第22話 特撮オタク、大爆発
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奇怪ストレンジャー、関東の上の方の地方でしか放送されていない特撮ローカル番組。目黒さんはそれを1番推しているとか。特撮番組は昔観ていたくらいで今はよく分からないが、ここまで映像のクオリティが進歩していたんだな。
それにスーツがかっこいい。4人組のヒーロー軍団で、赤青黄白のスーツを各々纏っている。リーダー格の赤は赤いゴーグル、頭脳の青は右手にドリルを、豪快の黄色は巨大な盾を、ヒロインの白はミラクルな銃を身に付けている。どれも個性的だ。
「僕はホワイトウルフが好きなんですよ! 星田さんは誰が好きですか!」と彼は目を輝かせながら聞いてきた。
どうやら赤はレッド、青はブルードラゴン、黄色はイエローシールド、白はホワイトウルフという名前らしい。ビジュアルで言ったら、盾を持って皆を守るイエローシールドが好きだが……やっぱり主人公が好きだ。
「俺はレッドかな」
「レッド推しですか! スーツが1番かっこいいですよね!」
確かに、レッドのスーツはシンプルでかっこよく見える。他は盾だったり銃だったりドリルだったりと付いているが、レッドのみシンプルに拳だけで戦ってるヒーローらしく、赤いスーツに赤いゴーグルしか身に付けてない。このシンプルさが好きだな。
「星田さん用のスーツも早めに作りたいですね」目黒さんはそう笑顔で呟いていた。
ショウには専用のスーツがある。銀色の機械的な翼と、それを装着するための銀色のウィングスーツが。ヒーローみたいでかっこいい。対して俺は何もない。モーションキャプチャーを撮る時に着るスーツもどきはあるが、とてもヒーローには見えない。
「デザインは僕がしますよ。何がいいですか?」
そうだな……俺が幼い頃に観ていた特撮番組の姿でも真似てもらいたいかもな。俺は『ファイアーレンジャー』という作品が好きでずっと観ていた。炎の力を纏った3人の戦士が、宇宙からやってきた悪と戦う話。それの追加戦士枠に、ネイビースターという男がいた。名前の通り暗い青を纏ったヒーロー。
ファイアーレンジャーのメンバー3人は剣とか炎とかを使って戦うのに対して、ネイビースターは拳だけで戦うヒーロー。ファイアーレンジャーと悪の戦いで家族を失った彼は、3人を倒すために戦士となった。しかし真実を知ったため、3人と共に悪を倒すためにファイアーレンジャーの一員となった……はず。
その男みたいに、暗めの青でスーツを作ってもらいたいな。白い仮面を被り、青いグローブで宇宙人を殴り続ける。そんなネイビースターみたいに俺はなりた----
ドゴンッッッ!!!
外から、巨大な爆発音が響き渡ってきた。
爆発音だけじゃない、衝撃波もだ。
強烈な衝撃波は爆音と共に、店のガラスを割っていく。このままでは中にいる客や店員にガラスが突き刺さってしまう。だから急いで目黒さんに指示をして、近くに置いてあったマネキンを使って飛び散る破片を全て防いでいった。
「秋葉原付近にて火災発生、損害不明!」
目黒さんの耳にはイヤホンが、おそらくSTAGE本部から指示を受けているんだろう。彼はスピーカーモードにして、俺にも指示が聞こえるようにしてくれた。
となると、この爆発と衝撃波は……薬物使用者の仕業だ。前の渋谷を中心に一斉に火災を起こした奴と同じと考えてしまってもいいかもしれない。しかし前の時は衝撃波を発生させるほどの爆発は起こっていなかった。
「秋葉原の中心部で大規模な爆発が発生した模様。同時多発ではなく、一箇所に大規模な爆発だ。前回と違いパワーが集中している可能性が高い。目黒と星田は現場に直行願う」
急いで力を込めて能力を発動し、目黒さんと共に爆発現場の方へ向かった。今は9月、17時でまだ明るいが煙のせいであまり周りが見えない。大規模な爆発というのもあり、火が燃え移っているとの報告もあった。
だからここで目黒さんとは一旦別れ、俺は薬物使用者の方へ向かうこととなった。目黒さんは消防士と連携して燃え移った火を消すことに。これはSTAGEではなく、JDPA_Dからの直接命令。
秋葉原の大通りに、爆発が発生する10秒前に熱反応があったとの情報を得た。つまり、犯人はそこにいる。間違いなく薬物使用者だ、これは能力を使った時の合図だろう。そこから移動している可能性もあるが「爆発を起こす」という能力なら、高速移動はできないはず。単独犯なら。
目黒さんから受け取った予備のイヤホンを耳に装着し、とにかく走る。元々ラフな格好だったから、フードを被って集中して走るだけで能力は発揮される。煙のせいで見えにくいが、そんなことは気にしてはいられない。
「薬物使用者の能力発動が確認された。今から1分以内に爆発が再度発生する恐れあり」
またイヤホンにJDPA_Dから直接情報が入ってきた。この情報が正しければ、また衝撃波を伴う大規模な爆発が発生する。だから俺が阻止しなければ。薬物使用者の能力発動がちょうど今確認されたとなると、まだそんなには移動できていないだろう。
秋葉原のどの地区にいるか尋ね、そこから位置を特定して、走る。煙で見えにくいが、集中すれば集中するほど感覚が研ぎ澄まされ、目をつぶっていてもどう進めばいいか分かるようになった。
1回止まって、深呼吸する。
吸って、吐いて、吸って、吐いて、集中して。
すると嗅覚や視覚や聴覚が、一気に研ぎ澄まされる。周りにいる市民の恐怖心や叫び声、助けを求める声が一気に伝わってくる。どんどん早くなる心臓の鼓動の音や、パチパチと燃え盛る炎の音も。
「助けて……まだ中にいるの」
「誰かいないのか!」
ドクッ……ドクッ……
「Help」
「助からないんだ」
ドクン……ドクン……
「もう終わりだ」
「あそこにね、お母さんがいるよ」
ドン……ドン……
人々の声を聴いていて分かった。近くに1人だけ、一言も発さずにただ歩いている男がいる。声を出せない訳でもなく、逃げ惑っている訳でもない、心臓の音は早くなっていくが、それにしては落ち着いている。体温の異常な上昇も感じられるし、笑う声も聞こえる……こいつが犯人だろう。
俺は奴の元へ全速力で駆けて行ったが……間に合わなかった。指を鳴らす音が聞こえた瞬間に、近くに建っている高いビルで爆発が起きた。ガラス張りだったのもあって、大量のガラスの破片が降り注ぐ。幸いここからは離れているが……あそこには目黒さんもいたはず。
今すぐ目黒さんを助けに行きたいが、目の前には爆発を起こした犯人がいる。目黒さんや市民を助けに行くべきだろうけど、薬物使用者を倒せるのは俺みたいな薬物使用者のみ。だからここは……俺の役目だ。
煙も止み、視界がクリアになってきたところでやっと奴の姿を視認できた。黒いパーカーに赤い例の仮面、中肉中背の男だ。SoulTに関係しているんだろう、以前の格闘家の男のようにリストバンドを手首に付けている。秋葉原を壊して何がしたいんだ。
「お前は、俺が倒す」
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