第18話 翼を生やした男

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「奴を捉えたか。ウィングスーツに付属している銃で奴の頭を狙え。必ず先生を保護しろ」


 何らかの隊長らしき人から命令が届いた。聞いたことない声だから、警察のトップかJDPA_Dの新しいトップか。


 木谷大臣を絶対に助けなきゃいけないが、空を飛んでいる薬物使用者の頭だけを撃ち抜くのは至難の業だ。俺だって安定して飛行している訳じゃない。滑空しているだけだから、一旦奴より低い位置になれば……もう一度上がるかしなければならない。


 腰に付いていたボタンを何度か押すと、両方から拳銃が現れた。安定して飛行しつつ、奴の頭を狙え……俺には無理だ。


 それでもやらなきゃいけない。


 俺の装着しているイヤホンにはマイクも搭載されている。そこで俺は何らかの隊長に向かってある提案をした。


「木谷大臣だけを保護するのは可能ですか。奴の駆除は他に----」


 流石の俺も、木谷大臣の保護と奴の駆除は同時に行うことができない。そのため奴に近づき彼だけ奪ってその場から逃走。そうして後は自衛隊たちに任せればいいと考えた。


「----分かった。先生を奴から奪取しろ。駆除は自衛隊がやる」


 何とか案が通ったところで、俺は急降下した。とにかく、彼を保護すれば良い。気が楽になった。


 奴の姿を捉えているが、奴の顔はまだ見えない。上空ということもあり安全のためゴーグルも着けていて、赤い視界に阻害され周りもよく見えない。


 急降下して急降下して、一気に浮上する。まずは奴に追いつく。距離はとても離れているため、位置を先に合わせる。


 風を切り裂き、抵抗に阻まれつつも奴の真上に辿り着いた。奴も周りをグルグルと飛行しているだけのため、少しは疲れているはずだ。


 スキをついて、俺は一気に急降下。


 奴を目と鼻の先に捉えたところで、ザクッ……と奴の腕にナイフを突き刺した。奴は刺された痛みに苦しみ、彼を離す。そこを狙って彼をキャッチ、保護することに成功した。


 彼は気絶していたが死んではいなかった。俺は姿勢が崩れればそのまま墜落してしまうため、彼の俺をロープで繋ぎ落ちないように固定した。流石はJDPA_Dの技術、何十本のロープやゴムが彼の体に巻き付き、ウィングスーツに密着させるように自動でくっつけた。


「ああ……」


 奴は叫ばず、静かに痛みに耐えている様子。しかし俺が彼を保護したのを見た瞬間、怒りの形相をして俺に向かってきた。


 奴は髭を生やした中年男性。太った体を持ち、薬物の力で翼も生やしている。髪も薄く、どこにでも居そうな男性だ。それがどうして薬物を使うようになってしまったのか。顔や体つきだけでは何も分からないのだが。


「返せ、そいつは私たちの物だ」


 そいつ……ってのは彼・木村法務大臣のことだろう。しかし、私たちの物って何だ。お前らSoulTの物でもない。というか物じゃなく、人だ。


 とにかく俺は奴から距離をとる。奴はもう少しで辿り着く自衛隊のヘリに駆除される運命だ。俺たちはその範囲から逃げて、彼を無事に送り届けなければいけない。


「返せと言っているだろ!」


 彼はそう叫んだ。十分に距離をとったはずなのに、鮮明に声が届いた。バランスを崩さないように後ろを振り返ってみるも姿は無かった。


「上だ」


 また奴の声が近くから聞こえたため、その通りにバランスを崩さないようにして上を向くと……そこには金色の翼を生やした奴がいた。


 目は赤く光っており、皮膚も赤くなっている。白い翼だったはずなのに、今は金ピカに光る翼。何かがおかしい。


 そうこう考えている内に、奴は俺の下に回って彼の体に巻き付いているロープを切り刻み、また彼を回収して飛んで行った。ロープを切るのに奴が使っていたのは、俺の腰に差してあるはずのナイフでだった。


 一瞬の出来事だったため、何も抵抗ができないまま。


「目標、保護された木谷大臣を奪い返し---」

「何をやっている、これだから----急いで保護せよ」


 慌てた口調の無線と共に俺を責める無線も入ってくる。その言葉を聞き終える前に奴に抵抗しようにも、奴は俺のナイフで俺の纏うウィングスーツに穴を開けてきた。


「落ちろ、泥棒め」


 奴はそう言い放つと、ウィングスーツをビリビリになるまで切り裂いた。俺のことは一切傷付けずに。奴の顔面を殴ることもできたが、バランスを崩した俺はそのまま地面に落ちていった。


 まずい、このままでは海に落ちる。


 流石の俺の能力でもこの高さから落ちれば……死ぬ。パラシュートも一緒に切り裂かれたため、助かる見込みは無い。


 どうにか能力を使えないか。

 体は白く光っているが、これといった目に見えるような能力は使えない。


 無線も俺のことを見捨てたようで、どう木谷大臣を保護するかだけ考えているような会話が耳に入る。


 どうすれば……最悪俺は……どうにか生きたいが……どう----




「大変だな、星田」




 無線に何者かの男の声が聞こえた。誰だ、聞いたことないが……俺の名前を知っている上にどこか楽観的な口調だ。


 と、ここで同時に風を切るような音が聞こえた。ビュン……ではなく、ビュオオオ……というように重い音。ジェット機のような音も少しだけ混ざっているが見えない。


「俺はこっちだ」


 今度は無線でなく、直に聞こえた。

 声がした方を向くとそこには、銀色に光る機械的な翼を生やした若い男が飛んでいた。聞いたこともない声だし、見たこともない顔だ。彼は墜落する俺の背中にある小さな機械を取り付けた後、金色の翼を生やした奴の所へ向かって飛んで行った。


 俺に取り付けたのはパラシュートだったようで、腕時計くらいの小さな円形の機械からパッと白い傘が出てきた。小さな傘だが俺の体重を支えられている。


 機械的な翼を生やした男は、飛んでいる奴の心臓をナイフで貫いた後、落ちている大臣を救出し飛行機の方へ飛んでいった。俺は下から見ているだけで何もできない。ただパラシュートのまま、落ちるのを待つのみ。


 そして1分後、豪烈な爆発音と共に無線が入ってきた。


「目標の死亡を確認、討伐者は"ショウ"」


 ショウ。目標を殺したのはあの銀色の翼を生やした男だ。となると、あの男の名前はショウ……なのか。それはそうとして、一体誰なんだ。翼を生やしているあたり能力者なんだろうが、それにしては安定しているし翼が機械的だ。


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