第32話 久しぶりだな
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ショウの翼のお陰で、城のある広場まで辿り着いた。ズシンと派手な音を立てて着地したこと以外は順調に事が進んでいる。もう少しカッコよく着地を決めたかったところだ、ヒーロー着地みたいに。あれは膝が痛みそうだけど。
それで赤い武士の格好をした薬物使用者は、刀を持って暴れているらしいが、銃を向けられ包囲されてからは大人しく棒立ちしているみたい。棒立ちしているだけなら捕まえても大丈夫かもしれないが、秋葉原の一件があるため慎重に行こう。
ショウは、薬物使用者の周りを半径50mの範囲で囲っている第一部隊と第一予備部隊に警戒を怠らないよう指示をしている。その間に俺はSTAGEから給付された特殊武器の起動準備を進める。
腰のケースに入っていたのは、五百円玉くらいの大きさの丸いデバイス。
どうやらこれは、STAGEの一員である技術者の西山さんが開発した、Dream Powderを動力源にしたチップ型スタンガンらしい。これを地面に投げることで、近くにいる対象に目掛けて電気を放出し、痺れさせることができるとか。
Dream Powderは悪い薬物だ。快感よりも恐ろしい効力を有しているから。しかし、こうやって武器にも使える。兵器にはされたくないが……使えるものはどんどん使っていこう。
「奇襲のタイミングは星田に任せる。俺はどうすれば?」
「俺が『Go』と言ったら、気を引くために飛んで上からスパークリング弾を放ってほしい。目標には当たらないように」
スパークリング弾というのも、また西山さんの開発したデバイス。銃と似たような形状をしているが、そこから発射されるのは普通の弾ではない。光を纏った花火のような物だ。これで目標の注意を引くことができるとか。これもDream Powderの力を使っている。
こうやって作戦を話していると、赤い武士が突如剣を抜き、こっちに向かって話し始めた。
「お前が星田健誠か」
答える必要はないが、答えないとどうなるか分からないため、一応答えてみる。
「そうだが」
「俺は鎌倉の同志を尊敬している。だから武士となって、お前たちに復讐をするべくここにいる」
赤い武士は「復讐をする」と言っているが、今のところ怪我人はいない。一般市民も巻き込まれてはいない。強いて言うなら、周辺の道路が封鎖されているため、その点で言ったら結構巻き込まれているな。
「星田健誠、お前を殺す」
そう言って、奴は刀を振り回し始めた。その振り回した刀からは赤く光る小さな刃物が大量に出現し、俺たちの方を目掛けて飛んできた。まずい、これは鎌倉の武士と同じ力だ、となると……もっと恐ろしいことが起きてしまう。
赤く光るエネルギー状の小さな刀は分散し、俺ではなくJDPA_Dの隊員の方へ飛んでいき……そこにいた人々の体を切っていった。威力が小さかったからか前みたいに上半身がバラバラになっている者はいないが、腕が切り落とされたり、足が切り落とされたりと、重傷者が多い。
「救護部隊を! 能力者以外すぐに退避しろ!」
目の前で何人もの人の手足が切られていく。くっそ、見ているだけじゃ何にもならない。
「今だ!」と、俺はショウに合図を出しつつ、チップ型スタンガンを奴の足元に3つ投げ込んだ。衝撃を加えられて起動したスタンガンは、辺りに存在する対象物に高圧の電気を流す。
奴も動き出し、スタンガンは踏まれて爆発してしまったが、こっちには何個もある。
「合図が違うぞ……」
ショウはそう呟きつつも、空中からスパークリング弾を何発も何発も放つ。確かに、合図は「Go」と言った気もするな。細かい事は気にしないでほしかったが。
「何をしている?」
奴が空中から放たれるスパークリング弾に気を取られているうちに、俺もチップ型スタンガンを何個も、奴の足元に投げ入れる。踏まれたり切られたりすれば元の子もないため、切られる前に起動させつつ、そのラグを利用して投げておく。
ビリッ!
青白い閃光と爆音を立て、奴の動きは完全に止まった。気絶スレスレの威力を持つスタンガン、一般人が食らえば死ぬ寸前まで追いやられるが、薬物使用者はそもそもの力が強いため、気絶するかしないかくらいまで押し込める。
奴の手から刀は離れたが、奴自身はピンピンしている。息を整えて、刀を拾おうと立ち上がっているのだ。スタンガンを食らってもここまで動けるのかよ。
しかし、これだけで済むと思うなよ。
ショウはスパークリング弾の他に"超衝撃波弾"も持っている。これはエヴァローズさんが考案し、西山さんが開発した、Dream Powderを動力源とした武器。衝撃波を発射できる代物で、当てられた対象物は一定時間動けなくなる。爆音のせいで体が痺れ、衝撃波のせいで体のあちこちが痛む。
一般人相手だと下半身不随になったり、最悪の場合は死んでしまうが、薬物使用者相手だと気絶に追い込むことができる。しかし、奴は鎧を着けているから……最悪近付いて殴るとしよう。
スパークリング弾と違って、超衝撃波弾は一発しか撃てない上、射撃者に対しても過度な衝撃波が来るため、ショウみたいに翼で安定できる者くらいしか使えない。俺だったらどんなに踏ん張っても簡単に飛ばされてしまう。
「今だ」
俺の合図で、ショウの持つ黄色い特殊な大型銃から衝撃波が放たれる。
ズドンッ!
衝撃波のせいで地面はえぐれ、奴は50mくらい吹き飛ばされた。スタンガンを食らっても立てていた奴は、壁に頭をぶつけたのか動けなくなっていた。兜も脱げ、鎧も破損している。これが衝撃波の威力か……聞いてはいたけど、実際に見ると恐ろしいな。
刀を回収し、近くで待機していた第二部隊にそれを渡してから、俺も奴の方へ向かった。
ちなみに、衝撃波を放った本人のショウも結構吹き飛ばされていたが、翼があるお陰ですぐに地上に戻って来れていた。
兜の脱げた犯人の顔を覗いてみると、そこには俺の知っている人物がいた。
「久しぶりだな、ケント」
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