第31話 捜査官の正体

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《JDPA_D所属の捜査官2名が薬物使用者であったことが判明》


《ヒーローか、悪魔か》


《薬物使用者には薬物使用者で対抗するとの記述---正体は星田健誠(25)と、ヒラノ・ショーン・ショウ(25)であり、報道機関は---》


 警視総監と会った次の日には、もう俺たちに関する記事が世に回っていた。入隊する時に撮った顔写真と名前、出身地や家族構成、丁寧に能力まで記事に載っている。両親は失踪して行方不明になっているとか、一時期北海道で暮らしていたとか、鎌倉の薬物使用者を倒したとか。


 しかし中にはデマも書かれている。


 実は隠し子がいるとか、SoulTのメンバーであるとか、別の国のスパイであるとか。そんな訳ないだろ、隠し子がいるのならこんな危険な活動はしていない。もちろんSoulTのメンバーでも別の国のスパイでもない。ただ普通に生きてきただけの、ただの人間のつもりだ。


「好きなスイーツとかも書かれてるね〜」


 今は瀧口さんの運転する車の中で、ネットニュースとか新聞を読んでいる。STAGE本部に向かうまでの時間潰しだ。ただでさえ新聞の一面に載っている、普通に電車に乗っていったら気付かれてしまうために彼女と一緒に行っている。


 彼女は歳上だが、あるタイミングでお互いタメ口になった。タイミングは覚えていないが……何よりも話しやすい。


 ところで、あるネットニュースには俺の好きなスイーツが書かれていた。どこからその情報を入手したんだろうか、俺はどこにも誰にも言っていないはずなのに。好きなスイーツはショートケーキと書かれていたが……大体みんな好きだろ。甘い物が苦手じゃなければ誰でも。


「瀧口さんの好きなスイーツは?」


 自分のことだけ言っていても仕方ないので、逆に彼女に尋ねてみた。というのも、普通の会話をするタイミングがほぼない。日常が俺たちには存在しない。日々、薬物使用者の対処に追われる毎日だ。


「私はチョコかな。みんな好きだろうけど、他にはプリ----」


 ここで車の中にアラームが鳴り響いた。この音は、薬物使用者が発見された時の合図だ。これが鳴ると、どこに居てもSTAGE本部もしくは現地に向かわなければならない。例え風呂に入っていても、旅行していたとしても。


「場所は?」


「神奈川県小田原市……星田くんの出身地だね」


 小田原か、俺が生まれ育った場所だ。親と一緒に暮らしていたが、失踪して行方不明に。研究職だからって、子育てを放棄するくらいなら最初から産むなって話だ。どんだけ辛い思いをして生きてきたか、2人には分からないだろ。


「小田原市の駅前にある小田原城で、武士の格好をした男が刀を持って暴れているみたい。薬物使用反応アリ、鎌倉の事件との関連性は調査中」


 とりあえず、俺は現地に向かわなければならない。本部で調査を進めなきゃいけない瀧口さんとは、ここでお別れだ。俺とショウの正体を世間に公開したことにより、ややこしい事務作業が簡略化された。だから自衛隊や警察のヘリを簡単に手配することができる。ここだけはメリットだ、ショウと違って俺は簡単に移動できないから。


「じゃあ、健闘を祈ってるよ」


「瀧口さんこそ」


 東京都内の路上で彼女と別れ、俺は自衛隊のヘリを手配した。ショウは既に翼を使って現地に向かっているらしい。前と違って、簡単に能力を使えるようになったから、ショウも移動手段として翼を使うことができる。もちろん、俺も。


 自衛隊ヘリの到着まで3分。

 その間に警察と共に道路を封鎖させ、ヘリが着地できるような場所を作る。交通網が多い道は避けるべきだが、できるだけ広めの道がいい。


「通勤時間帯だぞ! 遅れたらどうするんだ!」


「薬物使用者なんて本当は存在しないんだろ!」


 簡単に道路を閉鎖することはできない。俺と警察の努力だけでなく、一般市民の協力も必要だ。で、彼らは協力してくれるものの文句を大声で叫んでいる。協力してくれるだけでも非常にありがたいからいいか。


 ブルルルルルと派手な音を立ててヘリが到着。

 ヘリに乗り込むと、また野次が飛んでくる。


「税金の無駄遣いが」


「とっとと失せろ!」


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 小田原城に着いた頃には、既に周りが封鎖されていた。現場にはたまたま神奈川県で調査をしていた目黒さんと、翼を使ったショウがいた。彼は既に翼を纏っており、いつでも戦闘可能な状態となっている。


 ついでに言うと、俺の装備はリュックに入っている。彼と違ってスーツと特殊武器だけだから、圧縮可能で持ち運びに便利。翼は折りたたんだとしてもリュックに入りきらない。


「現状報告、小田原城前広場にて赤い武士の格好をした薬物使用者が刀を持って暴れている。現在、四つの部隊に分かれて出口を封鎖中」


 小田原城から少し離れた広場の所に緊急対策本部が立てられており、そこで着替えつつもJDPA_D隊員から報告を受けた。自分が住んでいた街のシンボルだからよく分かる。広場があることも、出口が複数あることも。


「作戦はヒラノに委ねられている。星田は彼の作戦を実行せよ」


 そうだった。彼は一応STAGEの長で、俺はそのSTAGEの隊員。だから彼が命令し、俺が聞く立場にある。だが、JDPA_Dの隊員は知らない。今はお互いに話し合える立場であること。だから俺も作戦会議に参加できる。


 ということで、彼と作戦を考えてみる。


「城は壊すな……後は自由と聞いた。星田はどう考える?」


「奴の攻撃方法が知りたい。だから突撃する」


「今のところ怪我人はいない。発熱反応があるのみ。俺が上まで運ぶから、星田には接近して様子を見てきてほしい」


 こんな感じで、簡単に作戦が決まった。後は実行するだけだ。ショウは作戦を実行する権力も有している。緊急時でない通常の戦闘なら専門家を通して分析するため、作戦を実行するまでかなりの時間がかかるが、今回は違う。


「了解、完全に包囲したまま"ウィング"と"パワード"を目標に突撃させる。第五部隊と第三予備部隊を追加、図書館を通る道に待機させろ」


 これで作戦を実行することが可能になった。ちょうど今、緊急対策本部にいるJDPA_D隊員が一気に作戦実行に向けて動き出したのだ。銃を持って走る者や、無線で連絡を取り合う者もいる。とても、目まぐるしいな。


 ところで、ウィングとパワードってのは何なんだ。


「どうやら政府による、俺たちの新たな呼称らしい。前の法務大臣の息子さんが命名したそうだ」


 ……こんな時に名前なんて、と思ったが意外としっくりきたのでいいとしよう。でも、ネイビーって名前、結構気に入ってたんだよな。好きなヒーローのネイビースターから取ったものだし、ネイビースターの力を貰えそうで……まぁ、いいか。


「星田、準備はいいな」


 彼と手を繋ぎ、翼を起動することで俺も共に空を飛ぶことができる。それで直接、目標のいる城の方へ向かう。


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