第53話 最終決戦8「死後の世界」

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 突然、残ったドラゴンたちが俺たちの前に集まった。リーダー格のドラゴンは、ロックに指輪を返してこう言った。


「行ってくる」と。


 その中には、いつもいる赤いドラゴンもいる。全ドラゴンがここにいる。

 行ってくる……つまり、奴の所に攻め込むつもりなのか。俺たちを置いて、ドラゴンだけで奴に戦いを挑むつもりか?


「待て!」


 俺の発した声を無視して、ドラゴンたちは巨体の奴に立ち向かっていった。奴の拳を避けつつ、空から炎の攻撃を浴びせる。それでも、効果があるようには見えない。雨が降っているからか、それともそもそも奴に攻撃は効かないのか。


「無駄だ、神に逆らうなど」


 奴は翼から無数の長い長い剣を生やした。奴の真上にいたドラゴンは、無数の剣に刺されて死んだ。何とか避けたドラゴンも、奴に殴られて死んだ。

 拳を避けたドラゴンも、追尾するように無限に伸び続ける剣からは避けられずに死んだ。

いつも俺たちといた赤いドラゴンは、最初の方に翼から生えた剣に刺されて死んだ。


「抵抗するな、抵抗すれば死ぬ」


 ドラゴンが目の前で死に、奴の言葉を聞いた皆は、何もすることができずに武器をその場に落とし、嘆いた。人生を悔いているのか、この状況を悔やんでいるのか。スケルトンですら、剣に変化させていた自身の右腕を元に戻し、頭を抱えていた。


 何故かは分からないが、俺には諦めきれない。またいつもの好奇心がふつふつと湧き上がってきた。奴をどうしたら倒せるか、考えれば考えるほど好奇心が湧き上がるのだ。


「シアン、剣を貸してくれ」


 切れ味が悪くなった剣を、まだあまり戦闘を行っていないシアンの物と交換した。


「あいつの元に行くつもりなの? 行かないでよ、アイ……みたいに、首が取れて--」


 彼女はまだ気が動転しているようで、上手く言葉も喋れていない。


「生きて、帰ってくる」と言うと、シアンだけじゃなく、色々な人やモンスターに止められた。


 ロックは「何もしない方が懸命だ」と説得しつつ止めようとする。ガイアさんやディールは力ずくで、スケルトンは黙って首を横に振りながら、静かに止めようとする。

 白蛇の子は俺に寄り添うように、身体を巻き付けながら止める。これは窒息死に繋がるからと注意した。


「行かせてほしい。この場で立ち止まっていても、何の解決にもならない」


 俺は彼らの制止を振り切り、奴の元へ向かった。本音は怖いが、それでも好奇心の方が勝っている。

 奴も俺の存在に気づいたようで、すぐさま俺に話しかけてきた。


「神に抵抗するか?」


「お前は神でも何でもない、だから抵抗する」


「そうか、ならば死ね」


 奴の鉄拳が俺の方に飛んでくる。避けようとしたが、そもそも奴の拳が巨大だったため、避けるにも避けられず。剣で防ごうにも、そのまま丸ごと食らってしまった。


 俺の名前を叫ぶ声が聞こえる。

 情けない、俺って。でも、こうするしか。他に方法は無かったんだ。


「スカ……イ!」


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 辺りが真っ黒の世界で、俺は目覚めた。ここは、死後の世界か。情けない、でもこれが最善策だった。何もしないよりは、行動を起こしたかった。

 無責任ではある、俺のわがままで彼らに迷惑をかけることも分かっている。

 でも、自身の好奇心には勝てなかった。それが、命を危険に晒すものであっても。


 死後の世界だからか、周りに何も無い。奴が展開していた、あの真っ白な世界と似ている。色が違うだけで、壁も天井もない。見えない床はある所も同じ。


 真っ黒な世界のはずなのに、何処かから光が射しているようで、自分の腕や足を視認できる。腕には毛が生えている。よし、見える。光はどこかにある。でも、白い世界と同じで影はない。真っ黒の世界だから、影があっても見えないか。


 それにしても、死後の世界は何もないのか。何か、絵本で見たものには”天使”や”神”が居たはずだ。それが、今周りには居ない。


 それもそうだし、俺は今死んでいるはずなのに、ずっと意識はある。こうやって天使や神が居るかどうか考えることもできれば、腕に生えている毛があるかどうか確認することもできる。


 ここは、本当に死後の世界か?


「いや、違う」


 誰かに話しかけられた。

 振り向くと、何故かヘイトリッドが立っていた。首と身体が繋がっている、死ぬ前の姿のヘイトリッドだ。


「ここは、帝王の身体の中。僕たちは帝王に取り込まれたんだ。見渡してみな」


 彼の言う通りに辺りを見渡すと、奴の無数の剣によって殺されたはずのドラゴンたちがいた。真っ黒の空間を飛び回るドラゴンもいれば、ゆったりと翼を休めるドラゴンもいた。


「僕たちは帝王とひとつになった。これからは帝王の中で永遠に暮らせるのさ。皆も来なよ、シアンも連れてさ」


 ヘイトリッドは狂ったのか、この帝王の中での生活を楽しんでいるのか、皆を誘うよう俺に伝えた。俺がここに来ている以上、皆を誘う手段は無いのだが。


 それに、ここが楽しいだと? 正気か? この何も無い世界で、何もせずに生きていけ、いつか飽きが来るに決まってる。飽きが来たらどうする? 帝王の身体から抜け出せないまま、後悔したまま生き続けるか? 何も無い空間で、好奇心を満たせるか?


「よかった、君はそういう人間だった。分かっているよ、外に出よう」


 ヘイトリッドは諦めたのか、それとも最初から演技だったのか、外に出るための準備を始めた。


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