第5話 貴方に覚悟はある?
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「シラを切るつもりか、貴様の命を今ここで消すことも可能だぞ! やってみるか?」
彼は豹変したように声を荒らげた。もちろん、俺の弁論を信じていない。信じろという方が無理はあるが。
いや、待て。どうにか説得はできないか? このままでは俺は殺されてしまう。
「俺は2体の薬物使用者を殺しました!第 一部隊の隊長の命も守りました! その人間を殺す気ですか?」
現状、自分の味方をしてくれる者はいない。自分で自分の味方をするしか方法はない。
「ここは立川にある支部の地下だ。これ以上何か言うのなら、貴様ごと生き埋めにしたって問題はない」
彼らは思考を放棄した。怪しい奴の言ってることは無視した方がいい、そういう空気がこの空間に漂っている。
ここからどうにか抜け出せないか、また力を使えば抜けられるのではないか。でも電気ショックをこれ以上食らい続ければ、こっちで死んでしまうな。
「そもそも、第三部隊の新入隊員も薬物使用者だった。3人で茶番をし、ここで我々の信頼を得て、この軍を転覆させようとしているのではないか……と疑っている」と、唯一冷静な警察庁次長は話す。
これに至ってはそう思われても仕方がない。同じ地点に3人の薬物使用者が出現、そのうちの2人は同じ部隊の隊員。
実際は、その日にたまたま同じ部隊になっただけたから、調べればすぐ分かるはずだ。それに俺の過去の戦闘を見てくれればいい。俺が何回死にかけたか、何回仲間が犠牲になったか、薬物使用者を何回恨んだか分からない。その俺が薬物使用者だったなんて、冗談抜きでおかしい。
「失礼します」
とある女性が部屋に入ってきた。彼らに耳打ちで何かを伝えると部屋から退出した。その後、俺にあることが伝えられた。
「今から移動だ」
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俺は拘束器具を着けたまま、自衛隊の特殊車両に運ばれ、そのまま移動することとなった。周りには武器を持った隊員が10人ほど。車で移動中なのにも関わらず、皆銃を構えたまま直立不動で、会話もひとつもない。
「着いたぞ」
拘束されたまま、特殊な小型車両に乗せられ、ビル内を移動する。ここは東京駅前にある、とあるプロジェクトで建てられた日本一高いビルだ。つい最近完成したばかりだったか。このビルはJDPA_Dの本部で、特殊な隊員でない限り、ここに訪れる機会は少ない。
3年ほど前か、入隊式の時に建築中のこの建物を見たことがある。本当にそれくらいだ。
今回用があるのは、そのビルの地下らしい。大型のエレベーターに乗せられ、ぐんぐん下に降りていく。
エレベーターのドアが開く、眩しい光が目に飛び込んできた。頑張って目を開くと、いかにもヒーローの秘密基地……があったとしか言いようがない。巨大なモニターに、大量のPCが並んでいる。リーダーらしき人が巨大な地図を見ながらこう言った。
「次は鎌倉か」と。
あの巨大なモニターには全国の発光現象や魔法陣の出現位置が表示されている。現在映し出されているのは、神奈川県鎌倉市の地図。
巨大なモニターに見とれていると、小型車両がまた動き出した。
「ここだ」
小型車両が止まった。俺はまたガラス張りの部屋に閉じ込められた。が、今回は明らかに様子が違う。ガラス張りの部屋の室内に、とある女性がいる。先までは俺が危険な人間扱いされていて、二重ガラス伝いでの会話だった。それなのに、今回はいる。他の男性たちが、俺のことを警戒しているが、彼女は怯える様子もなく、俺の目を見て話しかけた。
「貴方に覚悟はある?」と女性は俺に問う。
眼鏡をかけた、真面目そうな人だ。年齢は俺とあまり変わらないようだが、落ち着いた雰囲気のせいか上司のように見える。
「何の覚悟ですか?」と思わず聞き返す。
「何って……この日本を守る覚悟よ」
続けて、彼女が説明する。
「私は警視庁違法薬物取締課の
どうやら俺の命は何とか救われたらしい。それにしても、軍と警察の仲はあまりよろしくないと聞かされていたが、裏では関係があったみたいだ。今はそんなことはどうでもいい。
「で、覚悟はある?」
彼女に問われる。
「あります、俺の力で……日本を救います」と俺は自信満々に返答をした。
俺は薬物使用者が憎い。だからこそ、薬物使用者を全員殺してやりたい。俺の日常を奪ってきたように、あいつらの命を根こそぎ奪ってやる。奴らの生活とか関係ない。
「意気込みはあるようだね。拘束器具はもう外していいわ。これだけは言っとくね、私は嘘をついている人間かどうか見分けられるから」
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そんなこんなあって、2時間後にようやく拘束器具を外すことができた。身体中痺れている、腕を思いっきり伸ばせるのがもはや有難いと感じるようになるなんて。
今俺が立っているのは、JDPA_D本部のビルの屋上。高層ビルの屋上とは思えないほど、木が生い茂っている。まるで森の中に居るのではないかと錯覚するほどに。
横には警視庁違法薬物取締課の瀧口さんと、周りには銃を持った隊員が10名ほど。俺には拘束器具が一切着いていない、これくらい警戒するのは分かる。
「ごめんなさいね、JDPA_Dさんが貴方を監視したいとか何とかで」
それなら仕方がない。
それにしても、話がトントン拍子で進みすぎている気がする。すぐにこの危険なはずの俺を、監視ありとはいえ解放してしまってもいいのか。一応は薬物使用者、爆弾を扱っているのと同じだ。
「貴方は今日から、警察とJDPA_Dの合同チーム……通称”STAGE”に所属することになったわ。メンバーはまた後で紹介することになるね」
STAGE……か。何ともかっこいい名前をしている。段階を踏むという感じで付けられた組織名かな。しかもまたいきなりだ、もっと詳しい説明は無いのか。
「さてと、鎌倉で暴れ回っている武士って知ってる?」と彼女は俺に馴れ馴れしく話しかけてくる。彼女がいいならそれでいいが。
またまたいきなりだな。なお、そのニュースはよく知らない。詳細まで知らないだけだ、何となくの概要は分かっている。甲冑を着た何者かが、夜な夜な発狂しながら刀を振り回した事件。しかも魔法陣の目撃情報も相次いでいる。何の能力かの予想は立てずらいが、その人間は薬物使用者の可能性がある。
それにしても、最近は立て続けに薬物使用者関連の事件が舞い込んでくるな。1年前までは多くても2ヶ月に1回とかだったのに、もう3日連続で戦うことになるぞ。薬物のルートでもできたのか。
「刀を振り回しているから迂闊には近づけないの、周りには文化財も多いし破壊活動は認められない。だからこそ貴方の力が必要なの」
いいのか、大丈夫なのか、俺で。
まだこの力を制御できる自信なんて無い。また、力を使っている時の記憶が残っていない。映像を見る限り、放置されていた車を武器として使ったり、ビル丸々1つを爆発に巻き込んでいた気がする。
実験とかしないのだろうか、未熟な俺を戦場に放り出して大丈夫なのか?
「不安だとは思うけど、これは命令。一旦戦闘で様子を見ろ、とJDPA_Dからも言われてるのよ」
命令か、なら拒否権は俺には無い。
しかし、この強大な力……制御できる自信など無い。何度でも言う、鎌倉の文化財を破壊してしまっても責任を負えない。ましてや味方のはずの警察やJDPA_Dの隊員を襲わない……という確証すら持てない。本当に危険だぞ、この力は。俺の中の野生の勘がそう言っている。
「大丈夫、貴方が暴れ出したらその時は止めるから」
止めるのはどこだ、俺の暴走ではなく息の根だろうな。
仕方ない。こうなる運命と捉えるしかない。自分が何の能力を持っているかすら分からないが、俺は俺なりにやるべき事をやろう。
「じゃあ行こうか、鎌倉に」
えっ、今から?
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