第47話 カイブツ戦7「黄金の翼」

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 黄金の翼を生やした男は、ショウ。


 彼は病室に居たはずだが……もしかして、傷だらけで負けそうな俺を助けに来たのか。翼は金属製じゃない、それに輝いている。彼は爆発に巻き込まれてボロボロだったはずなのに……そういうことか、アイツも飲んだんだな。米軍から貰った、お守りを。秋葉原で瀕死の俺が飲んだ液体を。


「アアアアアアアッッッッ!」


 激痛に悶えるショウは空中で暴れ発狂しながらも、持ちこたえカイブツめがけてパンチを繰り広げた。スパークリング弾とかそういうのは跳ね返せても、ショウは跳ね返せないんだな。俺は傷の回復に専念しながらも、カイブツの行動を観察した。深く集中することで鼓膜は治り、また足首の不調も無くなった。左腕に力を込めることで、激痛は走るが傷口は閉じていく。


「星田ァ、いけるかッ」


「何とかな……」


 こころなしか、彼の性格が少しだけ変わってるような気がした。痛みに耐えるショウの声は震えているのか、それとも戦いと力に興奮しているのか、パワーがみなぎっているように感じる。俺も負けてられねぇ。俺もやればできる、昔のことを思い出せ。ヒーローに出会ったあの頃を。


 カイブツは念動力を使えるから、遠距離攻撃は効かない。反対に空中を舞うショウのことを操れていないから、念動力の対象は無機物に限るんだろうな。それにショウのパンチが効いているようだ。奴の体は少しずつ輝きを失っている。覚醒したショウの能力からして……弱点はどこなんだ?


「よくも俺らの街をよォ!」


 ショウは怒りを叫びながら、宙に浮かんでいるカイブツの体を飛び回りつつ殴っている。50mを超す人型の怪物に、2mもない人間のパンチが効くのか。となると、近距離攻撃への耐性は少ないのか。それに顔へのダメージが高そう、何故なら顔にエネルギーを溜めて炎を吐き出すから。


 俺はアサルトライフルからスパークリング弾と拘束ワイヤーを取り出し、肘の収納ケースに込めた。それだけじゃない、特殊ナイフの予備を何本もズボンのポケットに入れ、更に送られてきた物資にあったロケットランチャーの弾だけをバックパックに詰めてから、ショウに伝えた。


「ショウ、俺を奴の顔面まで運んでくれ」


「どうするつもりだ?」


「爆発させる。全てを」


 黄金の翼を生やしたショウは、超高速で俺の元に降り立ち、すぐに俺のことを奴の顔面まで運んだ。彼も俺も秋葉原の一件で学んだことがある、それは……ヒーローは独りじゃないということ。何人かで協力してから、やっとヒーローなんだ。孤独の騎士だろうと、助けを借りずに生きる人はいない。俺だってショウだって。


 カイブツの顔は楕円形で奇妙な形をしている。俺はすぐさまナイフを顔に突き刺し、落ちないように登る。その間ショウは輝く翼で奴をおびき寄せながらも、蜂のように奴を殴り続ける。俺はロケットランチャーの弾を取り出し、拘束ワイヤーでスパークリング弾と繋げてから、更にそれを俺の足に繋げた。


 奴は無機物を操ることはできても、自由に爆発させることはできなかった。スパークリング弾が爆発したのも地面に接触した衝撃が原因、それを俺は利用する。もちろん、誰よりも速く飛び続けるショウの力も。銀色の機械を使っていた時よりも、何百倍も速い。たった一瞬にして、品川区内を往復できるほどの速さを持っている。


「ショウ、俺を運んでくれ」


「どこに?」


「奴は俺を操る、だからその前に俺をキャッチしてくれ」


 それだけ伝えて、俺は奴の顔面から飛び降りた。発射され誰の手にも届かない位置にある無機物を奴は操る。それは俺の足に繋がれているスパークリング弾とロケットランチャーの弾も例外ではない。奴は念動力は使い、俺の足に繋がる2つの弾を操り始めた。


「届けッ!」


 しかし、俺には仲間がいる。俺はショウの手を掴み、全速力で飛ぶように伝えた。奴に操られた2つの弾は繋がれている俺に向かって飛んでくるが、繋いでいるのは伸縮性のある拘束ワイヤー。俺は思いっきりワイヤーを伸ばして、弾が飛んでこれないようにした。その上、ショウは弾とは真逆の方向に進み続ける。


 真逆の方向とは……そう、奴の顔面だ。奴は常に顔面にエネルギーを溜めている。いつしか炎を吐き出すために。何ならさっき俺に向かって吐き出そうとしていた、でもショウが来たから吐くのを止めるしかなかった。つまり、奴の顔面にはほぼ全てのエネルギーが駐在している。


「頼むぞ」


 ショウが奴と同じ方を向いて、思いっきり飛んだ瞬間、慣性の法則が働いて、奴が念動力で動かす弾も高速で奴の方へ向かって飛んでいく。同時に俺はワイヤーのついている方の足で思いっきり蹴り上げ、ワイヤーを切り離す。高速で飛んでいく弾を奴は操ることができずに、スパークリング弾は顔面に突き刺さった。


 スパークリング弾にはDPが入っており、下手すれば火薬以上の力が込められている。それとロケットランチャーの弾が作用すれば……どの爆弾よりも強くなる。


 ……ドカンッッッッ!!!!


 スパークリング弾の閃光と、込められたDream Powderと、ロケットランチャー本来の威力が全て相まって、奴の顔面で大爆発を起こした。それだけじゃない、奴の顔面に溜め込んでいたエネルギーと反応して、尋常じゃないほどの爆発が発生した。奴が無機物を操れるのには訳がある、それは遠距離攻撃を食らえばエネルギーと反応して爆発するため。


 顔面に溜まったエネルギーに反応させないため、奴は遠距離から飛んでくる無機物を全て操って跳ね返した。逆に近距離攻撃を受ける分にはいい、爆発など発生しないから。ファイアーレンジャーなら話は別だが。そういうエピソードがあったんだ、カイジンの生態には必ず意味があるって。カメレオンの色彩にも意味があるだろ。


 でもこれくらいの爆発じゃ奴は倒れない。だからそこに追撃する、これは俺たちだけじゃない。JDPA_Dのみんなで。


「目標、距離500。発射用意……発射!」


 四方八方からカイブツめがけて、大量のミサイルが飛んでくる。顔面に大ダメージを食らったカイブツは跳ね返すことすらできずに、全て受けてしまった。「市民を巻き込んでしまうから」という理由でミサイルは使えなかったが、たった今総理から使用の許可がおりた。


「続けて撃て!」


 顔面にも体にもミサイルを食らい続けるカイブツからは輝きも消え、やがて地面に堕ちた。巨大な体は少しずつ小さくなっていき、灰となった。いつもみたいに巨大な爆発は起こさなかった。カイブツの元となった50人近くの信者の体も消滅したようだ、JDPA_Dの無線がそう言っている。


 ショウと俺は安全なところに避難してから地面に降り立った。黄金の翼は地面に降り立った瞬間に消滅した、これも米軍から貰った赤い液体の影響か、俺には存命に活かされたが、彼には新たな翼を授けたということか。


 地面に立った瞬間、ショウは倒れた。無理もない、爆発でボロボロになった体を無理やり動かしたのだから。横になった彼はただ一点を不思議そうに見つめている。顔も変だ、真顔でもなく、正気を生気を失ったように見える。


「大丈夫か?」と聞いても返事がない。


 不安になって救護部隊を呼ぼうとしたその時、彼は泣き出した。


「俺の……家族は……殺され……俺は、仕組まれていた」


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