第40話 情報屋の捜査官

----------


 鎌切さんの同僚の件も調べなければならないが、同時にイメータルの拠点についても調べなければならない。何たって、ショウが活動休止に追い込まれた。今のところ、能力を持つのは俺のみ。だから以前よりも慎重に動かなければいけない、俺まで活動休止に追い込まれれば、この国は滅亡する、そのレベル。


 次の日、俺はまた捜査一課の会議に参加した。今回は鎌切さんの気配りもあってか、昨日よりは会議に参加できたような気がした。そこで得た情報を元に、独りで考える。それで得た結論を会議で発表し、また新たな情報を得る。このサイクルを俺は何度も繰り返した。


 この間、薬物使用者による事件は1つもなかった。これはありがたいのか、それとも大きな事件が起こる予兆なのか、それは考える人次第だな。俺はできるのなら前者で捉えたい。


「イメータルの信者に顔認証をかけた所、とある地域に集中して信者が集まっていたことが分かりました」

「AIの予想から、東京の地区半径3キロ以内に本拠地を置いている可能性があります」

「また、それは品川区である可能性が……確証はありません」


 品川区となると、ここからそう離れてない。前のように覆面捜査官と共に突入することもできるだろう。しかし、前回と違って、ここは大都会だ。下手に刺激すればど真ん中で大爆発が起こる可能性だってある。慎重にいかないと。


 と、ここで会議室の奥に1人で座っていた捜査官が、ある疑問点を指摘した。


「前回は地震によって拠点の特定が可能となった。しかし天の災害による奇跡だ、今回はどうする?」


 彼は……確か昨日は居なかったような気がする。会議が始まる前に名簿を貰ったが、その名簿にも名前が載っていない。バッジを付けているから警察官なのは分かるが、彼は一体何者なんだ?


「あいつは後輩の真田、お前と同じ神奈川県出身の捜査官だ。何でも警視総監の知り合いの孫だとな。実力とコネでのし上がってきた優れ者だ、お前と気が合うかは分からないけどな」と、俺の隣に座っていた鎌切さんが紹介してくれた。


 彼はホワイトボードの前に立ち、状況を整理しつつ、誤った情報を指摘していった。例えば「本拠地は品川区」という文章にバツを付け、そこに「品川区一丁目」と書き加えた。更に「イメータル」の横に「信者数:50人」と書き換えた。彼はこの特殊チーム以上の情報を持っているのか。何でだ、どこで手に入れた。もしかして、警視総監繋がりか?


「君が能力者か、秋葉原では僕の同僚が巻き込まれて死んだ、よろしくね。僕は真田シント」


 彼は俺の前に来て、そう言ってから手を差し出した。皮肉なのか本気で俺に対して怒っているのかは分からない。でも、ここで変な空気を起こしたまま放っておくのは最善ではない。俺は彼の手を握り、感謝と謝罪の言葉を述べた。


「秋葉原の件、本当にすみませんでした。命を捧げた彼には頭が---」


「硬い言葉は必要ない、タメでいい。とにかく今は情報が欲しい。今から君と2人きりで話したいところだけど、あいにく時間がない。連絡先は鎌切さんから貰っておいて。また何かあったら、今度は個人的に教えるよ」


 そう言って、彼は会議室から去っていった。同時に会議はお開きとなった。どうやら、イメータル以外の、薬物に関係ない事件が起きたらしい。彼らは薬物使用者による事件以外も担当しているから、年中師走か……というくらいには忙しい。俺は鎌切さんから真田さんの連絡先を貰い、警視庁を後にした。


「あの犯罪者、野放しにしていいのかよ」

「何たって左遷された鎌切と同じSTAGEだってよ。ダサいチーム名だな」

「薬物使用者と戦うだけで金貰えんなら、俺だって犯罪者になってやるぞ」


 その時に捜査チームの愚痴が聞こえたが、聞こえないふりをした。変に強化された聴力は、こういう時に苦しむのか。「薬物使用者と戦うだけ」って、命を懸けて戦っているのに、そんなことも知らずに愚痴だけ言えるのか。仲間を失った気持ちも分かるけど、俺だって俺を失いかけた。仲間だって。


----------


「SoulTは分かるよな?」


 数日後、俺は真田と話す機会を与えられた。彼は忙しく会議にも中々参加できていなかったが、それでも情報は常に送信してくれた。おかげでイメータルの真の本拠地がおおよそ割り出せた、品川区一丁目にある、とあるダミー会社の地下室だ。どこで手に入れたか分からない情報だが、とても頼りになる。


 それで俺は真田から「2人だけで会わないか?」と誘われ、今は警視庁の地下にある特別会議室で話している。ここは限られた人しか入室が許可されていない場所で、俺も初めて来た。もちろん、鎌切さんはここにはいない。会議に参加している他の警察官も捜査官も誰も。いるのは、真田と俺のみ。


 そして彼は"SoulT"という単語を口にした。そう、SoulTだ。奴らは日本に宣戦布告をした。池袋で捜査官をなぎ倒し、その後法務大臣を攫った。日本の闇社会に薬物を流通させている張本人であり、4人組。仮面を被っているしボイスチェンジャーを使っているから、正体は分からない。


 格闘家にも高校生にも薬物を渡した奴らだ、鎌倉の武士にも。もしかしたらミチルにも関わっているかもしれない。奴らは宣戦布告してから表には出てきてない。捕まってもいない。とにかく、胸糞悪い団体だ、とっとと消えてほしい。


「ああ」


「そいつらだ。SoulTを援助しているのはイメータル。イメータルを潰せば、SoulTも潰れる」


 イメータルは闇の宗教団体、信者に薬物を与え、様々な能力者を生み出してきた。なるほど、イメータルとSoulTが繋がっているとなると説明がつく。薬物を使っている奴らは皆、何かに溺れていた。何かに依存したかったんだ。虐待に悩む高校生にも、家族を失った格闘家にも、よりどころが必要だった。なのに、奴らはそこに薬物を置いた。


 ミチルだって、あいつだって被害者だ。そりゃ警察官を殺した罪はあるけど、葬られた社会の闇に揉まれて、薬物に手を出さざるを得なかった。というか、奴らがミチルのような人間を見つけて、薬物を与えていたんだ。ああ、嫌だが納得した。


「僕の仲間の仇だ。君しかいない、君がイメータルを潰してくれ。イメータル殲滅作戦は既に警察官の間で共有されている。でもSoulTとの関連性を知っているのは僕らと上の人しかいない。後は分かるよな。3日後、12月1日の殲滅作戦で会おう」


 彼はそれだけ告げて、コーヒーを片手に会議室から出ていった。イメータルの本拠地を攻めるとなると、大規模な戦闘になるだろう。俺も体を鍛えておかないと。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る