第51話 指名手配編3「ショットガン」

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 民家を出ようとしたその時、1人の捜査官の体が白く発光した。そう、薬物使用者に見られる現象だ。足元には魔法陣のような模様が浮かび上がっている、こいつは民家に暮らしていた一般人を撃ち殺した奴だ。警察官なのに、薬物を使用し……証拠も捏造したというのか。


「星田健誠ォ! お前を殺してやるッ」


 奴は狂気に満ちた目で、高らかに笑いながら叫んでいる。明らかに狂っている、薬物使用者で警察に潜入していたのか。それなら俺を殺す必要なんてないか。そんなことはどうでもいい、奴は一般人を殺した。つまり、俺の敵だ。しかも薬物使用者、だから……手加減しなくてもいい。


 奴は俺に向かって矢を飛ばしてきた。たった1本の矢、しかしそれは奴によって操られている。避けたとしても、また奴の右手に戻り俺の心臓めがけて飛んでくる。先端は鋭く尖っている、これを食らったらどうなるんだ。だが、矢が脅威であるだけで奴本体はガラ空き。奴の首さえ絞めれば、矢の恐怖も乗り越えられる。


 奴はまだ民家の中におり、俺は民家の外にいる。だが奴は自由に矢を飛ばすことができ、俺が奴の元に向かうルートも限られている。そう簡単に首を絞めることは出来なさそうだな。ところで、ショウは無事なんだろうか。さっきから無線が聞こえない。


 空を見上げてみると、まだショウはヘリと戦っていた。それも遠くの方で、向こうには大通りがあるから墜落したとしても安全なんだろう。1つのことに集中すると、例えここからすぐに見える景色でも見えなくなる。それが能力ってものだ、厄介と捉えるかは個人の感想。


「よそ見してんじゃねぇ!」


 奴はまた矢を放ってきた、前転したりバク宙しながら避けても、矢は何度も何度も奴の手に戻り、また向かってくる。民家の近くに落ちていたゴミ箱の蓋で防ごうにも、矢は蓋の直前で止まり刺さらない。その上、俺の背後から矢が飛んでくる。矢は1本しかないが、奴は能力を熟知している。きっと普段から能力を使っていたんだろう。


 厄介だ、普通の薬物使用者は突発的に能力を手にし、暴れる。対して奴は昔から能力を持っていたに違いない。俺を殺すのが目的か、SoulTのように日本に恨みがあるのかは知らないけどな、罪のない人を殺すのは間違っている。彼女はただ、この家に暮らしていただけなのに。


 そう考えると、俺も憎しみの渦に包まれそうになっていた。同胞とか関係ない、俺は奴らとは違う。SoulTの今とも違う、目の前にいる奴とも違う。俺はショウと同じく、ヒーローとして戦う存在だ。ただ日本政府に作られて抹消された存在らしいけど。


 奴の弱点は見た感じ分からないが、深く分析すれば分かるかもしれない。カイブツの弱点を見出したように、奴の弱点も観察して見出してやろう。奴の放った矢は必ず手元に戻ってきている、ほら今も。それに盾に当たりそうになると直前で止まり、回って俺の背中を狙ってきた。


 奴から見えない位置にある矢も、奴は簡単に動かせていた。動かせる範囲はあるとは思うが、その範囲内なら奴から見えなくても動かせる。ただ無限に動かすようなことはしない。俺は動き続けて疲れているというのに、奴は手元に矢を返してから放っている。となると……そうか、充電が必要なのか。ワイヤレスイヤホンのように、使い続けることはできないのかも。


「どうした、俺の能力に怯んだか?」


 奴の手から矢が放たれた瞬間、俺は奴のいる民家へ向かった。奴はまだ廊下にいた、矢は俺の心臓に向かって一直線に飛んできている。しかし、構造はもう見破った。俺は思いっきり体を反って避け、飛んでくる矢を掴んだ。更に両手で、逃げられないようにした。


「……何をしている」


 奴は矢を動かそうとしたが、俺はブーツにエネルギーを貯め、地面に踏ん張った。力を込めて、奴の手元に戻ろうとする矢を、掴み続ける。奴の顔にも焦りが見えてきた。奴はヘルメットを脱ぎ捨て、両手で矢を手元に戻そうと奮闘しているが、無意味に等しい。


 やがて矢は動力源を失い、力も弱くなった。俺は矢を膝で折り無力化させた。奴も奴で、迫り来る俺に脅えナイフを取り出したが、それも無意味だ。俺は奴からナイフを奪い、そのナイフで奴の手首を切った。矢を折ったとしても油断はできなかった、だから……手を切り落とせばいい。


 腰に差してある特殊ナイフを取り出し、力を込めて、思いきって奴の手を切り落とした。そう簡単には切れなかったが力を込めてギコギコと、ノコギリで木を切るようにすると、ポトンと地面に落ちた。上手く切れなかったせいで出血が止まってないが、一応左手も切り落としておく。


「ああああああっああんわわああああ」


 奴は声にもならない声を発しているが、俺は容赦せずに殴り続ける。薬物使用者だから気絶はしない、そう簡単には屈しないように設計されている。電気ショックを与えれば気絶するだろうが、あいにく電気を与えられるような武器は持っていない。


 涙を流しながら苦しみ続ける奴は俺に助けを求めてくるも……俺は地面に落ちていたショットガンを奴の顔面に放った。抵抗できずに歯も欠けた奴の顔は一瞬にして消し飛んだ。さて、あと1分後にこいつは大爆発を起こす。俺は顔面のない奴の死体を持ち上げ、外に出てから……思いっきり空中に放り投げた。


 奴は空中で大爆発。その爆発は鼓膜も突き破れそうなほどの衝撃波を発生させ、ショウと戦っているヘリにも大ダメージを与えた。立ち込める黒煙は一気に周りを暗くさせ、視界を奪っていった。滞空しているヘリも着陸体勢に移っている、これはチャンスだ。


 俺は気絶した捜査官の服装を奪い、ショウに無線で連絡をとってから廃墟で会うことを約束した。奴を殺したからって、命が返ってくることはない。俺が民家に侵入したばかりに、彼女は死んだ。しかしこの民家がなければ、俺は死んでいた。


 これからは……犠牲者を出さないように戦おう。薬物使用者は別だがな。


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