第17話 ドラゴンの使い手
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赤い布切れをマントとして使うことにした。そのマントを羽織ると、いかにも自分が覇王にでもなったかのような気分になる。
「髪を逆立てた方が……そのマントには似合いますよ」と骨野郎は言う。何故この場面でそのような助言をしたのか分からないが、髪を留める布も無かったのでそのままにしておいた。
「では」
軽くお辞儀をし、俺は塔から逃げるように退出した。こいつからは、大量の殺気が感じ取れる。話していた時はそうでもないと思っていたが、別れ際から震えが止まらない。
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「そのマント、よく似合っている」とドラゴンにも褒められた。ありがたいありがたい。逆に弱者感が出ていないことを願うばかりだが。
「目的地はレインマークの中にある王城・ヴィエル城の屋上だ。入り口の先にすぐ螺旋階段があるはずだ、そこを降り……明らかに輝いている”一部屋”を探す」
城の立地や内部構造を俺は知らない。そもそも俺はレインマークに行ったことがない。なおさらその都市の中心部にあるとされている城の中身など知る由もない。何部屋あるか分からないが、その中から明らかに輝いている一部屋を探せ……とは至難の業である。
それならばドラゴンがその城に向かって体当たりでも何でもしてしまえば、大きな穴がぽっかりと空く。そこから一部屋を探す方が簡単である。多少の被害者は出るだろうが、こちらからすれば関係ない。
ヤツは反対するだろうが。
ヤツの背中に乗り、空に飛び立つ。雲と空の境界線ギリギリを飛行する。バサバサと翼を羽ばたかせ、真っ青な空を駆け抜ける。若干、寒いという感想の方が勝つが、それでも空気が美味い。つい最近、襲撃にあったばかりである。まともな水すら摂取できていない。純粋な空気すら吸えていなかっただろう。吸っていたのは、血の気混じりの薄汚れた空気である。この時間だけが、俺の唯一の休憩となるだろう。
バサッ……
バサバサ……
突然、ヤツは失速していった。目的地にはまだ到着していないはずだ。雲のある高さどころか、一般人に視認されてしまうくらいの高度まで堕ちている。
「急に……体が動か……な」
まずい、地面に墜落する。ヤツは長期の飛行に向いていないのか堕ちてゆく。助けようにも、この巨大な体を動かす術もない。ヤツの背中にしがみつきつつ、衝撃に備えるための体制をとった。
ズザザザザッッ……!!
派手な音と共に、墜落した。ヤツの背中にしがみついていたおかげか、大した怪我もなく無事に着いた。着いたと言っても城ではなく、何もない草原の上であるが。
辺りを見渡すと、遠くの方に城が見える。それがヴィエル城なのだろうか。その城を取り囲むように建てられたかのような、赤い屋根の家が幾つも並んでいる。その上、周りには単純に越えることができないくらいの高い壁もある。どうすればレインマークの内部に入ることができるのか。
さて、このドラゴンはどうするべきだろうか。目を閉じており、意識があるかどうかすら分からない。呼吸自体はしているようだが、無理矢理起こしたところで……自力で飛び立つが残されているようにも思えない。
「君はドラゴンの使い手かな?」
背後から声がした。振り向くと、そこには”黒ずくめの剣士”がいた。ヤツに聞いた特徴と一致している。全身が黒い布に覆われており、顔どころかひとつの皮膚も見えない。
ともかく村を襲撃したゴブリンを証拠隠滅のために斬った奴である。となれば、この黒ずくめの剣士はレインマークの役所の上層部と深く関係のある奴であることに違いない。
「安心したまえ、君のドラゴンは……この薬で眠らせただけだ」
奥に焚き火が見える。モンスター用の薬なのかドラゴン用の薬なのか、俺にも目の前の奴にも一切の効果を示さない。
腰に差してあった2本の剣を抜き、そして構えた。二刀流用の剣を使ったことは一度もないが、謎の自信に溢れている俺は、奴の細胞を殲滅する勢いで剣を振り上げつつ突進した。
奴も剣を抜き盾を構え、俺に対抗するほどの勢いで猛進した。
キンッ……!!
振り下ろした剣と盾が激しくぶつかり合う。奴の盾は硬い、逆に俺の剣は脆い。どちらが先に敗れるかなんて見当がつく。急いでもう片方の剣を相手に向けて刺そうとするが、それも剣で防がれてしまった。
力は俺の方が上だろうか、しかし装備品としては奴の方が上。この状態のまま押し切るようなことはできやしない。まして俺も奴も右利きなのだろう、左で持っている剣が押され気味である。このままでは、押し切られる側となるだろう。
俺に残されている武器は盾ではない、足だ。
左の剣が崩れないうちに、奴の股間目掛けて一思いに右足を蹴り上げた。
見事に命中し、奴は悶絶まじりの声を上げた。奴は剣から手を離し、剣とともに地面に落ちていった。この好機を逃がしてはいけない。
ガツン……!!
奴の顔面目掛けて右足で思いっきり蹴り上げた。顔面を狙ったはずだが、聞いたことの無い音が草原中に響き渡った。
奴が人間であるという確証もない、ドラゴンやスケルトンのように人間の言葉を話すモンスターもいる。器用に武器を扱っているとしてもだ。
奴に抵抗の意思が無いことを確認した後、肌を覆っていた黒い布を取ってみると、中身はただの人間であった。
男……いや、少年だろうか。身長を高く見せるためか、靴の底の高さも盛られている。剣を持つ手も小さく、顔も幼い。
「おい、起きろよ」
そう話しかけるが返事はない。死んだわけではない、息はしている。何度も顔をペチペチと叩くが、それでも反応はない。
仕方がない、後で尋問にでもかけることにしよう。尋問には慣れている……。
ん?
尋問には慣れて
いな
どうだ
何をして
いや
俺は、さいと
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