第69話 ぽっかりと空いた肩の穴

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 バンッ!!!


 強烈な破裂音と共に発射されたショットガンの弾は、俺の背中を血まみれにした。いくら防弾アーマーを着ていたとしても、DP由来の武器には勝てなかった。痛みを感じなかった体も、流石にこの攻撃には打ち勝てず。しかしここで負ける訳にはいかない、と無理やり立ち上がった。


 弾は貫通せずに体内に残っている。よりによって背中だ、足なら自力で抜くこともできるが、背中まで手が回らない。それに弾もDP由来だからか、痛みがジンジンと増していく。


「星田健誠ォ、ここからは俺が相手だ」


 奴はショットガンに弾を込めながらも距離を取った。奴の顔には傷痕がある、こういう戦闘には慣れているんだろう。俺は地面に落ちていた鉄パイプをへし折り、二刀流スタイルで戦うことにした。


 奴が放つのは重い弾、故に装填に時間がかかる。車の陰に隠れようとも、この体……赤く光っているから無理だな。なら正々堂々戦うしかないのか、なのに相手は中距離で戦えるショットガン。近くにある武器といったら鉄パイプと……あれがあったか。


「ガリレオに勝る者など存在しない! お前も俺の手で敗れる」


 奴は叫びながら、ショットガンを正確に撃ってくる。俺は傷んだ背中を酷使しながら、宙を返って避け続ける。右足で踏み込み宙返り、更に天井を蹴って地面に到達してから、横転して車の陰に隠れる。それでも発光しているから、奴は車越しに撃ってくる。


「俺たちはな、克己の元で戦い続けた。時にはお前らみたいな異端児を殺した。なのにお前はヒーロー気取り、だから消す」


 そう言って、奴は新たな武器を取り出した。あのフォルムは、小型ミニガンか! しかもDP由来だ、銃身が赤くキラキラと光っている。これは、食らったら即死だ。なら、どうやって奴に近づけばいいんだ。ショットガンはまだしも、ミニガンなんて弾切れを起こすのに時間がかかる。そうもこうも考えている内に、奴は撃ち始めた。


 ババババババババ!!!!!!!


 小型ミニガンから発射された弾は辺りに配置された車を破壊していく。分かりやすく発光した俺はどこに隠れても、奴に撃たれる。ショットガンよりも重い銃弾は、駐車場の壁を破壊し始めた。普通のミニガンでも、ここまで破壊できないぞ……まずい!


 グシャ……!!!


 俺は右足にミニガンの弾を食らってしまった。弾は無事貫通してくれたが、それでもDP由来の武器であるため痛みは強く残る。同時に奴はミニガンの装填に入った。どう近づけばいいんだ、乱射し続ける奴に。さっき軽く思いついた作戦でいけるか、でもあれはショットガン用だぞ。


 いや、一か八かで……行くしかない。


「喚き苦しめ!」


 奴がそう発した瞬間、俺は車を思いっきり持ち上げた。赤く光り出した俺の体は全体的に強化されている。さっきも鉄パイプをへし折った。だから車を持ち上げて放り投げることだってできるだろう。それに賭けるしかない、俺の未知なる可能性に。


「何してんだ」


 奴が発射体制に入ったその時、急に力が込み上げてきた。注射された青い液体の正体は分からないが、間違いなく力が強化されている。わざわざ奴らが打ってきた理由も分からない、でもな、ありがたい。こうやって奴らに感謝できるとはな、この車も恩返しの一環として受け取れ。


「うおおおりゃああああ!!!」


 俺は持ち上げた車を、最大出力で奴めがけて放り投げた。流石に車をミニガンで撃ち返すことはできずに、奴は車に押し潰された。でも、これだけじゃ終わらない。俺は隅にあったトラックを、潰された奴めがけて押し出した。


 出来る限り、近くに放置された車を全て奴の元へ送り届けた。クリスマスも近いもんな、これは俺からの餞別だ。壁にはドス黒く生臭い肉片が辺り一面に広がっている。でも、奴は死んでいない、下半身の肉が潰れただけ。頭は動いているし、手で必死に出ようともがいている。


 だから俺は奴に尋ねた、ずっと前から聞きたかったことを。


「お前はどこで能力を手に入れた?」


「……聞いてどうする?」


「質問に答えろ、でなければ」


 俺は奴の胸に鉄パイプをねじ込んだ。心臓を突き刺しても死ななかった、だから多少無茶しても大丈夫だろう。


「あああああっあああわわ、分かった! 能力使って強盗していたら佐野に指示された、『その能力を合法で金稼ぎに利用しないか』って、だから俺たちはガリレオに入って戦っている! 能力は瀕死時回復能力、これだけ言えば十分だろ!」


 こいつらも自らの意思で能力を手にしたのか。とは言っても佐野は警察の人間、断れば死ぬ可能性もあった訳だ。ガリレオの正体は、ただの欲望にまみれた薬物使用者の集い。強盗事件を起こした犯人の集まりでもあった。顔を明かせない理由もそれか。


「なら、俺に力を与えた実験は?」


「は、何のことだ?」


「嘘をつくな、話せ」


 余った鉄パイプで奴の顔を叩いても、奴は口を割らなかった。しらばっくれても、もう遅いぞ。お前はもう少しで死ぬ、もしくは無理やり生かされる。その瀕死時回復能力とかいう、永遠に付きまとう罪でな。


「知らねぇよ! 俺は警察官でもない、だから組織の内情とか聞いたことねぇよ!」


 俺の能力も鈍ったか。俺の野生の勘が言っている、彼らは嘘をついていないと。嘘をつくな、でも奴の鼓動は変わらない。下半身が車に押し潰されたとしても、呼吸音がまるで変わっていない。体が赤く光ってから取り戻したこの能力、これを疑うべきか、信じるべきか。


 しかし、俺に考える時間は残されていなかった。


「星田健誠ォ、そいつを離せ。でないと、瀧口波音を殺すぞ」


 心臓を鉄パイプで貫かれたバトルスターは、血を噴き垂らしながらも、倒れた彼女の顔にハンドガンを当てている。それを目に入れた瞬間、俺は片割れの鉄パイプを思いっきり、奴の顔面めがけて放り投げた。短い鉄パイプは、頭蓋骨を貫通。グシャ……という音と共に、奴の顔面に突き刺さった。それと同時に、奴の拳からは光が消え、絶命した。


「おおお、おい。何してんだよ」


 俺は何も言わずに、下半身の潰れた男を片手で引っ張り出し、バトルスターの遺体がある壁まで放り投げた。軽くなった奴の体は野球ボールのように、簡単に飛んでいった。続けて目にガラスが刺さりもがいている男と、背中を蹴られて気絶した吊り目の男を両手で引っ張り上げ、そいつらもバトルスターの遺体のところに運んだ。


「待てよ、助けろよ、どこ行くんだよ」


 ここはあと1分もしないうちに爆発する。だから俺はこいつらを1箇所にまとめておいた。防ぎようのない爆発、俺はそれを止めずに、一方で被害を抑えるためにはこうするしかなかった。薬物使用者の遺体が消滅すれば、爆発は起こらない。


 俺は瀧口さんの目を閉じ、そのまま持ち上げた。体には力が入っていない、温もりは感じられても、動かない。死んではない、けれども出血は止まっていない。ドス黒く、どこか赤い液体は今もなお、コンクリートの無機質な地面に彩りを加えていく。弾も貫通していない、奴らのせいで瀧口さんはこんな目に。


 俺は彼女を抱えたまま、立体駐車場の6階からヒュンと飛び降りる。同時に、奴らは大爆発を起こした。


 ドゴッ!!!!


 豪快な爆発音と衝撃波は、新しく建設されたばかりの立体駐車場を崩壊させていく。瓦礫が上から降り注ぐも、赤く光る体は全ての物理攻撃を防いでくれる。着地も膝を少し曲げるだけで、衝撃を吸収してくれた。


 1階に駐車されていたトラックの荷台にクッションを敷き詰め、彼女を置いて一息ついた途端、俺の体から輝きが消えていった。赤い光も魔法陣も消えていったのだ。同時に、今まで感じてこなかった痛みが俺の体に一気にのしかかってきた。ショットガンで背中を撃たれた激痛、腹を蹴られた痛み、骨折、吐血。全てが、一気に。


 鋭い痛みと出血に耐え切れずに、俺はその場で横になった。早く瀧口さんを病院に送らないと……彼女は死んでしまうというのに……限界だ……ぽっかりと空いた肩の穴を、埋めてくれる人物は……居なくなった。


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