第50話 指名手配編2「不審な男」

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「せーの、で行くぞ。俺は空に、お前は地面に」


 ショウは運転しながらも翼を身につけ、俺はアクション・グローブとアクション・ブーツを身につけた。俺のは新武器らしい、ショウが秘密裏に頼んでくれていた。元からある戦闘力を更に強化してくれた、とんだ代物。対してショウの翼にも新機能が搭載されている。強化された彼の体に合わせた、飛び抜けた力が。


 高速道路に乗り、超高速で走り続ける。100m先にはカーブがあるが、ショウはアクセルを踏んだまま、ハンドルは触らずにゴーグルを着けていた。奴らも俺たちの行動を警戒しているのか、中々撃ってこない。俺とショウは拳を合わせ、ドアを開けた。


「いくぞ、せーのッ」


 ワゴン車がカーブせずに高速道路の壁を突き破った瞬間、俺とショウはワゴン車から飛び出した。ショウはすぐさま翼を展開し、宙を舞う。対して俺は宙返りをし、地面に着地する。ここからは俺たちの腕の見せどころだ。


「目標、分裂。ただちに攻撃せよ!」


 奴らがミサイルを発射しようとした瞬間、ショウは滞空しているヘリの運転席のガラスを拳で突き破り、中にいる運転手を窓の外へ落とした。落とされた捜査官はすぐさまパラシュートを展開したため無事だったが、ヘリは地面に墜落した。反逆の意志を、明確に示した瞬間だった。


 ヘリは何もない大通りに墜落、犠牲者は出てないと思う。しかし大通りで激しく燃えるヘリの残骸は、戦争の幕開けを表しているように見えた。実際に、そうだろう。近くで銃を構えている捜査官の声が震え、怒りに満ちているのが分かる。鼓動は聞こえなくとも、雰囲気で察せる。


「総員、ただちに目標を殲滅せよ!」


 何者かがそう発した瞬間、物陰に隠れていた捜査官が一斉に、俺めがけて発砲してきた。四方八方から弾が飛んでくるも、俺の前では無意味。深く集中することで、俺は動体視力を一気に強化した。オリジナルの能力で、俺は弾の軌道を見極める。


 足元に向かってきた弾はジャンプして避け、肩に向かってきた弾は反って避け、顔面に来た弾は宙返りして避けた。しかし弾は無限に飛んでくる、姿は見えないだけで奥にも三部隊ほど待機しているんだろう。俺の体力を削るのが目的か、しかも俺はヒーロースーツを着ていない。身にくらえば、一発で動きが遅くなるだろう。


 俺は弾を避けながら、民家に身を隠した。中には一般人がいるのは分かっていた、それでも逃げるにはそれしかなかった。奴らはダイラタンシー現象を利用したアーマーを着ていたな、それなら弾を食らっても衝撃を受けるだけで済むだろう。頭もヘルメットに守られている。


 俺は民家に隠れながらも武器を探した。俺は攻撃力が強化されている、すなわち素手で一発殴るだけでも相手は気絶する。しかし発砲し続ける捜査官に丸腰で近づくことはできない、ならば奴らからアーマーを奪うか、どうやって? または銃を奪って発砲するか、それなら奴らも死なない。でも、どう奪うか。


「ああ、助けてください……」


 民家に捜査官が突入していくのが見えた。それと同時に一般人のお婆さんが捜査官に助けを求めに行くのも見えた。俺は1番奥の部屋に身を隠しており、この家には裏口もない。部屋を順番に見ているはずだから、ここに来るのにあと1分はかかるだろう。


「お婆さん、不審な男は見なかったか?」


「物音がしたら……男が入ってきて……」


「どこの部屋に行った?」


「向こうの……」


「そうか、礼を言う。目標が一般人を殺害した。繰り返す、目標が一般人を殺害した」


 俺は何もしていないのに、彼らはそういった内容を司令塔に無線で送っていた。俺は部屋に押し入っただけで何もしていないのに。


 そう考えていた瞬間、捜査官が彼女を撃ち殺した。奴らは俺に罪を擦り付けるために、一般人を巻き込んで……殺した。


「ヴアアアアッッッ!!」


 俺は怒りに狂ったまま、武器をひとつも持たずに奴らの前に出た。彼女を撃った捜査官はニヤリとして、俺のことを撃とうとしたが……俺はそれよりも速く俊敏に動いた。民家の中にある狭い廊下で、ピストルの弾を避けながら、彼女を撃った捜査官の顔面を素早く強く殴った。


 更に奥にいる捜査官の胸に向かって、奴から奪ったピストルを撃ちまくった。ダイラタンシーアーマーがあるから攻撃など効かないが、俺は奴らの胸を撃ち続ける。奥に待機していた捜査官がロケットランチャーを構えていたが、お構いなしに俺は奴の顔面を殴った。


 ここには捜査官が23人、既に5人は倒した。俺は足元に転がっているアサルトライフルを手に取り、容赦なく撃ちまくる。声を荒らげながら、気合いで撃ち続ける、何人かは撃ち返してきたが、気絶した捜査官を持ち上げてアーマーにすることで事なきことを得た。


 更に気絶した捜査官の腰に差していた警棒を取り、近くで装填していた別の捜査官の顔面に向かって投げる。いくらヘルメットで守られていようと、クリーンヒットしてしまえば気絶する。それだけじゃない、俺には拳もある。人がいないであろう近くの民家の窓を突き破って侵入し、戦闘場所を変えた。


 狭い場所の戦闘の方が俺は向いているようだ。廃墟の路地裏も狭い方が、感覚をより集中させられる。続いて10人の捜査官も扉を突き破って中に侵入する、ここは高速道路近くの民家で大きい家ではない。よって10人いたとしても、即座に発砲できるのは3人しかいない。狭すぎて、味方に弾が当たる可能性もあるから。


「よくもォ!」


 俺は叫びながら、また恨みを言葉に発しながら、民家に入ってきた捜査官の顔面を何発も殴った。やはり即座に発砲できる捜査官はいない、何故ならここは狭いから、俺の方が有利だから。男が構えるアサルトライフルをすぐに無効化し、ヘルメットを叩き割る。続いて来た女の捜査官も容赦なく殴る。性別なんて関係ない、敵は敵だ。


 民家をトラップにしながら、中に攻めてきた捜査官らを次々に殴り倒していく。いくらダイラタンシー現象を利用したアーマーだとしても、俺の強化された拳の威力全てを吸収できる訳ではない。ネクタイを緩め、迫り来る捜査官を全て気絶させてゆく。仕方ない、奴らはとんでもないミスを犯したのだから。


 続いて特殊部隊がやってきた。ヘルメットに赤い文字で"TALCON"と書かれている、TALCONは危険な薬物使用者を確実に殺害するために結成された特殊部隊、他の捜査官では手に負えないということが伝わったのか。メンバーは6人、しかし相手は俺だ。力を制御した俺だ。


 俺は気絶した捜査官のポケットからナイフを取り出し、部屋に突入してきたTALCONのメンバーのアーマーにナイフを何度も突き刺した。所詮はダイラタンシー現象、中の液体を全部出せばただのボディアーマーになる。奥から窓を突き破って攻めてきた奴には飛び蹴りをお見舞し、さっきの奴には顔面パンチをお見舞した。


 続けて同時にやってきた4人には、STAGE製の特殊武器をお見舞してやった。その名も"拘束ワイヤー"、以前はカイブツに使った。それで奴らの身動きを完全に取れなくした。次動けるようになるのは、48時間後か。


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