第11話 理由
----------
「この世界に人間が生まれた理由は、生物が進化の過程で”何かが起こった”からであるとされている。しかしモンスターが生まれた理由を、人間は知らないはずである」
多分そうだ。どこまでモンスターに関する研究が進んでいるか分からない。シアンさんやキミカさんも研究者としてモンスターを取り扱っているが、彼女らですら不明なことが多いと言っていた。
「この世界には不明なことが多い。実は私たちもどうやって生まれたかは分からない」
答えは、知らないのか。しかし、そう言われたところで俺が納得するわけがない。納得も何も、ヤツは”嘘をついている”目をしている。見たら分かるくらいに、目が泳いでいる。
「本当は?」と俺が聞くが、ヤツは無視してそのまま話を続けた。
「私がこの世に生を受けたのは、約700年前。そこから人間と共存していた。人間と共に生活し、人間と共に暮らしていた。私が同じ言語を話すことができるのも、この時の経験が生きている」
人間と共存していた……とは。確かモンスターは、友好的なモンスター以外は基本的には人間を襲うと書かれてあった。前に見た本にもそう書かれていた。ゴブリンも人を襲うモンスターとして描かれていた。
「そうだ、何かがあったのだ。60年ほど前になるが、ある日突然モンスターが迫害され始めた。今まで私たちを慕ってくれた人たちも皆、豹変したように剣を振りかざして来た」
ある日突然か。噂の広まるスピードはなめてはいけない。が、それにしても早すぎる。噂云々の話では無さそうだった。
そして60年前となると、村の村長さんは生まれているだろう。具体的な年齢は聞かされてはいないが、パッと見でも80歳は超えている。
「私が仲良くさせてもらっていた……グルム先生も豹変してしまった。今、何をしているのかは噂程度でしか知らないが……」
「モンスター間での噂の広まるスピードは速い。皆……人間から迫害され、住む場所も失った。村で暮らしていたモンスターは、深い森の中で暮らすようになった。その後、食糧不足となり……モンスター間で争いごとが起こった。生きるための最善策は、争いだった」
この前討伐した白蛇も、人を襲う目的で村に来た訳ではないのかもしれない。自身の子を守るために、または食糧を探すために森から出てきたのかもしれない。当時の俺はそれを知らずに討伐してしまった。
「最近、何者かが白蛇を殺したようでな。アイツは、子を守り立派に散っていった」
「で、その白蛇を殺したのが君だ。それは自覚しているだろう」
そこは覚えている。『長い物には巻かれろ』の如く、倒したことは覚えている。その時の手の感触も少しは残っている。
「そもそも、ひとりの人間如きに殺される訳が無い。我々の中では『最凶のモンスター』とも呼ばれていた位である。それをひとりの人間に倒されるはずがない……と疑っていた」
いや、間違いなく1人で倒した。ガイアさんは気絶していた上に、周りには俺しか居なかった。それくらい強いモンスターということなのだろうか。
「白蛇を殺せる力を持つ人間ならば、この変わってしまった世の中を変える切り口になると思ってな」
何故か俺が頼られているが、その理由が少しだけ分かった気がした。しかし、それとこれは別だ。
「そこでその現場を見ていた”白蛇の子”と”ホブゴブリンの子”と共に、その白蛇を殺した人間を探すことにした。案外近くにいた訳だが、ここで突如ホブゴブリンの子と連絡が取れなくなってしまった。そこから1回も会ったことがない」
「白蛇を殺した人間が、ストラート村に住む人間と分かったところで、どうここまで連れてくるか悩んだ。まぁ隣の村でドラゴンが暴れ回っているという設定を作れば、正義感が強い君たちなら来るだろうと予想した。結果、来た訳だが……」
ステラ村の建物は、俺を誘き寄せるためだけに焼かれたらしい。
「普通に俺を呼べばよかったのにな……」とつい声を漏らすと、ヤツもすぐさま反応を見せた。
「君の村には近づき難い、白蛇の子だろうと殺害されてしまう可能性だってある。それに……グルム先生が居るとも聞いたしな……」
グルム先生……ってもしや、村長のことだろうか。先の体験談上、そういうことになるはずだ。他に目立ったご老人は居なかった。
「非常に申し訳ないことをした。そして更に申し訳ないが、追加でお願いがある。聞いてくれるか?」
聞くだけなら……としたいが、正直ここまで言われたらやらざるを得ないだろうな……と考える。
「モンスターを迫害するようになった理由が知りたい。噂にしては全員一気に豹変するなど有り得ないだろうし、他のモンスターが何かをしでかしたのならば……。今更元の生活に戻してくれとは言わないが……」
「やるか……」
隣から声が聞こえた。いつの間にか……ガイアさんが目覚めていた。ヤツと俺のみで話していたはずの会話が全て漏れていた……のか。
「ドラゴンの声が大きすぎてな……。それより、話はほとんど聞かせてもらった。俺でなくスカイと2人だけで話したいとかな」
結構序盤の方から聞かれていたようだ。
「お前の事を信用している訳ではないが、モンスターが迫害され始めた理由も気になってな。村長の話と照らし合わせてみるとそ--」
「村長の話があるのか?」
ヤツはいつも以上に大きな声を出した。近くにいた俺たちは耳が破れそうなほどであった。
「あの方は……元々討伐者だった。その前の職業はよく知らないが、モンスターに関する職業だったらしい。詳しく聞いてはみたが、『記憶にない、分からない』とのことだった。今思えば、違和感があるな……」
記憶にない、分からないとあの村長が言っていたとなると、記憶を改竄された可能性がある。老人ゆえの記憶障害の可能性もあるが、記憶改竄説の方が可能性としては高い。または洗脳か。
そのことを彼らに伝えると、ガイアさんは立ち上がってこう言った。
「記憶改竄とか洗脳がどうたらこうたらなんてよく分からないが、レインマークの役所にだったら記録ぐらい残っているだろう。ステラ村を燃やしたのは許せないが、修復作業を手伝ってくれるのなら……教えんでもない」と。
「誠に申し訳ないことをした。これは私からの御礼だ」とヤツが言うと、そのヤツの翼の近くから……小さな白い蛇が出てきた。これが白蛇の子供か?
そう考えている内に、その白蛇の子が小さな盾を身体に乗せていることに気がついた。
「この盾は何ですか?」と俺が聞くと、「聞かれるのを待ってました」と言わんばかりの態度をヤツはしていた。
「この盾は、彼……グルム先生から”友情の証”として頂いた物だ。人間でない私が持っていても仕方がない、ここは君たちに渡そうと思っている」
渡されたのは、円形の盾。どちらかと言えば”円盤”に近い形をしている。これで物を防ぐことはできるのか。
それはさておき、大切な友情の証をまんまと俺たちに渡してしまっていいのか……と考えたが、ヤツは受け取ってほしそうに俺たちのことを見つめている。
俺たちはその盾を受け取った後ヤツに頼み、村の近辺まで連れてってもらうようお願いをした。
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます