最終話 星田健誠編「イヴが、やってくる」

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「無限に世界が広がっているのに、3つの世界だけを滅ぼすのか?」


 さっきから疑問に思っていたことを、今のうちに奴に聞いておく。3つだけ滅ぼしても、他の星や世界に人類がいたら意味がない、それについて奴はどう考えているんだろうか。


「無限に存在している世界か、全てはこの3つのユニバースが基準となっている。これらのユニバースから石を奪い滅亡させれば、他のユニバースも崩れる。何せこの3つだけ、お互いの繋がりが強い。理由は分からないけれども、僕らはゴッデルリックの意志のままに戦うよ」


 一旦、臣の言うことが全て本当のことだと仮定しよう。繋がりが強い3つのユニバースを、新たなアダムとイヴは滅ぼそうとしている。臣はアクマを摂取した時から既にアダムと一体化しており、SoulTを結成したのも全てゴッデルリックの計画のため。もしもこのまま放っておけば、3つのユニバースは消滅し、他の世界も少しずつ崩れていく。


 対処法はただ1つ、新たなアダムとイヴを止めるのみ。無茶すぎる、そもそもアダムとイヴは楽園の創造主が生み出した子供、神の子といっても過言ではない。そいつらを止めろって言うのか、無茶だ。不可能だろ、そもそも信じられないことばかりだし。


 これが臣の嘘という可能性は……まだある。しかし、こんな場面でわざわざ嘘をつくか、それも信じ難い嘘を。常に3歩前を行く、裏をかく存在でもある臣のことだ、こうやってストレスを与えたいのか。それなら有り得る、でもな、突拍子もない事柄が多すぎて理解が追いつかない。


 それに、このことをみんな信じてくれるのか。他人に告げられたとしても、俺は信じないな。"世界滅亡を望む神の子"って、頭がおかしくなったか、厨二病を疑われるかのどちらかだ。


 そして世界滅亡を止めるためには、アダムとイヴを倒す必要がある。臣の能力も分からなければ、イヴが今どこにいるのかも分からない。白も入れて4人。たった4人、されど神。そいつらを、俺たちだけで止めるなんて無理だ。絶対に止められない。


 畳の上で憎悪を抱く少年は、父の仏壇を足で蹴って破壊している。彼はもう既にアダムに取り込まれていたのか、破壊欲に駆られた神の子に。少しすると、記憶を映し出した空間は消滅、真っ白な空間へと戻っていった。奴は仮面を被り直し、手を広げる。


「世界滅亡の力を手にしたアダムとイヴには勝てないよ、だから大人しく諦めてもいい」


 そう面と向かって言われると、諦めたくないな。それに……どちらにせよ、臣は世界滅亡を望んでいる。アダムやイヴの存在が嘘だとしても、それは変わらないだろう。


 そして、俺は父さんの夢を代わりに叶える。そのためには世界が必要だ。目的が何だろうと構わない、俺はアダムとイヴを止める。


「篠原良太か、全部思い出したよ」


 それだけ言って、俺は臣の元へ駆け寄る。奴は嬉しそうに俺の顔を見て、語る。


「やっと思い出してくれたんだね。昔はよく一緒に遊んだんだけどなぁ。君も昔は可愛かったんだよ、今はもう生意気なクソガキだけど、優しかった。こんな僕にも……」


 俺は笑いながら……奴の顔面を横から思い切り殴る。


 グギッ!!


 ストレート、すかさず腹に拳を入れる。足を引っかけ転ばせてから、馬乗りになって顔面を何度も殴り続ける。仮面を無理やり外し、その綺麗な顔面に肘を入れて、鼻を折る。抵抗されないよう膝で手を押さえつけたまま、首を思いっきり絞めて、奴の耳元でささやく。


「お前の負けだ」


 俺に過去の記憶を見せた理由、それは臣の真の姿を思い出してもらいたかったんだろう。しかし、改めてお前を倒すと決意するキッカケになっただけ。お前は常に孤独だった、俺もそうだ。だからって、俺は世界を滅亡させようとは思わない。だからアダムも俺に適応しなかったんだろう。


 俺は6歳にしてDream Powderを摂取した。でも死ななかった、理由は簡単。父さんの夢を叶えたから、幼児の純粋な気持ちが、力の石と呼応したんだ。


 それは……ヒーローだ。


 俺の将来の夢はヒーローだった、父さんの夢も。力の石はその俺の夢を叶えてくれた、というか、叶えるための能力を付与してくれた。ヒーローは力じゃない、気持ちだ。強化された身体能力も、治癒能力も何もかも。欲望を求めるのはDream Powderじゃない、人間の気持ちだ。


「離せ!」


 馬乗りになっていた俺は、謎の紫色の風によって強く吹き飛ばされてしまった。これがアダムの力なのか。奴は曲がった緑の仮面を手にしているも、震えている。目は紫色に光っており、明らかに人間では見られない現象が起きている。奴は息を切らしながら、叫んだ。




「君がヒーローを望むなら、僕は世界滅亡を望む。交わらないのなら、それでいい。僕も戦い続ける……全ては、"破滅のアダムとイヴ"のために!」




 その瞬間、世界が割れた。ガラスの割れるような音、無限に落ち続ける雷のような音と共に、真っ白な世界が崩れていく。俺は眠っている江戸崎の体を掴み、崩れた空間から外へ出る。国立競技場、雷雨で外は混沌としていた。振り返ると、もう奴の姿は見えなかった。


 奴らの名前は、破滅のアダムとイヴ。名前の通り、破滅を望んでいる。目標は世界滅亡、俺も知らない2つの世界と、この世界を破壊すれば、他のユニバースも伴って崩れていくらしい。


 その2つの世界がどういうものかは分からないが、絶対に止めてみせる。だって俺は、ヒーローなんだから。助けを求める人々がいるなら、俺はいつだってどこだって、助けに行く。


 江戸崎を無理やり起こし、仲間の元へ向かおうとした時。気絶している間に何かを見ていた江戸崎が、叫んだ。


「イヴが、やってくる」


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