第33話 決戦7「ゾンビ」
----------
「ぐおおおおお!!」
奴の鉄拳が飛んでくる。先に言った通り、ドラゴンは下に飛び、俺は上に跳んだ。
奴の腕に跳んで乗った俺は、身体に向かって走り続ける。奴が振り落とそうとすれば、剣を刺してしがみつく。それでも振り落とそうとするなら、下手な抵抗はせずに自ら飛び降りる。ちょうどドラゴンが真下にいたため、すぐに足場として活用する。
致命傷は与えられていないかもしれないが、少しずつダメージは与えているはず。どうにか心臓に剣が届けば俺たちの勝利だ。
しかし、奴の心臓の位置は高い。倒そうにも、頑丈な足を破壊するしか方法はない。何か良い策は無いか……。ドラゴンなら何かできそうだが。
いや、あったぞ。
ステラ村で俺が初めてドラゴンを見た時にとっていた行動を思い出した。
「奴の足元に火を放て!」
ステラ村の建物をヤツは自ら放つ火で燃やしていた。巨人に対して火が効くかは分からないが、試すしかない。
「しっかり掴まれ!」
ドラゴンは奴の足元に飛び込み、炎を放つ。草原にも炎が移る、もちろん奴の足にも炎が広がる。周りにいたモンスターは死に、やがて赤い液体を辺り一帯にこれでもかと言うほど大量に漏らしていく。
「ぐおおおお……!!」
ヤツは悶えている。炎が全身にまわる前にどうにか消そうとして悶えているが、残念ながらドラゴンの炎には簡単に消えない。
足は真っ黒になり、奴は立つことさえままならない。このまま、剣を刺さずにドラゴンの炎だけで倒せるかもしれない。
「行けっ!」
ドラゴンは倒れ込んだ奴の身体に向かって、満遍なく炎を吐く。心臓めがけて、いや脳にもうなじにも腕にも、満遍なく吐く。
全身黒焦げと化した奴は、巨人体を解除したのか人間と同じ大きさへと戻っていった。何か喋ろうとしているのかもしれないが、全身黒焦げのため、ヒュー……ヒュー……といった息遣いしか聞こえない。
「3人の元に戻るか」
ドラゴンの背中に乗ろうとすると、奴……マキシミの身体が青白く光り出した。
「何……!?」
ドラゴンもこの様を見たことは無かった様子で、目をかっ開いて驚いていた。
《ゾンビ》
青白い光に包まれた奴の身体はみるみる修復されていった。髪や服、生殖器は修復されていないが……これはゾンビの能力で復活したのか。
「よくやるな、人生で1回しか使えないゾンビの能力を使わせるとは……」
奴は嬉しそうにニヤリと微笑んだ。
「60は大きすぎた……」
《巨人》
奴はまた15m程の巨人となった。しかし、何かが違う。目は青く光っており、身体も先より筋肉質になっている。
「もう一度来い!」
奴は叫ぶ。
何度でも結果は同じだ。
ドラゴンがまた火を噴く体勢に移ろうと、奴の足元に飛び込んだ。が、奴は機敏に拳をドラゴンめがけて振り下ろした。
「危ない!」
何とか避けることができたが、身体能力が全体的に上がっているみたいた。拳を振るうのも速すぎる……。
火を噴くために奴の足元に飛び込んでは拳を振り下ろされ、また飛び込んでは振り下ろされ、奴の腕に飛び移ろうにも、速すぎてすぐ振り落とされてしまう気もする。
「俺が上から行くから……下に避けろ!」
先程と同じやり方では通用しないかもしれないが、それでもやってみる。上にいる俺に奴の意識を集中させ、そのうちに下にいるドラゴンが足に向かって炎を吐く。
ビュン……!!
奴の左腕から拳が飛んでくる。それも速い。急いで上に跳び、奴の左腕に剣を突き刺し、何とかしがみついたが、それでもいつか振り落とされてしまうだろう。
もう一度立て直そう、ドラゴンにアイコンタクトをし、もう一度俺の足元に来てもらうよう合図をしたが、奴はその合図を完全に読み切っていた。
「甘い」
奴は俺の元に駆けつけたドラゴンの首を根っこから掴み、それを高く持ち上げた。こんなことをされる経験は初めてなのか、また目を見開いて驚いていた。
それでも俺は奴の気がドラゴンにいっている間に、剣を突き刺し上に登ろうとした。1本1本丁寧に、簡単に抜けないように強く突き刺す。肩まで登りきったところで、ある事実に気がついた。
奴はドラゴンを自らの手で殺そうとしている。確かにドラゴンは俺たちの移動手段であり、最大の攻撃手段でもある。それを封じてしまえば……そうだ。
「残念だったな」
グシュン……!! バキバキ……!!
ドラゴンが……あのドラゴンが、俺の目の前で死んでいく。首の骨を折られて、赤い身体は徐々に青白くなっていく。生々しい音と共に、死という実感が押し寄せてくる。
「終わりだ、この世界もお前らも」
奴は笑いながらそう言い放った。
----------
アレア……とロックは、2人で地下室に向かった。俺はスカイとドラゴンに何かがあったら助けに行くためにここに残ることにした。それに、俺が言ったところで、モンスターに関する知識などこれっぽちも無い。討伐者とは言っても、自ら望んだ道ではないしな。
「ぐおおおおお!!」
さっきからずっと、50m位の巨人の叫び声が聞こえる。前より大きくなってやがる。
俺はスカイたちの戦闘を見守ることしかできない。周りにいたモンスターは全員死んだ。まぁ、見守ることが仕事と思えば良い。
巨人の拳を、スカイは高く跳び、ドラゴンは下に避けて躱した。スカイにここまでの能力があったのが意外だ。訓練と称して身体を鍛えさせたが、あいつは既に力持ちで、既に軽々しく大量の木材を片手で運んでいた。俺の何倍の量を軽々しく、だ。
ゴオオオオオ……
何だ? ドラゴンが、草原に火を放ったぞ。巨人の足は黒焦げ、もう奴は立てないな。
頼む、ここで奴を倒してくれ。モンスターと争うのは、今日で最後にしたい。
奴は人間に戻ったのか、俺の方からはもうドラゴンしか見えなくなっていた。終わったのか、良かった。
次の瞬間、空が青白く発光した。
「何だ……!」と思わず声を出してしまうくらいに、強く発光した。
その元が奴……マキシミだということはすぐに気がついた。奴は何故か復活していた、一体何をしたんだ。
考えられることは、何かのモンスターの力を使ったということだ。使うなら何だ。スケルトン……は骨。巨人は大きくなるだけ、ジャガーノートは力持ちに、ゴーレムは壁や結界。なら残るは……ゾンビか!?
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます