第47話 最終決戦2「トール」
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青いドラゴンの背中を借りて、巨大な穴の中に飛び込む。 監視塔らしき塔も破壊し、強制労働所の底に到着した。牢屋の中にまだ人がいる、彼らもまた労働を強いられている人たちだろう。確か、ガイアさんとヘイトリッドたちが彼らを助けるはずだ。俺は帝王を追わなければならない。
底の先に小さな光が見えた。人がちょうど入れるくらいの大きさのトンネルだ。この先には帝王が居るはず。青いドラゴンを空に帰してからトンネルの中に向かうことにした。真っ暗だし瓦礫だらけだが何とか歩けるな。
ここには1回来たことがある気がする。意識がある上では、スカイとしては初めてだが。その被検体番号0818だった時代に、このトンネル内に入ったんだろうな。モンスターとの合成実験の頃か。
第三地区とかも、ここの中にあるのか? 第三地区の火災の時に見た景色は、それより前に見た牢屋の景色とか今の景色と違うように思えるが。
ともかく、光のある方に向かって歩いた。時には走った。それでも光の先に辿り着けない。出口のある方向へ、一直線に進んでいるはずなのに、一向に辿り着かない。不思議な空間だ。一応補足しておくと迷路ではない、一本道だ。本当に意味が分からないトンネルだ。
「来たな、被検体番号0818よ」
背後から声がした。振り向くと、何故か実験室のような部屋の中に帝王がいたのだ。ずっと前から一直線な道を走っていたため、背後に部屋があるなんてことは絶対に有り得ない。もう一度前を見ると、光が見える。振り向くと、実験室の中に帝王がいる。
「不思議だろう? 紫の液体で空間を弄ったのだ、無限の空間も作れる。元は空間とその空間に存在する生物の意思を掌握する液体だからな」
帝王は小さな瓶に入った紫色の液体を俺に見せびらかし、こっちに来いという風に手招きをする。いざ、実験室の方に足を踏み入れると、トンネル内の地面と実験室の地面が続いており、何事もなく実験室の中に入れた。文章で表しにくいが、これが全てだ。
室内は不思議。様々な瓶や薬品が並んでいるのだが、ほとんどが血のような赤黒い色で染まっている。奥の方には、人間やゴブリンの頭だけが黄色い薬品の中で保管されている。腐らないように加工されているかもしれないが、不気味なのは変わらない。
「まずは話し合おう。兄弟よ」
奴が言っている”兄弟”というのは、腹違いの兄弟とか生き別れた兄弟などの意味で使っていない。人類皆兄弟、よくよくは全員同じ思考になるから実質兄弟だろうと考えているに違いない。
「それもあるが、私とお前だけに共通する物がある。それは、中にいる化け物だ」
中にいる化け物……モンスターのことか。同じモンスターが中に入っているのなら、俺も奴のように宙に浮いたり、手からビームを出したりできるはずなのだが、俺は飛ぶこともビームを出すこともできないぞ。
「お前はまだ未熟なだけだ。まぁいい、改めて兄弟に計画の概要を説明しよう」
奴が指を鳴らした瞬間、実験室は消滅し、代わりに真っ白な空間が出来上がった。2人居て、その上どこかから光が射し込んでいるのに、影も無い。自然界では有り得ない空間だ。これも奴の持つ紫の液体の力か。
「世界には労働者が必要だ。国を守るのにも、都市を守るのにも。他にも農業に携わる者や、役所で働く者も欠けてはならない。私はこの紫の液体を使い、浮浪者を集めて洗脳し、格安で派遣した」
俺はこの話を聞きながら、レインマークでの出来事を思い出した。黒ずくめの剣士と戦った後、都市の門番をしている人たちのことを。彼らは人間だったはずだ。なのに剣で殺したら、モンスターみたいに赤い液体を撒き散らして死んだ。死体も残らなかった。
「メイからモンスターと人間の合成実験の方法を聞き取り、ある12人をゴブリンと合成させた。結果、10人は成功し2人は失敗した。ゴブリンのような低レベルのモンスターとの合成は、成功する確率が高いという結果が得られた。彼らはレインマークやアミティエなどの都市の門番に派遣させた」
理解した。あの時俺が倒したのは、ゴブリンと合成させられた人間だったんだな。鋭い爪も持っていたし、普通の人間ではないのは分かっていたが、元は俺と同じ強制労働所出身の人間だったか。
ということは……俺も死ぬ時は、死体も残らずに赤い液体を撒き散らすだけなのか。目の前にいる奴もそう。
「高レベルモンスターであるドラゴンとの合成実験に、健康な6人を使用した。結果1人成功の5人失敗。成功した1人は、ライムートに”アサシン”という名前で派遣した」
アサシン……黒ずくめの剣士か。あいつと戦ったが、そこまで強くはなかったぞ、ドラゴンと合成したにしては。それにあいつは意味不明な言葉を口走っていた。「俺は正義だ」とか何とか。それも合成実験の影響か?
「アサシンは何度か精神崩壊を起こすことがあった。そのため、次は強い人間を選んだ。それがライムートの王、マキシミだ。彼には何十種類ものモンスターを合成させたが、精神崩壊を起こすこともなかった」
奴はジャガーノートや巨人、ヴァンパイアの力を駆使して戦っていた。巨人と言っても、15mから60mにと大きさを変えたり、ヴァンパイアの時もコウモリを飛ばすだけでなく、自身がコウモリに化したりと、多種多様な戦い方で俺たちを翻弄していた。
あの時はどうやって倒したかよく覚えていない。ガイアさんはずっと「神の雷が……」と言っているし、俺自身どうなったかも分からない。
「それで成功したのなら、後は世界最強とされている化け物の合成を試みた。それがお前と私の中にいる……トールだ」
トールって……雷の神だ。セルバー村の絵画で見た。雷を操る獣・サンダバーと描かれていたのは覚えている。しかし、あれは化け物でもモンスターでもない、神だ。空想の中の存在、それをどうやって俺の中に……。
「世界のある地に生息していたトールを捕まえ、無理矢理私とお前に合成させた。結果は成功。アムスカリスの花計画を始動するために、お前を洗脳しようとしたのに、逃げ出した」
悪いが、逃げ出した時の記憶は残っていない。あるのは、第三地区とやらで炎に巻かれた記憶だけだ。それは逃げ出したとは言えないだろう。
それに、奴は1番重要なことをまだ言っていない。何故人間がモンスターを憎むように洗脳させたのか。
「別に何でも良かった、試したかった。どれくらいの範囲に効果があるのか。結果全人類を洗脳できたが、モンスターには効かなかった。だから今から三本の刃で、世界中にガスを届ける。地中に生息するモンスターにも、空を飛ぶモンスターにも届ける」
三本の刃……煙突さえ破壊すれば、奴の計画は阻止できる。今は何も無い白い空間にいるから外の様子が分からないが、ヘイトリッドたちが煙突を止めに向かっているだろう。俺は時間を稼げばいいだけ。
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