第26話 秋葉原爆発事件の犯人についての会議

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 今いるのはSTAGEの本部、JDPA_Dの隊員はおらずSTAGEのメンバーやそれらに関わる者のみ。JDPA_Dの隊員には全員帰ってもらった、もちろんショウの命令で。STAGEの中で最も権限を持っているのはショウだが、彼はそのほとんどの権利を放棄している。


 つまり、今は課長がリーダーとして動いている。外から見たら課長の言う通りにショウが命令を下しているだけだが。権利を元に戻すのにも面倒な大量の事務作業があるから、少しの間はこのままにしておくらしい。


 ショウがある程度の予算を注ぎ込んでくれたおかげで、モニターが複数台本部内に配置された。今までもあったが、今回はJDPA_Dの本部にもあるような巨大なものだ。これで以前よりも連携しやすくなる。イヤホンや小型スタンガンといった携帯品もJDPA_Dから支給され、より皆が現場に駆け付けられるようになった。


 そして人員も増えた。


 警視庁捜査一課の鎌切さんの後輩である、坂田信茂さんが新たにSTAGEの一員として活動することになった。というもの、STAGEは20名くらいのメンバーで活動していたが、そもそもSTAGEは警視庁とJDPA_Dが連携して作られた捜査班である。


 だからこそ、民間人である科学者の西山さんやエヴァローズさんも活動できるのだが、鎌切さんは捜査一課に戻ることになった。だから代わりに坂田さんが来た。結局はJDPA_Dと警視庁直属の組織だから、鎌切さんは警視庁に戻っただけ。そこまで話せてはいないが。


 更に、俺の戦闘用スーツが完成した。


 これはショウが予算を出し、目黒さんがデザインしてくれた物。硬いネイビーの素材でできているが、関節部分は黒い布で曲げやすくなっている。目黒さんの趣味も入っているのか、ヒーロースーツぽい見た目だ。顔はクールな仮面で隠れていて、胸のところには丸い模様が描かれている。


「ところで、ヒーロー名とか決めないの?」


 そう提案してきたのは瀧口さん。いつもと違って髪を後ろで束ねている……ダメだ、彼女の心臓の鼓動音が明確に耳に入ってくる。こういう日常生活でもお構い無しに、能力は常に発揮されるのか。


「俺もアメリカに居る時に"ファルーク"という名前を付けてもらった。意味は分からないが……名前は付いていた方がいいぞ」と、ショウは笑いながら言っている。


 名前か。好きなヒーローは『ファイアーレンジャー』のネイビースターで、スーツの色もネイビーだが……流石にそこから名前をパクるのはマズイよな。ネイビーから連想できるものと言ったら、海軍とかそういう系統か。


「なら、ネイビー。スーツの色もそうだし」と、俺はショウに対して答えておいた。


「よし、星田健誠。秋葉原の事件について調査するぞ。何せ犯人の顔を見たのはお前しかいないんだ。監視カメラの映像も全て燃えて消滅した。身元の特定を急ごう」


 ネイビーって呼ばないのか……なんてツッコミそうになったが、今はそれどころじゃないな。俺もファルークなんて呼ばないし。秋葉原の爆発事件の犯人の顔を調査するのが、今は最優先事項だ。


 会議室に瀧口さん、目黒さん、ショウ、警視庁の坂田さん、学者のエヴァローズさん、技術者の西山さんを呼んで、秋葉原の事件についての会議を始めることにした。


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「星田くん、犯人の特徴は?」


「目が虚ろで焦点は合っておらず、口からはヨダレを垂らしていました。またどんなに殴っても、棒立ちのまま抵抗してきませんでした」


「なるほど、別の違法薬物を同時に摂取している可能性が高いですね」と西山さん。


 技術者の西山咲さんは、Dream Powderについてを主に研究している方。また同時にDream Powderを技術的に運用することも考えているらしく、DPを燃料にしたら膨大なエネルギーが生まれることまで突き止めた。しかし、色々とあって外には公表できていない。とにかく、素晴らしい技術者だ。


「DPを手に入れようとする若者は多いが、この時代でDP以外を使った奴がいるのか。こっちでも独自にルートを調べておく」と坂田さん。


 警視庁の坂田さんは捜査一課というだけあって、今までに数々の難事件を解決してきた。しかしここ最近は違法薬物絡みの事件が多く、また対処できるのはJDPA_Dの隊員くらい。だから職を退こうとしたが、先輩である鎌切さんに紹介されてここに来たとか。警視庁内に知り合いが多く、独自の方法で調べてくれるそう。


「理論的でないが、洗脳の可能性もある。洗脳で能力の叶えやすさを操作できたら、スナップだけで爆発を起こせるのも理解できる」とエヴァローズさん。


 彼は違法薬物について研究している学者で、イギリス出身だが日本語は達者だ。過去にも何度かお世話になった、彼の趣味のビデオから格闘技を学んだようなものだから。おかげで格闘家の彼を倒すことができたし。


「洗脳の線もあるな。薬物で気を紛らわせて能力を獲得するよりも、洗脳で確実に能力を獲得した方が良い部分もあるが……現実的なのは薬物か」とショウ。


 いや、もう1つ大きな特徴があったじゃないか。


「彼は手首にリストバンドを付けていました。以前池袋で戦った男もそれを付けていましたが……恐らくSoulTが関わっています」


 重要なことを言い忘れていた。格闘家の彼はSoulTによって付けられたリストバンドのせいで殺された。で、秋葉原の犯人もそれを付けていた。となると、やっぱりSoulTが裏で手を回していることになる。


「やっぱり。SoulTとなると国家に対する宣戦布告をした団体ですから、急いで報告した方がよろしいかと」と瀧口さん。


 SoulTに会ったことは、誰にも伝えていない。だって「お前は実験体だ」と言われた後だから。この中にも俺を実験体にした奴らがいるのかもしれない。決して彼らを疑っている訳じゃない、SoulTや格闘家の彼が嘘をついている可能性の方が高い。


 しかし、俺が実験体だというのが嘘でも本当でも、SoulTの奴らが敵であることには変わらない。


「なるほど、洗脳と薬物といった2つの可能性があり、確定でSoulTが関わっているとなると……JDPA_Dに報告だ。電話じゃなく直接、星田も着いてこい。会議はここで終了、各々情報を集めよう」


 ショウの一声により会議は解散、俺は彼と共に東京駅の前にあるJDPA_D本部に向かうこととなった。


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