第10話 存在
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「グラァァァ!!」
何とか馬に乗ることができた俺たちは、村からドラゴンを遠ざけるために、とにかく来た道を戻る。
ヤツは咆哮を上げつつも、俺たちのことをまだ視認しているのか追いかけてきている。燃え盛っている村の近辺の方が人は多いはずだが……。やはり、このドラゴンには……紛れもなく知性がある。
「スカイ、ちゃんと前見ろ!」
彼に怒鳴られてしまった。今は目の前のドラゴンと、目の前の道をしっかり見なければならない。その上で、作戦を練るべきである。そのことは一目瞭然ではあったが、どうも一度深く考えてしまうと、そのまま考えることのみに神経を使ってしまうようだ。
この隙にも、俺はまた深く考え込んでしまっている。
「スカイ、おま……」
バタッ……
ガタガタン……
前を見ていなかった俺は、小さい岩に衝突してしまった。そのせいで、乗っていた馬も正面から衝突してしまっている。全速力で走っていたこともあってか、馬は顔から血を出しその場で倒れている。
で、俺はその衝撃で前に押し飛ばされてしまった。幸い、岩に頭をぶつけることはなかったが、足を思いっきり岩にぶつけた。ヤツを目の前にこの怪我は大きい。
「痛てぇな」
俺も思わず声が出てしまった。普段から怪我には敏感でない。少しの怪我なら、血が出ていても気づかないくらいである。しかし、その俺が反応するくらいの痛みが生じている。
両手足とも骨折はしていないはずだが、右脛の一部は少々えぐれてしまっている。血は止まらず、辺りの草を赤く染めてゆく。
「大丈夫か?」
背後から大きな声で心配された。
声質的にガイアさんではないことは俺でも分かる。では誰だ。村人か、村人なら全員向こうに置いてきたはずだが。
膝を地面につけながらゆっくりと背後を振り返ってみると、そこにはドラゴンが目の前にいた。ヤツは飛んでいたはずだが、何故か翼をしまって、地面に降り立っていた。
ガイアさんは迅速に馬から降り、突然剣を抜き出した。彼はグリップを強く握りしめ、目の前のドラゴンに剣を向けている。
「スカイ、立てるか」
この声は彼の声だと分かる。
「このドラゴン……喋ったな。『大丈夫か?』ってな……」
やはりか。先の声はドラゴンの声だったのか……と、簡単に理解出来るわけが無い。モンスターが俺たちと同じ言語を話すわけがない。
確かに普通の人では有り得ないくらいの、大きく響く声だった。そもそもモンスターが……。
「すまない。つい言葉が出てしまった」と、またヤツが呟く。
目の前であのドラゴンが俺たちと同じ言語で喋っている。これだけでも気を失いそうにはなるが、その上俺のことを心配しているような素振りをヤツは見せていた。
「貴様……あの村を焼き尽くした責任を取ってもらおうか……」
彼はドラゴン相手でもガツガツと詰め寄っていく。その距離で火でも吐かれたら即死間違いなしであろうが、ヤツは火を吐く様子もなく、その場で萎縮している。
「すまなかった……」
先までステラ村を火の海にさせていたはずのヤツは、中身が入れ替わったかのように反省の色を見せていた。が、それで許されるはずもない。
「何故貴様はあの村に火を放った?何故謝る?」
と彼は態度を変えずに詰め寄る。ヤツはヤツで申し訳なさそうな態度のまま萎縮していた。
「ここで話がしにくい……私の背中に乗ってくれ」
ヤツはそう言った。
信用のない者の背中に乗ることはできない。その上に先まで村を破壊していた、人ですらないドラゴンの背中に乗れとは……。
おそらくだが俺たちを乗せたまま、どこか遠くまで飛んで連れていくつもりだろう。または、上から振り落とされる可能性がある。
が、ヤツが嘘をついているようにみえない。
何故だろう、自分自身何故そう考えるのか分からないが、俺には洞察力が人並みにはある。
そのため、ヤツが頭が良いのも何となく分かる。ここで俺たちを振り落とすようなことはしないだろう。そしてヤツが、俺たちに何かを伝えようとしているのは明白だが、その内容もまた重そうである。裏を感じつつある。
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「2人しか居ないが……大丈夫か?」
「あのガイアさんがいるから大丈夫だ。もう片方の青年はよく分からんが……」
バサッ……
「おい……ドラゴンが飛び立つぞ! 彼らは大丈夫なのか……?」
「分からない……行ってみるべきか?」
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「ここは……?」
目を開けただけで、塔の頂上にいることが分かった。風は吹き荒れており、何よりも寒い。真っ黒な雲も目の前にあり、少し呼吸もしにくいくらい高い場所であることは誰にでも分かる。
「すまない」
背後から大きな声が聞こえた。ドラゴンの声か。横には彼もいたが、まだ眠っているようだった。起こそうとしたが、何故かヤツに止められた。
「君と2人きりで話したい」とのこと。
「まだ俺はお前の事を信頼していない」と俺は強く睨みつけながら言うが、ヤツはそのまま話を続けた。
足の傷はいつのまにか治っていた。ヤツに聞くと「魔法を使った」と言うが、嘘をついていることは容易に分かる。
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「君はいつ生まれたのか?」
ヤツにそう質問された。質問に答えないようにしようと考えていたが、それでは話が進まない。もう率直に答えることにした。
「俺は記憶喪失だ。生まれた場所も、年齢も、名前も全て知らない。それより、何故お前はあの村を火の海にした?」
「それは……すまなかった。村人は全員避難させたがそ--」
村人は避難させた? このモンスターがか? 火の海にさせといて何を言っているのか、さっぱり分からない。
「まずは……何故モンスターが存在するのかから話してもよろしいか?」
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