第34話 決戦8「強制労働所」

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 ドオオオオン!!

 遠くから地響きのような巨大な音が聞こえる。まただ、奴が巨人となっていた。大きさは約15m、さっきよりは小さいな。


「もう一度来い!」

 奴の叫び声が、この空間に響き渡る。


 見ている限りでの感想だが、奴の動きが先程よりも俊敏になっている気がする。拳の動きも速い。


 あっという間に、ドラゴンが奴に掴まれてしまった。大丈夫か? いや、大丈夫な訳がない。そういらスカイも見当たらないが、あいつは今どこにいる?


「残念だったな」という声とともに、ドラゴンの首が握り潰される。


 

グシュン……!! バキバキ……!!



 ドラゴンの首が折られていく。生々しい音は、何と俺がいる場所まで聞こえてくる。


「何がどうなってんだよ……」とつい声を漏らしてしまうほど、焦っている。


 ドラゴンが、目の前で殺された……のか。スカイはどうなった? 助けに行った方がいいか?でも、ドラゴンを片手で握り殺す相手だ。無茶だ。それでも見過ごす訳には……。


 巨人の顔面に何かがいる、スカイだ。

 あいつは巨人の両目に剣を突き刺し、奴の視力を奪っている。ドラゴンの仇を、1人で取るつもりなのか。

 いや、奴はすぐに顔面からハエを取り除くように、スカイを軽々しく持ち上げて、地面に優しく置いた。


「何か言い残すことはあるか?」


 スカイが何を言ったのかは、流石にここまで聞こえてこない。何を言ったか分からないが、奴はニヤリと笑い、スカイを踏み潰そうと高く跳んだ。


「やめろ!」と叫んだ頃には、もう遅かった。

スカイは奴の右足の下敷きになっていた。


「スカイ!」


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 ガラン……ゴロゴロ……ガシャン……


 さっきまで晴れていたはずだが、一気に雨が降り、それも雷まで落ちてきた。天気まで怒ってくれてるのか。


 スカイとドラゴンの死を受け入れられないが、ここは仕方ない、俺が行くしかない。俺1人じゃあ倒せないのは、俺が1番理解している。だが、あの2人には生き延びてもらおう。いや、生き延びてほしい存在だ。彼らにならシアンも村も任せられる。


「そこの巨人、止まれ!」

 意を決して瓦礫の山から飛び出し、巨人の前で声を発した。巨人もすぐ気がつき、俺の元に寄ってきた。


「まだ残っていたのか。帰れ、さもなくば天国に送ることになる」


「スカイとドラゴンの仇は俺が取る!」

俺の言葉に、奴は笑いながら返す。


「お前1人に何ができる、諦めろ」


 奴は地上にいる俺に向かって、拳を叩きつけるように振るう。無理に避けるような真似はしない、ここで受け止める。俺は盾を取り出し、両手で構えた。




「死ねぇ……!」




ゴロゴロ……!! バリバリン……!!


 俺の目の前に雷が落ちた。その雷はちょうど奴の振り下ろす拳に落ちた。雷も強く、奴の拳は焼け散った。


「何が起きた……?」

 奴も俺もこの状況を理解していない。奇跡が起きた、としか言いようがない。たまたま天候が悪化し、たまたま奴の右拳に落ちた。奇跡が起きたのだ。


「まぁいい、今度こそ!」


バリバリ……!! ゴロゴロ……!!


 また奴は拳を振り下ろしたが、それも目の前に落ちた雷によって焼かれ散った。何が起きている?奇跡にしては、無理がありすぎる。


 両手を失った奴は高らかに笑いながら、叫んだ。


「誰だ! 邪魔する奴は!」と。


 確かに、この雷。何者かが上手い具合に操作している……としか考えられない。魔法が使える人が近くにいるのか。


 ならば誰だ? 俺か? 俺に隠された能力があったのか?


 ゴロゴロ……


 大きな雷が落ちる予感がする。一旦逃げよう。ここにいては巻き込まれる気がする。

 ということで俺は瓦礫の山に避難した。何故か奴は追って来ない。奴は足元に集中しており、俺どころではなかったみたいだ。足元に何かいたか? いるとすれば、生き残りのモンスターくらいだ。ドラゴンもスカイも…………した。




 バリバリバリバリ……!!!




 目の前に超巨大な雷が落ちた、失明するかというくらい強い光を放ちながら。

 俺は思わず物陰に隠れたか、それでも眩しかったため、その場に蹲って光を防いだ。


バリバリ……バキバキ……


 音がずっと鳴り響く。雷の落ちた音か、それとも。




 雨が、突如止んだ。

 外は見事なまでに晴れていた、先程まで雨が降っていたのが嘘のように。


 巨人は消滅しており、草原には死体が転がっていた。片方はドラゴンの死体、もう片方はマキシミの死体だ。何故かスカイの死体がない。


「……あぁ……」

 マキシミが口を開いた。まだ死んでいなかったのか。髪の毛や服は完全に無くなっており、身体中焦げ切っている。言葉を発せること自体が奇跡、もうすぐ亡くなるというところまで来ている。


「……しを倒して……終わりだと……うか?」

 お前を倒せば、全人類の洗脳も解け、モンスターと共存できる世界が戻ってくるはずだが。


「甘いな……わた……で終わる訳が……い」

 終わらない……だと?


 いや、そうか。全人類が洗脳されているからな、一国の主を倒したところで終わらないか。全部の国の主を倒さないと終わらないか。


「いいや……国の王を……した後は……世界だ。せか……の帝王だ……彼の……名は……」

 奴はニヤリと笑った。


「何だ、言ってみろ!」


「ガイアさん!」

 アレア……とロックの声が何故か森の方から聞こえた。地下室に行ったはずだが、何故森の方から?


「仲間が……ようだ……。教え……る、きょ……う……ょだ」

 最後の方、何を言ったが全く聞き取れなかった。


「もう一度言ってみろ!」と言うと、奴はまたニヤリと笑った。


「きょうせ……ろうど……しょ……だ」

 強制労働所? それと何か関係あるのか? あの都市伝説の……あの----


 ドゴォン!!


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