなのに、何というか……異世界から来たような」


 異世界、というワードに反応したのは、俺だけ。江戸崎は俺を不審な目で見ている。奥からやってきた勝岡さんは、たまたま非番で少女の横に居たらしく、ガラスの割れた時の状況を詳しく覚えていた。


「彼女はガラスの音と共に目覚め、叫んだ。『"シアン"はどこ?』と。錯乱しており、私の質問に答えられる状況じゃなかった。シアンという人物について尋ねても『"スケルトン"はどこ?』としか答えなかった」


 スケルトン、シアン、何も分からないな。でも異世界というのは、心当たりがある。さっき臣に言われたからな、いや、アダムに。ガラスの音で目覚めたのなら、何かしらアダムとイヴについて知っているのかも。俺は装備を外し、彼女の元へ向かった。


「気をつけて、彼女は混乱している」


 中に入るとそこには金髪の少女が、前よりも刺さっているケーブルの数は減っているが、それでも多い。青い目で、目つきこそは柔らかいが、ここがどこだか分かっていないのか、キョロキョロと目を動かしている。ケーブルのせいで身動きも取れないためか、全身に力を込めようとしているのは伝わる。


「STAGEの星田健誠です。あなたの名前は?」


「シアンは大丈夫なの?」


「シアン?」


「さっきまで一緒に居たのに……というか、ここはどこ? ハルカーレじゃないでしょ。それに、その格好は何? 見たことないし、そもそも、何で私は生きてるの?」


 非常に錯乱しているようだな。ハルカーレ、シアン、スケルトン、どの単語も分からない。ただの記憶を失っただけの人間かもしれない、もしくは精神に異常をきたしただけなのかも。でも、妙だな。この少女はエネルギー反応のピッタリ半日前に出現した、ただの記憶喪失には見えない。


「そのスケルトンというのは?」


「知らないの? 大きな骸骨の"モンスター"で、私やシアンを襲ってきた。やっぱりここ、ハルカーレじゃないよね。あなた達は誰なの?」


 待てよ、モンスターって……俺が思っているモンスターでいいのか。ゲームとかによく登場する、人間を襲う怪物のような存在。そして彼女はモンスターに襲われた、どうして。架空の存在だろ、モンスターって。彼女は何を言っているんだ。


「君が倒れていたから俺たちが保護した。それで、モンスターというのは?」


「モンスターも分からないの? スライムとかゴブリンとか、最近だってドラゴンとか襲ってきたじゃん」


 スライム、ゴブリン、ドラゴン、どれも聞いたことがある……ただし、創作物で。友達がやっていたRPGゲームに登場してたな。これを聞いた勝岡さんは呆れた顔をして、どこかに電話をかけようとしていた。


「この子は記憶喪失か、精神的な病を抱えている。だから精神病院を探してみる」


 勝岡さんの言う通り、彼女はおかしい。だってこの世界にモンスターは実在しないから、ゴブリンもドラゴンもスライムもゲームの中の存在だ。でも彼女は異世界についてなにか喋っていたんだろ、それだけ気になる。


「瀧口さんと連れの男を呼んでください。3人で話を聞きます。それまで彼女を通報するのは止めてください」


「通報はしてない。彼女を然るべき場所で保護する必要があると感じている。まぁ、ここはSTAGEに任せます。彼女はSTAGEの監視下、私が出る幕ではないと思うので。何かあったら呼んで」


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