第48話 1週間後……

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 3日後、全ての責任を負い、警視総監の丸川が辞任した。仕方ない、品川区全域を火の海にしてしまったのだから。犠牲者も多すぎた、行方不明者も多すぎる。どれもこれも俺のせいだ、でもこうするしかなかった。最善の手だったかは分からない、ただ結果が全て。過程なんて気にもされない、そういう世界だ。スポーツなんかじゃない、現実。


 後任として、佐野克己さのかつみという人物が警視総監となった。彼は2018年に起きた総理大臣暗殺未遂事件で、多大な活躍を見せた。総理大臣を護り、薬物使用者に発砲したため未遂になった。もし彼がいなければ総理は亡くなっていた、そう言われることもある。


 元々テロ対策特別部隊で活動していた方だから、そういう仕事には慣れていたのだろう。ともかく、警視庁のトップが変わった。JDPA_Dも大きく変わることになるだろう。STAGEはどうなるか分からない、まぁ俺はこれまで通り頑張っていくが。


 そういえば、ショウはどうなったんだろう。彼はカイブツと戦った後、泣いていた。「仕組まれていた」とか「家族」とか「殺され……」とか言っていたな。彼の家族は交通事故で亡くなったと聞いていたが、不安だな。


 戦闘から1週間は休むようにと命令された。これは責任問題に俺たちを巻き込まないようにするためだろう。だから俺はショウとも会ってなければ、STAGEの隊員とも会っていない。それどころか外の情報もあまり分かっていない。俺はJDPA_D直属の病院で過ごしていたから、限られた情報しか知らない。携帯も没収されたし。


 ショウがどこで休んでいるかも、STAGEの隊員が無事なのかも、品川区がどうなったのかも分からない。これからSTAGE本部に行く予定だし、その途中で調べてみよう。


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 恐る恐るSTAGEの本部に入ると……みんなが出迎えてくれた。元気そうだった、目黒隊員もいるし鎌切さんも坂田さんもいる。科学者の西山さんも、エヴァローズさんも。というか元から休みの人を除けば、ほとんどここにいる。ただ、ショウと瀧口さんの姿は見えない。


「ショウはどこにいますか?」


「……来るはずなんだけどなぁ」


 STAGEの課長に尋ねてみたが、分からないみたい。ホワイトボードを見ると、瀧口さんのところには「外出中」と書いてあるが、ショウのところには何も書いていない。今はちょうど朝の10時、とりあえず外出中ということは元気なんだろう。品川区の戦闘で怪我に巻き込まれていたら……キツかった。


「とりあえず、朝の会議を始めよう」


 課長の一声で会議が始まった。議題はもちろん、品川区の今後についてと能力者の扱いについて。品川区は"品川クラウド事件"によって火の海となった。何なら今でも救出活動が続いているくらい。ただの薬物使用者の事件じゃなく、人ではない新たな生物が暴れた事件だ。しかも火を噴き辺りを破壊した。


 カイブツの姿を遠くから視認した市民により、カイブツの姿は拡散され未だに物議を醸している。宗教団体であるため「イメータルが起こした事件だ」と説明することはまだできない、そういう複雑な絡みがたくさんあり、世間はJDPA_Dを疑っている。何なら「人体実験によりカイブツが生まれた」とかいう根も葉もない噂をみんな信じている。


 俺たち、俺とショウの関与も疑われている。「能力者どもが国を裏切った」とかいう説も流れている。もちろん事実ではないが弁明の余地は与えられない、JDPA_DはSTAGEを信頼しているが、俺は信用されていない。ショウも、昔は「アメリカから来た能力者」として敬われていたが、今は違う。「殺人鬼」なんて裏では言われている。


「警視総監から通達だ。STAGE所属の非戦闘員以外の異動が決定した。例外はあるものの……ほとんど全員だ」


 課長から配られた資料を見てみると、科学者や研究者といった非戦闘員以外の隊員のほとんどが、STAGE所属ではなくなっていた。非戦闘員の西山さんやエヴァローズさんはともかく、頭脳班として雇われた目黒隊員、瀧口さん、警視庁の坂田さんと鎌切さんはSTAGEを外されていた。俺とショウは残ることになっていたものの、予算が減っている。


「一応明日から異動となるが……急だな」


 あの山口課長も異動だ。逆にここに残るのは俺たちと科学者くらいしかいない。大きなスクリーンの前で情報収集に務めていたオペレーターの方々もいなくなるし。逆に誰が入ってくるんだ、異動してくる側の情報は書かれていない。それにしても急すぎるな、世間の声を汲み取ったのか。


 資料を見てみんなが頭を抱えていた時、ショウが本部にやってきた。彼は銀色の翼を背負っている、ヒーロースーツは着ていないが。彼は深刻そうな顔つきで会議室に入り、資料を手にした。


「大丈夫か?」


「大丈夫じゃない人に聞くな。翼のメンテナンスをしてきただけだ。それよりこの資料は何だ」


 彼はやつれており、顔も青白い。確かに「大丈夫か?」と聞いてはいけない顔をしている、それは反省点だ。課長は彼に対して説明をしたが、彼は聞いていなかった。無礼な態度というよりかは、ただ気が滅入っているだけなんだろう。この前の家族の話か、殺されたとかどうたら。


「そうか、明日でお別れか」


 彼はそれだけ言って、会議室から出ていった。明らかに様子がおかしい、でも何であのタイミングで彼は家族のことを考え始めたんだろう。しかもあの様子、品川の事件きっかけで思い出したように見える。事件きっかけで変わったものといえば……赤い液体か?


 そう考えていた時、真田から電話がかかってきたため、俺も会議室から出ていき廊下で話した。彼は何故か、焦っていた。


「聞いたか……が……って」


 電波が悪くよく聞き取れない、ここは地下だから。


「警視庁で……入れた……情報だ……死んだ」


 ちょいちょいしか聞こえない、もっと電波のいいところに行くべきか。


「……前警視総監が亡くなった……」


 前警視総監って、丸川さんじゃないか。何で、何でこのタイミングで。確かにクラウド作戦には関わっていたけど、何でだよ。電波が悪かったせいか、急に電話が切れた。地下とはいえ、こんなに電波が悪かったことなんてほぼない。


 同タイミングで、ショウは巨大なスクリーンに映し出されたニュースを見ており、廊下にいる俺を呼び出した。もちろん、前警視総監の暗殺に関するニュース、しかしそこには俺たちがよく知る人物の顔写真がデカデカと映し出されていた。






「犯人は、JDPA_D所属の星田健誠と、平乃ショーン勝、2人は前警視総監を暗殺したのち、警備にあたっていた警察官も惨殺。薬物使用者であるため絶対に近づかないでください。繰り返します、絶対に近づかないでください。見かけた場合は警察に通報してください、薬物使用者です」


 ……俺とショウの顔だった。


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