第54話 最終決戦9「モンスターの正体」

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 外に出ると言っても、もう俺たちは死んでいる存在だ。ヘイトリッドは何を考えているのだろう。ここには何も無い、外に出る方法なんて考えつかない。


「だから、それには君が必要だ。君の持つモンスターの力で、ここから出る」


 ヘイトリッドは自信ありげにそう話す。

 ここにあるのは、俺が死ぬ時に持っていた、シアンから借りた2本の剣。それと世界の帝王の首に突き刺した小さいナイフ。後、攻撃を防ぐための盾がある。鎧は……使えるのか?


「鎧は脱いで、マントは羽織ったままでいい。剣は僕に渡してくれ。そしてここに寝っ転がって」


 彼の言う通りに、鎧を脱ぎ、剣を渡してその場で仰向けになった。寝るや否や、数十体のドラゴンが俺のことを囲んだ。


 そのドラゴンたちは、周りに火を噴き始める。真っ黒の世界で火を噴けること自体が驚きだが、彼は何が目的でドラゴンにそういう命令をしたんだろう。


 奴の中で永遠に生き続ける罪なき人間やモンスターに対して、ドラゴンたちは火を放つ。永遠に生き続ける存在は、どんなに身体が焼かれても、また別の場所から新たな身体を構築して復活する。死体は消滅しつつ、赤い液体を撒き散らす。


 これは、モンスターの死に際と同じだ。モンスターも、死体は消滅して、代わりに赤い液体を撒き散らす。


 彼はフッと軽く笑い、俺に対して分かりやすく説明をした。


「モンスターの正体だ、今のが。何度死んでも、何度でも蘇る、それがモンスターだ。記憶があるかは分からないが、モンスターは永遠に生きる存在なんだ」


 モンスターが永遠に生きる存在? 分かりやすく言ってくれたのだろう、しかし全く理解できない。モンスターが永遠に生き続ける存在なら、俺が殺してきたゴブリンや巨人も、またどこかで復活しているということか?


 それに、世界の真理に近い新事実を彼は知っていたのか? 今まで黙っていたのか、それなら何故?


「悪い、今は関係ないな。何せ、ここに百年は居るからな。体感の時間だが、外の世界と時間の流れが違う」


「そうだ、時間の流れが違うのだ」


 ヘイトリッドではない、誰かの低い声が脳内に響き渡った。この声は、世界の帝王の声だ。振り向くと、人間態の奴が居た。服は着ていないし、髪も生えていない。股間にある大事な部分も無い、巨大な奴が人間の大きさに縮小されたと思った方がいいのかもしれない。


「まったく、魂の中で暴れるな。同胞を傷つける行為は私が許さない」


 奴は周りの同胞らしき生物を一掃し、この空間には俺とヘイトリッドと数体のドラゴンだけが残った。更に空間に新たな結界を張ったため、俺たちの方にドラゴンが介入できなくなった。


「ヘイトリッド、ここはどうするべきか教えてくれ」

 俺は彼に作戦を小声で聞く。


「そうだな。死んでもいいから、奴に立ち向かえ」


 死んでもいいからって、中々無茶だ。何度でも復活できるとはいえ、痛覚は残っているはずだ。俺は痛みを我慢しつつ戦い、ヘイトリッドが戦いを見て分析をする。ある意味、これも連携だ。


 シアンから借りた剣で奴に向かって行く。

 剣を大きく振り下ろすも、奴は片腕で刃を受け止め、片腕で俺を殴って吹き飛ばす。その上、吹き飛んだ俺の目の前にワープし、更に遠くに吹き飛ばす。壁は無いから、永久に吹き飛んでいくだけだと思っていたが、結界に頭から当たって止まる。


「どうした、抵抗はしないのか?」


 奴は余裕そうに指を鳴らしながら、結界の側にいる俺の方に向かってくる。剣を片腕で止めた奴だ、普通の攻撃は効きやしない。しかし、普通の攻撃しか出せない。ドラゴンたちは結界の外に居て、中に行けない。ヘイトリッドの武器も普通だ。


 背中からもう1本の剣を取り出し、奴に向かって二刀流のまま走り出した。腕が効かないなら、足だ。奴の拳を避けつつ、両足に向かって横から突き刺した。が、奴には効かなかった。奴は刺さった2本の剣を抜き、何も持っていない俺に頭突きをした。頭突きの威力は絶大で、俺の生首はポロッと真下に落ちた。


 結界の中で、俺の身体は復活する。生首がない死体は赤い液体になって消滅する。代わりに、新たな身体が復活した。痛みも残っているが、首は繋がっている。不思議な感覚だ、確かに首が取れた時の痛覚はあるのに。


「スカイ、あと二十回くらいは」


 ヘイトリッドは俺にも届くように大きな声でそう言った。二十回……二十回くらいは死ねということか? 何度でも復活するならいいが、痛覚が残るというのは、苦痛だ。苦しいだけじゃない、精神的に。


 剣は奴の足元にあるため、攻撃手段がほぼ無い。盾を投げるか、投げたところでどうなる? いや、もう何も考えられない。何も考えないで、死のう。でも、致命傷を与えられたらいいな。それくらいの軽い気持ちで挑み始めた。


 円形の盾を奴に向かって思いっきり投げる。奴は盾を片手で受け止め、さらにそれを俺に向かって投げた。何とか身体で受け止めたが、奴に盾を蹴りで身体に押し込まれた。元から鋭い円形の盾なため、俺の腹に食い込み、次第に腹や内蔵をえぐっていった。


 また遠くで新たな身体が構築された。あとこれを十九回は繰り返す。腹をえぐられた感覚も残っているのに、本来なら奴に怯えるはずなのだが、何故か俺はまだ立ち向かおうとする。俺の本能、野生の勘が奴に立ち向かおうとしているのか、中にいるトールの本能か。


「最強の力で、雑魚を圧倒するのは楽しい。何度でもかかって来い」


 奴はそう言うと、紫色に光るビームを放り出した。走ってビームを避けようとするも、無限に出されるビームを避けられるはずもなく、直撃した。また新たな身体が構築されたと思いきや、奴の目の前に構築されたこともあり、復活した瞬間にビームの餌食となった。


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