第21話 ヒーローは独りだけでいい

----------


 思わず声が出てしまった。しまった、上に一般人がいるのか。じゃあ急いで5階に行かなければ。階段は燃え崩れてしまってもう使えない。それならもう一度地上に戻って、助走をつけて高く跳ぶか。いや、そんな時間はないな。ならどうすれば。


「建物の裏に非常階段あり、もしくは窓に複数の突起あり」


 避難途中の隊員は俺にアドバイスをし、しんがりとして避難活動に戻っていった。建物の裏の非常階段を使うか、もしくは窓の突起を使うか。てか、窓の突起をどう使えば上に行けるんだ。もしかして……ボルダリングの要領でやれということか?


 窓を蹴破って外から見てみると、窓の近くに複数の突起があった。何のためにあるのか分からないが、俺なら行けそうだ。命綱は無いが、俺は落ちても平気だろう。後は5階にいる一般人の命が無事であることを祈るのみ。


 ボルダリングの要領で、突起を使って巧みに壁を登っていく。落ちたら最初からやり直しだ、死にはしないがその分タイムロスになって、一般人の方々の命が危うくなる。だからノーミスで5階に辿り着く必要がある訳だ。


 1個ずつ、指しか置けないような小さな突起に指を掛けていく。人差し指2本で、体重を全て支えなければならないんだ。まぁいい、今がどんなに苦しくても……救えなかった時の方が苦しいから。


 それで5階まで登りきったところで窓を蹴破り、中に入ってみると奥の部屋に自衛隊の隊員でも何でもない一般の方が3人いた。どうやら事務の仕事をやっていて、たまたま5階に用があったらしい。とにかく、3人が無事でよかった。


 外には巨大なマットが置かれていた。これなら5階から落としても平気そうだな。


「今日見た物は全て忘れてくださいね」


 3人にそれだけ告げて、5階から1人ずつ落としていった。特殊なマットは3人を怪我なく包み込んでいく。3階にいた自衛隊員もマットに飛び込んでいった。彼らもみんな無事だ。


----------


 急いでSTAGE本部に戻ると、皆慌てていた。分析画面によると、同時に30箇所で爆発・火災が起きたらしい。東京の渋谷区を中心に、半径50km範囲の場所で一気に。俺たちがさっきまでいた目黒基地もその火災によってのものだった。


「目黒区内にある木造建築が火災により消失!」


「こちら品川区、爆発により死者1名」


 東京中に散らばっているJDPA_D隊員や警察と連携を取り、STAGEの独自の技術でそれらを分析する。東京駅に本部があるJDPA_Dよりも、渋谷区に近いSTAGEの本部で分析する方が行動に移しやすいからだとか。


「目黒と星田、ただいま戻りました」


 そう目黒さんが報告すると、奥の会議室で偉い人と話し合っていたショウが出てきた。銀色の翼が付いたスーツを着たままだ、もしかして出動したのか。彼は翼を持っているから俺よりも遠くへ行くとこが可能。壁をよじ登る必要もない。


「星田、お前は力を使ったか?」


「はい」


「何件救った?」


「一件です。目黒基地内の事務員を助けました」


 そう答えると、彼は声を出しながら笑い始めた。周りで皆が慌てて分析を繰り返している中、機械音しか鳴っていない部屋で急に笑い始めたんだから不気味だ。彼は持っていたペンをいじりながら、急に俺のことを睨みつけ説明し始めた。


「目黒基地から南2km地点でも同様に火災が発生していたが、そこには向かったか?」


「いいえ」


 ……2kmって相当近いじゃないか。こんな近くでも爆発が起きていたのかよ。しかも俺はそれに行けなかった。能力者であるのにも関わらず。


「お前は能力者なのに助けられなかった。安心しろ、俺が代わりに飛行能力で助けた」


 それを聞いてホッとしたが、それどころじゃない。彼が向かわなければ、俺は近くの命を見捨てていたことになる。素晴らしい聴力と身体能力を持っているのに、俺は----


「いいか、ヒーローは独りだけだ。俺だけ。お前みたいな役立たずな化け物は必要ない」


 彼はそう言って、俺のことを無理やり外に追い出した。


----------


「星田さん、今日くらいは楽しみましょう」


 俺は強制的に休暇を取らされているのだが、寮に居ても何もすることもない。かと言って、俺を実験体にしてきた奴らのことを調べるには時間が短い。だから今は、目黒さんの買い物に付き合っている訳だ。


 一昨日の一斉発火現象の謎は未だに解明できていないが、こういうのは大体薬物使用者の仕業だ。一斉に広範囲で爆発するんだ、自然現象なはずがない。


「今は16時……夜ご飯はどこで食べますか?」


 目黒さんはあくまでも仕事としてここにいる。仕事というのは、俺の監視。有給は認められなかったが、能力者の監視を任されているとか。だが軟禁する訳でもなく、彼は俺を外に連れ回している。ある程度の自由は許されているのか。


 とにかく、だからか彼はスーツ姿だ。ラフな格好をしているのは俺だけ。これなら俺もスーツを着ていけばよかった。


「奇怪ストレンジャー専門店に行った後、夜も食べましょう」


 ……彼は特撮ヒーローが大好き。俺も聞いたことのないような特撮ローカル番組の専門店にこれから行こうとしているみたい。まぁ、暇だし着いていくか。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る