第42話 ホープ・メール
----------
ガイアさんがある提案をした。
「もう一度寝てみるのはどうだ?何か新しい記憶を思い出すというのは……何回も眠ることになるが」
全員がキョトンとした。が、俺はこの案が1番適していると思う。馬鹿げているように見えても。というか、これ以外に何も思いつかない。
「俺は記憶を思い出すために色々なことをする、だから皆には武器とか資材を集めてほしい」
----------
「さてと……」
自分の部屋に戻り、頭を抱えながらため息混じりの声を出した。
記憶を思い出すと言っても、普通の人が過去の記憶を思い出すのと、記憶喪失の人が過去の記憶を思い出すのは訳が違う。
それに、寝るだけが記憶を思い出す術ではないはずだ。寝るだけで記憶を思い出せるのなら、これまでに何回も寝てきたし、何回も思い出しているはず。
何をすればいいか。とりあえず、記憶を思い出した時の日を思い返そう。その日はセルバー村の村長に会いに行っていた。ストラート村にも無い新しい建築物や、モンスターと人間が触れ合う絵画を見た。全く知らない文化と触れ合えば記憶を思い出せるか? それなら、とうの昔に思い出せている。
セルバー村が特別か、あそこの地が特別に記憶を思い出させる場所なのかもしれない。ならば、行ってみるか。幸い、ヘイトリッドとロックがこの村に残っていたはずだ。他の皆は武器や資材を集めるために、セルバー村の奥にあるゼロワ村にある武器庫を訪れているが、2人は強制労働所の場所を考察している。
ルカも居るなら連れて行こう、あの日と同じ人員で向かった方が良さそうだ。
「またセルバー村て、スカイさんたちこっちの村ん方が花あっていいですて」
何の事情も知らないルカは、俺たちがセルバー村に移住する予定があると思っているらしい。大丈夫だ、移り住むつもりはない。
「スカイ、セルバー村に寄るなら行きたい場所がある」
ヘイトリッドが口を開いた。
どこに行くつもりだろう。セルバー村の近辺なら良いが。
----------
目の前には、巨大な古城。古びた、それも傷だらけでいつでも崩れそうな城。戦場がその時のまま残っている感じがする。
ここは丘の上にある、ラグナーレ城。前にセルバー村を訪れた際に発見した城だ。村人からは「あまり近づくな、モンスターが住み着いているとの噂もある」と聞いたが、少しくらいのモンスターなら対処できる。村に迷惑はかけられないが。
「はよ帰りましょよ、怖く怖くで怖いしよ……」
この古城は、蜘蛛の巣だらけで、異臭がする。下に死体が転がっていても気づかないくらい真っ暗で、これ以上歩み進むのは危険。だが、ヘイトリッドは気にもせずズカズカと中に入る。ロックもそうだ。俺の近くにはルカがいる、彼女に迷惑をかけないようにゆっくりと奥に進む。
しかし、これ以上は前に進めない。上に登るための螺旋階段が崩れており、1階の部分しか探索することができない。その1階部分も真っ暗で全く前が見えないのだが。
結局、異臭を放つラグナーレ城の探索を諦めて、セルバー村近くの草原で休憩することにした。
「スカイ、何か分かったか?」
寝てもいないし、何も探せていない。何も分からないままだ。
やることもない、俺たちは途方に暮れている。風がなびく草原の上で寝っ転がって。他の皆は武器を集めてくれているのに、俺たちはすることがない。
「記憶を思い出すことがお前の仕事だ、頑張れ」
ロックもヘイトリッドも、強制労働所の位置を特定するという仕事を懸命にこなしている。俺も俺なりの仕事をしよう。
気持ちよさそうに寝ていたルカを起こし、リバイル村に戻った。少し臭いが付いていたため、服と自身の体を洗ってから、森に出かけた。
森にはドラゴンの他に、白蛇の赤ちゃんがいる。
俺が自らの手で殺めた白蛇の子だ。赤ちゃんと言っても、もう大きくなった。以前は俺の肩に乗るくらい小さく可愛げもあったが、今は俺と同じくらいの大きさ、全長なら3mはある。一般人がこの白蛇を見つけたら気絶してしまうだろう。今でも白蛇は俺に懐いてくる。君の親を殺したのは俺なのに。
「それで、何か新しい記憶は手に入ったか?」
白蛇と戯れる俺を見ながら、ドラゴンは尋ねた。
「無理だった、まだ寝てもいないしな」
「そうか、いずれ絶対手に入る」
人間もそうだが、人智を超えた力を持つドラゴンも、この俺の記憶を頼っている。強制労働所にいたとされる記憶、何のモンスターとの合成をされたか分からないが、とにかく記憶を取り戻そう。取り戻しさえすれば、謎は解ける。記憶喪失に陥った、過去の俺の心情も。
ドラゴンに別れを告げ、家に戻る。もう晩御飯の時間だ。ルカもディールもガイアさんもシアンもいる。5人で食事をする。どれくらい久々か、楽しい食事ができるのは。
ゴブリンに村を襲われてから今まで、色々な出来事があった。今までの日常を忘れている俺が言えないが、非日常的な出来事しかなかった。
モンスターに家を襲われ、そのモンスターが洗脳されていることを知り、レインマークに行ってロックと出会い、アミティエに行って、ライムートに行って……本当に色々なことをした。
「ホープ・メール」
俺は無意識のうちに声を発していた。ホープ・メール。どこかで聞いたことあるような人名だ。小声で聞こえていなかったのか、皆食事を取り始めた。が、シアンだけは聞いていた。
更に彼女は「ホープ・メールって何?」と俺に質問した。俺も分からない。
「気にしないで」
俺はそれだけ言い、食事を始めた。パンをかじりつつも、俺はひとつのことだけを考えていた。
おかしいな、どこかで聞いたことがある。ホープ・メール。今まで出会ってきた人の名前か。それとも、俺の記憶の中の誰かか。
残念ながら、その日は何も見なかった。夢も、過去の記憶も。
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます