第43話 三大神

----------


 今日は、シアンとキミカに戦闘の技を教える日だ。2人がどうしてもモンスターとの戦闘に参加したいとのこと。最初、ガイアさんは反対していた。女性を泥臭い戦いの場に連れて行けない、と。しかし彼女たちの熱心な努力を見た彼は、戦闘の技をある程度覚えてから行け、となった。


 戦闘の技は俺が教えるみたいだ。とは言っても、教えられることなどない。俺はずっと感覚で戦ってきている。しかし「感覚で戦え」と言うのは、教える側としては失格だ。これまでの戦闘を踏まえて、リバイル村の討伐者のディールと共に彼女たちに戦闘の技を教えていく。


「特にゴブリンは、いげぇと身体が柔けよ。剣で心突き刺しとら一発やで」


 実戦経験のあるディールは、彼女たちに分かりやすくモンスターの弱点を教えていく。方言が分かりにくいという意見もあるかもしれないが、そこは彼女たちの読解力に任せよう。


 実戦経験は無くはないが、ほぼロックやヘイトリッドに任せきりだったガイアさんは、肉体的な動きを教えると張り切っていた。

 討伐者という名前通り、モンスターを討伐していたディールと、討伐者という名前で何でも屋さんをしていたガイアさんには大きな違いがある。


 そういや、ユー・エンドで出会った……レン・スティーロという男も、この村で討伐者をしていたとか言ってたな。この村はそんなにモンスターが出現するのか。ストラート村はそこまで出現しなかったから、土地の差もあるな。


 というか、重要なことを思い出した。


 強制労働所にいた強者は、人間だ。つまりは、強制労働所で悪さをしている人間を殺すことになる。

 モンスターの倒し方を教えていても、人間を倒すのとは攻略方法が違う。やはり、止めさせるべきか。


 いや、ここは彼女たちの判断に任せよう。深く関わらないでおこう。これ以上考えてしまうと……うん。いや。ああ。


 訓練が終わって疲れ切っている2人に、あることを尋ねた。


「人を殺す覚悟はある?」と。単刀直入過ぎて、あっさりしている。急にこう質問されても、答えられるか。


「何なの急に……」

 シアンは困惑したまま。言葉に詰まったのか、答えを考えているのか。


「私はある」

 キミカは真っ直ぐ目を見てそう答えた。間髪入れずにだ。


「私はそういう経験があるから」

 彼女の回答も随分とあっさりとしている、質問以上に。人を殺した経験があるということか?流石にそれは違うか。


 その日は2人に技術を教えるだけで終わった。明日は何をしようか、もう一度セルバー村に行きたい。今度は古城だけじゃない、もう一度あの絵画を見たいのだ。モンスターと人間が戯れる絵じゃなくていい、廊下に飾ってあった絵を一枚一枚じっくり眺めたい。そういう気分だ。


 今日も特に何も思い出さずに終わった。


----------


 朝飯を食べて、すぐ家を飛び出した。馬を借り、誰にも言わずにセルバー村に向かった。独りで行きたかった。独りで整理する時間が欲しかった。皆俺が記憶を思い出したかどうか、随時確認に来る。構ってくれるだけありがたいが、少し孤独の時間が欲しい。


 でも絵画は見たい。絵画の詳しい解説は聞きたいため、セルバー村の村長を呼び出した。


「何か用かね」


「廊下に飾ってある絵画の解説をお願いします、一枚一枚、全てお願いします」


 無理なお願いなのは分かっている。村長、村を治める長、仕事があるのは分かっている。だが、魅了された。絵画を見れば、何かが分かりそうな気がする。俺の中にいる野生の勘か、はたまたモンスターが絵画を求めている。


「芸術を理解しようとする若者がいるのはいいことだ。気が済むまで説明しよう、来い」


 ここから廊下に飾ってある絵画の解説が始まった。

 これは女性が子供を育てる絵、こっちは男性が時計台の建築を手伝っている絵、そっちは雨乞いをしている絵。それは星を包み込む女性の絵、生命を1つの壺から出している姿らしい。あれはアダムとイヴの絵、食べてはいけない果実を食べて、神から罪を与えられた。


「で、これが破滅のアダムとイヴ。この世を破壊するために作られたとか何とか。破滅の方のアダムとイヴの子供がモンスターの起源とか言われておる」


 絵画の説明は続く。

 これは雷神・トールの絵、雷を操る獣・サンダバーと共に描かれている。こちらは火の神・イフリートの絵、火を操る獣・サラールドと共に描かれている。それは水神・リヴァイアサンの絵、水を操る獣・マーメサンと共に描かれている。


「世界を守る三大神、火・水・雷じゃな」


 まだ説明は続く。

 この絵は巨大だ。他の絵とは比べ物にならないほど大きい。人の身長の倍はあるだろう。どうして前回来た時に気がつかなかったのだ。

 その絵には、星の上に3つの石が描かれている。色は緑・紫・赤。この絵はセルバー村の村人が描いたものではなく、他の遠い村の先人たちが描き残した作品らしい。『3つの石が合わされば、世界は破滅する』という題名が付いている。不思議な絵だ。


「この3つの石にもそれぞれ効力があるらしい、時の石・人の石・力の石。これらが合わさることは普通有り得ないとも記されている」


 絵の下の方に、読めない文字で何かが書いてある。村長はそれを読めている。俺が読めなくとも、彼が読めるならいいのだが。


「これが最後の絵『劇終』じゃ」


 目の前には白い壁しかない。これが絵か。芸術というのは難しい。この真っ白な壁を絵と認識できるかどうかは、人に委ねられる。俺はこれを絵だとは思わなくても、彼は絵だと思って紹介している。


 結局は人それぞれだ。


 いい体験をした。


 今日はもう寝よう、明日は記憶を思い返そう。無理に思い出そうとしていたから思い出せないのだ。今まであったことを日記にでも記しておこう。後世に引き継ぎたい、俺が経験したことを。絵は描けない、だから代わりに文字しておきたい。


「おかえり、スカイ」


 シアンとガイアさんが出迎えてくれた。今日は誰にも行き先を告げずに家を飛び出したから、皆に迷惑をかけただろう。


 明日はきっと、大丈夫。

 全ての生命。


----------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る