第36話 ブラックな戦闘狂

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 幸いにも、各資料室にコンピューターが設置されており、そこから薬物使用者の事件に巻き込まれた被害者リストを調べることができるようになっていた。といっても、資料室自体がひとつの体育館くらいの大きさで、それが15個近くあるんだ。


 JDPA_Dで働いていた時は、本部勤務ではなく支部勤務だったため、本部に赴くことはほぼ無かった。入隊式とか記念事とかじゃない限り。


 とりあえず、1番近くにあった資料室Cに入り、古びたコンピューターで「佐山シグレ」という人物を調べてみた。すると1件だけヒット、2028年に起きた「首都高速少年H爆発事件」に巻き込まれたみたいだ。


 これは俺も知っている。当時未成年の少年Hが薬物を使用し能力を得て、何件かの強盗事件を起こしていた。それを繰り返していたところ力が暴走してその場で爆発。首都高速道路を通っていた車も巻き込まれて爆発し、尋常な被害を受けたもの。


 ……しかし、ミチルが言うには嘘なんだろ。結局は警察に殺されたとかいう。


 ここで「赤井」という名字で検索をかけてみると、今回は60件ほどヒットした。名字だけだからそれもそうか。名前が分からないから特定が難しいが、最近の事件に絞ると2件くらいしかない。2028年に起きた「有名アイドルサイン会殺害事件」と、2029年の4月に起きた「地下鉄脱線事件」の2つ。どちらも薬物使用者が関与している。


 有名アイドルサイン会殺害事件というのは名前の通り、薬物使用者が有名アイドルのサイン会に忍び込みアイドルの人を殺した。そこで何故か薬物使用者も自決、密室空間だったためにファンの皆も巻き込んで爆発した。どうやら犯人は熱狂的なファンでありストーカーだったとか。


 地下鉄脱線事件というのも最近起きた出来事。事故じゃなく事件、これも名前通り薬物使用者が電車内で突如爆発した。ちょうど人が少ない時間帯だったが、それでも多くの人が巻き込まれた。


 どちらも女性と書かれているが、特定できる物がない。とりあえず、ここには載っていない情報を探すことから始めよう。彼女らの中学や高校を調べれば簡単に分かることだ。どちらかの人がミチルと同じ学校に通っていた。個人情報だから探りにくいだろうけど。


 続いて「田島」という名前を調べてみたが、被害者リストにはもちろん載っていない。加害者リストというのもあるみたいだが、それにはアクセスできない。やはりそれは国のトップシークレットみたいな物だから見れなくて当たり前か。薬物使用者の本名は報道される時もあるが、大体特定できずに終わる。


 まぁ理由は簡単で、犯人の死体が爆発して消えるからなんだけど。


 資料室AとJに向かい、そこに書かれていた事件の詳細をこっそり携帯で撮ってから、資料室を後にした。本来は資料を撮ることは禁止されているが……やむを得ないということにしてほしい。


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 随分長居をしてしまったため、もうSTAGE本部には戻れないくらいに遅い時間になっていた。今戻ったところで電源が落とされているだろう。緊急時なら入れるが、通常時は駐車場にある秘密のエレベーター自体使えなくなるため、そもそも本部に入れなくなる。秘密の入口もあるみたいだが、教えられていない。


 家に戻るのもいいが、今は集中して物事を考えたい気分だ。


 集中するとなったら……最適解はあそこだろう。


 俺はチャリで、最も治安が悪いとされている新宿の街に来た。深夜になれば半グレ集団がやってきて、薬物を求めて暴れ始める。といってもそいつらは金がないから、求めるのはDP以外の快感だけを得られる粉。それを捕まえるのは警察の仕事だ。


 しかし警察はDPに気を取られているのか、あえて野放しにしているのか、あまり薬物に対して規制をしない。DPが手回るキッカケになったのは、その警察の対応のせいなのに。まぁ、こいつらは俺の敵じゃない。


 敵なのは、弱者を狙って襲う悪い奴ら。


 俺は廃墟となったビルに自転車とスーツを隠し、黒いパーカーとズボンに着替える。そう、以前はドクターマンという名前で世間を賑わせたが、今は別の服装で活動を続けている。パワードとかネイビーは表の顔、裏は"ブラック"だ。


 適当にネットで買った死神のような仮面を被り、器用に廃墟と化したビルの屋上を駆け回る。いくら仮面のせいで視界が悪かろうと関係ない、結局は感覚で全て分かるから。感覚を研ぎ澄ませれば、どこにどんな物があるか瞬時に分かる。


「誰か助けて!」


「うるせぇ、大人しくしとけ!」


 そう、こんな風に。


 61.6m離れた男の頭目掛けて、下向き46度に空き缶を投げ付ける。高さも違うがこの方向に投げておけば……絶対に当たる。俺が頭の中で計算したから、それも瞬時に。能力も相まって、ただの空き缶じゃなくなっている。鉄の塊を頭の上に落とされたかのような衝撃を味わうことになるだろう。


 カンッ……カンッ……カンッ……


「助けて!」


「だから大人しくし---」


 ここで男性の倒れる音と、女性の走り去る音が聞こえた。どうやらキチンと当たったみたい。安心した、これで当たっていなかったら女性に危害が加えられていた可能性もあった。その場合は直接殴りに行っていたが。


 とにかく、戦っていると集中できる。


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