第32話 決戦6「進もう」

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 俺は今、ドラゴンの背中に乗っている。そして今から、俺を空に投げた張本人である奴……マキシミを倒しに行く。今度は作戦を練らなければならないな。


「よくも……!」


 巨人は憎悪に飲み込まれているのか、禍々しい顔でそう言い放った。

 巨人と言っても、15mの人間だと思えばいい。弱点は心臓と頭。アキレス腱や関節を狙うのもありか。


「ドラゴン、俺が奴を剣で狙う。お前は俺の足場として、サポートしてほしい」


「分かった、頼んだぞ」


 思い返してみれば、今までドラゴンのことを移動手段として使用していた。村の危機を救ってくれたこともあるが、ほとんどの戦闘では森に隠していたりと。今回初めての共闘となるが、果たして波長が合うだろうか。少しでもズレが起きれば、俺は命を落とす羽目になる。頼んだぞ……。






「そうは……させない!」


《巨人》


《巨人》


《巨人》


「うぉぉぉぉぉぉお!!」





 突如、奴の体が更に巨大化した。

 15mあった体も、50m超といったくらいに巨大化した。奴の着ていた服は全て破れて、髪の毛などといった毛は全て消滅。奴は正真正銘の巨人となっていた。

 股間に生殖器はついていないが、代わりに筋肉量が増加していた。明らかに戦闘に特化した体型とも言えるだろう。


「ぐぁぁぁぁあ!!」

 巨人となった影響か、奴は完全に言語能力を失い、喋るといった行為ができずにただただ叫んでいる。


 巨大化した……ということは、狙う的が大きくなったということ。奴の攻撃を躱しつつ、確実に攻撃を当てればいい。


「今だ!」

 奴の真上、俺はドラゴンから飛び降りた。


 狙うは……うなじ。脳と心臓には深く剣が刺さらないかもしれない。まずはうなじに刺し、神経を断ち切る。人間と同じ構造なら、ここを切ればほぼ終わりだが。


 2本の剣を奴のうなじに突き刺し、両手で強く握る。2本の剣で奴の身体にしがみついている状態だ。この剣が取れれば、俺はまた真っ逆さまに落ちる。


「ぐははぁぁあ……」

 奴もうなじの異変に気づいたようで、左手でうなじ付近にいる俺をはらおうとしてくる。が、動きが遅い。俺は剣を刺しては抜いて、刺しては抜いてを繰り返し、奴の右肩まで辿り着いた。

 奴もそれに気づき、顔をわざわざ俺の方に向けた。


 今だ、片方の剣を肩に、片方の剣を槍のように投げる。狙うは奴の目、目さえ潰せば身動きが取れなくなる。


「ぅううう……」

 よし、見事に奴の右目に刺さった。剣の回収は難しいだろう。肩に刺した1本の剣を抜き、肩から飛び降りた。下にはちょうどドラゴンがいる。


 奴は自身の右目に刺さった剣を抜き、その場で捨てた。そして、空中にいる俺らを殴り落とそうとしている。もちろん、動きは遅い。ドラゴンの速さで簡単に避けられる。


 この間に、地面に落ちた剣を取りに行く。ドラゴンには地面スレスレで飛行してもらい、左手で剣を取る。思った以上に連携ができていた。


「スカイ、奴の拳を躱すことはできるが……このままでは埒が明かないぞ」


 たしかに。このままではどちらかの体力が尽きるまで戦闘が行われる。現状、飛び続けているドラゴンが不利だろう。ドラゴンがいなくなれば、俺は無力化される。


「奴の拳が来たら、下に避けてくれ。俺は上に跳ぶ」


「了解した」


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「アレア、敵はいないか?」

 今、私たちは城の探索を行っている。城と言っても……ただの赤く染まった瓦礫の山。戦闘は、スカイとドラゴン様に任せておくとして、私たちができることは、城の探索だ。


 モンスターの殆どは瓦礫に埋もれて亡くなった。生き残ったモンスターは、今はあの巨人の周りを囲っている。現状、城の周りに生きているモンスターはいない。私の能力で探してもいない。この一帯は安全だ。


 瓦礫を退かすための機材が欲しかったが、ガイアが率先してやってくれている。そのおかげで私とアレアは捜索に集中することができた。


「ロック、こっちに……」

 アレアの声がした。が、どこにいるのかさっぱり分からない。下の方から聞こえるな。


「こっちに地下室があった」

 大発見だ。ライムートにある城だ、何が重要な情報が保存されているに違いない。我々もユー・エンドの地下に情報を隠していた。


 しかし、スカイが戦闘中だ。

 彼に万が一のことがあったら、助けに行くべきなのは私たちだ。私たちがここに居なくては……。


「ここは俺に任せろ、お前たちが地下室を見てこい。俺はモンスターのことが一切分からないからな」

 ガイアは私たちを地下室に行かせてくれた。彼なら安心だ。一方でアレアは不安そうな顔をしている。


 地下室には鍵がかかっているが、蹴りで無理矢理突き破った。


 中には誰もいない。警備の人間が隠れていると思っていたが、それも違ったようだ。念の為に構えていた剣と盾をまた背中に差した。


 中は薄暗く、蜘蛛の巣も所々に張られている。何年かぶりに人が訪れたぞ、というくらいに埃まみれである。また6人もの人が中に入れば呼吸困難になるという程、部屋は狭かった。


 2人で分担して、部屋中を物色した。中には『ライムート国の歴史誌』や『アミティエの歩み』等といった歴史的書物が多かったが、何冊かモンスターに関する書物もあった。


 例えば『モンスター地理志』では、どこにどのモンスターが生息するかがまとめられていたり、『ハルヒノデ伝』にはある人物が出会ったことのあるモンスターをまとめていた。どれもこれも、世間に流通している本ではない。これらは持ち帰ることにしよう。


 奥の方には『神話集』という本があった。開いてみると、三体の神が世界を統治する姿が描かれていた。雷・火・水の力を持つ神か、興味深い。これも持って帰ろう。


「怪しいな……」とアレアがボソッと呟いた。彼の所に向かうと、机があった。

 どうやら机の引き出しが怪しいとのこと。引き出しには鍵がかかっており、扉と違い蹴破るような真似はできないため、開ける方法を模索するしかない。どこかに鍵はないか……?


 鍵があるとしても、それはこの国の主であるマキシミが持っているだろう。だが、今のマキシミは裸同然。巨大化すると共に破れ散っていった服と同様に、鍵も散っていったに違いない。鍵は頑丈だからその場に残っているとしても、どちらにせよマキシミの足元、既に踏み潰されたはず。


 いや、地下室の中にある説を模索しよう。長い期間、この地下室に誰も入っていなかったとなると、地下室の中の鍵を持ち歩く必要性がない。地下室の存在を忘れていた? いや、それはないか。


 本を1冊ずつ確認する、もしかすれば鍵が挟まっているかもしれない。机を確認する、もしかすれば鍵がくっついているかもしれない。椅子も瓶も確認する、もしかすれば……無いか。


「あった!」とアレアが声を発する。正解は本の中、正確には本に見せかけた箱の中に鍵が入っていたそうだ。


「開けるぞ」


 ガチャガチャ……カチャン……


 この鍵で合っていたようだ。

 引き出しを開けると、そこには1冊の本が入っていた。地味な色をした表紙に、10cm程の厚さのある本。タイトルは『未来』と、実に淡白。


 今すぐ中身を見てみたいが、もうそろそろここを出ないとまずい。ドラゴン様やスカイに何かあっては……。

 本をまとめ、部屋から出ようとしたが、ここで壁に違和感を覚えた。この壁の向こうに、空洞らしき何かがある。


「どうした?」


「この壁の向こうに、何かがある」


「金庫か何かが隠されているのかもしれないな」


 そうとは言っても、この壁を壊す以外方法がない。壁はレンガでできており、素手ではとても壊せそうにない。空洞なら蹴破るか、いやそれにしても、もっといい方法があるはず。


 カチッ……

 何か踏んだか? 床を見ると、丸いスイッチがあった。このスイッチをもう一度踏むと、目の前の壁がくるりと回転し、通路が見えた。

 なるほど、壁に見せかけた回転扉か。


「入ってみよう」というロックの言葉に従い、入ることにした。


 通路は長く続いており、先が全く見えない。灯りを持ってくるべきだった。


「進もう」


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