第39話 人体実験の噂

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 爆発を直接食らったショウは、全治2ヶ月の重体となった。翼とシールドを持っていたが、爆弾の起動速度は凄まじく、シールドを展開する頃にはもう爆発し始めていた。俺は最後尾にいたし、能力もあって助かったが、ショウは違う。薬物使用者は傷の治癒スピードが段違いで速いが……ショウは違う。


 というのも、爆弾に特殊な薬品が使われていたらしく、それは人間の治癒スピードを抑えるものだった。もちろん違法の薬品、快感も幸福も得られないのに、治癒スピードだけは遅らせることのできる。イメータルの奴らは、俺たちが突入することを分かっていて、しかも能力者が先頭にいることを分かっていて、爆弾を設置したというのか。


「不甲斐ない……俺がもう少し早くシールドを展開していれば、ガリレオも巻き込まれずに済んだのに」


 ショウの病室には、俺と瀧口さんと、JDPA_Dの上層部の方がいる。名前は知らないが、肩書きはさっき聞いた。どうやら秘密裏に設置されたガリレオのバックに着いている、情報管理部の人間らしい。情報を管理しているからこそ、本名は教えられないとか。だからか、顔もマスクで隠している。


 瀧口さんとは、この前のことがあって若干気まずいことになっているが、無言で突っ立っている情報管理部の方が居るため、もっと気まずいことになっている。ガリレオとの共同作戦は失敗した扱い、多分そのことを伝えに来たんだろう。しかし……何で俺は爆弾に気づくことができなかったんだ。いつもなら、というか秋葉原の一件から、能力が覚醒されたというのに。


「ガリレオとの共同作戦において、貴方は負傷しました。全治2ヶ月の重体と聞いております。そのため、貴方は2ヶ月間、作戦に参加することができません。2ヶ月間は体の治療に費やしてください。その間、調査は我々とガリレオと、そちらの男と共にさせていただきます」


 情報管理部の男はそれだけ告げると、買ってあったマスカットグレープを枕元に置いて、そのまま部屋を出ていった。爆発を食らって、話せはするものの、手足をぐちゃぐちゃになるまで破壊されたショウは、自身が作戦に参加できないことを悔やんでいたものの、それをどうにかして次に繋げようとしていた。


「星田、頼み事がある。翼のスーツを病室に置いてくれ。どうせ誰も使えないだろ、目標は手に届く範囲に置いておきたいんだ。2ヶ月間、長いけど俺は頑張るから、お前は"それ"を調査しろ」


 俺と瀧口さんはSTAGEの本部に向かった。ショウは2ヶ月間いない、ここからは俺だけでどうにかしなきゃいけない。能力を持つのは俺だけ、でも敵は何十人もいる。下手したら何百人も。前の秋葉原の一件以上の大惨事が巻き起こる可能性だってある。


 でも、俺は瀧口さんとは話せなかった。まるで別人のような気がして。彼女もまた、そう思っているんだろう。だから俺は瀧口さんの車に乗らずに、別のルートで向かった。「友人の家に寄るから」なんて嘘の言い訳をして。こんな所に友人はいない、いや、いた。もう亡くなったんだ、彼は。


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「星田健誠はこれより、STAGE所属捜査官兼警視庁捜査一課薬物担当チームの捜査官として活動することとなった」


 STAGE本部に着いた瞬間、俺はJDPA_Dの上層部の人達にそう言い渡された。俺に拒否権なんてものはなく、またSTAGE本部にいるメンバーと話す時間もなく、俺は無理やり連行された。向かう先はもちろん警視庁、どうやら俺は警察の特殊チームに編成されたらしい。


 警視庁に着くや否や、俺は会議に参加させられた。それもガリレオとの共同作戦で起きた爆発事件について。ここにいる彼らは秘密組織であるガリレオのことを熟知しているらしく、ここではガリレオの名前を出していいことになっていた。もちろん、普通の警察官にその名前を言ってしまうと罰を食らうことになる。


 ちょうど昼過ぎでお腹が空いているのにも関わらず、会議は進んでいく。真面目にスーツを着た捜査一課の方々はデータをまとめながらも、イメータルについての情報を調べていた。ここには薬物対策の捜査官しかいない、よって会話もハイレベルでハイスピードである。


「爆発物に付着していた成分は?」

「ニトロハルペリンゴルゴンβ3です」

「ガリレオが爆発物に気づけなかった理由は?」

「DPの影響ですよ。奴ら、センサーを回避する装置まで発明しやがった」


 あまりにも速く進んでいく話し合いに俺は参加できず、ただボーッと彼らの動きを見ていた。


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「どうだ、調子は?」


「何とか……」


 そう、この特殊チームには鎌切さんも配属されている。彼は元々STAGEの捜査官であったが、秋葉原の事件の後、捜査一課の方に戻された。といっても、STAGEの時から彼は捜査一課に所属していたから、STAGEから抜けたと表現した方がいい。これも複雑なJDPA_Dの仕様だ、仕方ない。


「そういえば、坂田は元気か?」


 坂田さんというのは、鎌切さんの代わりに捜査一課からSTAGEに配属された方で、鎌切さんの直接の後輩にあたる。とは言っても……関わったことはほとんどない。俺はショウや瀧口さんといることが多かったし、そもそもSTAGE本部に寄っても彼は居なかった。捜査一課と兼任だし、彼も忙しいんだろう。


「そうだ、お前に調査の依頼をしたいんだが……聞いてくれるか?」


「どういったものですか?」


「まぁSoulTのことだ、池袋の合同捜査でアイツらが宣戦布告をしただろ。その時に同僚が巻き込まれてな、未だに植物人間状態だ。このままだと、死ぬよりもっと恐ろしいことになる」


「と言いますと?」


「人体実験だ。噂程度の話だが、小耳に挟んだ。DPを体に注入され、爆破の確率を調べるらしい」


 ここで俺は、ハッと目を覚ました。寝ていた訳じゃない、ボーッとしていた訳でもない。ただ、ある言葉を聞いて、脳が急に活性化しただけ。そう、鎌切さんは人体実験という言葉を口にした。俺もまた、人体実験で生まれた存在らしい。人体実験で薬物を注入されて、能力を手に入れたと、池袋の事件で格闘家に伝えられた。


 あくまで噂程度の話だ。しかし、その噂が本当なら、俺に能力を与えた奴らと繋がりがあることになる。俺にとってはチャンス、自身の潔白を証明できる上、薬物に埋もれた団体を洗い流すこともできる。下手すればSoulTやイメータルにも繋がってくる。


「……分かりました。一緒に調査しましょう」


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